第5話

「あーークソッ!!!」



ある日、歩が相当機嫌を悪くして帰宅した。


「……どうしたの?」


僕は、薄いカーテンで仕切られた「隣の部屋」から聞こえてくる怒号に対してそう問いかけた。



「……おい裕樹……俺が女子に振られるって、考えられるか?」


「え?」


「俺が女子に振られる理由だよ!!……今日、人生で初めて振られたわ…」




カーテンから顔を出した歩は、怒りのあまり目を充血させながら僕に話す。



その勢いは、まるで僕に向かって鋭利な何かが刺さってくるかのようだった。



「歩が振られる理由…?僕には思いつかないな……」


「だろ!?お前みたいなやつならともかく、何で俺が振られるんだよ!!」


「何でだろうね……でも……」



僕は歩の怒りを鎮めるように、努めて落ち着いた声を出す。



「歩の良さに気が付かなかった女子なんて、歩にとっては『いらない』んじゃないかな…?」



僕の言葉に、歩は一瞬目を見開いた。



「…ああ……そうだな……そうだよな…俺の良さが伝わってない女とか、こっちから願い下げだわな!!」



自分なりに納得したのか、歩は勢い良くカーテンを閉めて自分の部屋に戻っていった。

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