第17話 スペイニ国王の末路 / マドリンの面倒をみるアルバート
♦♢オリバーside
オリバーは再び城に戻ると、
「こ、これは……酷いな。スペイニ国王にやられたのか?」
黙って頷く女性たちの中に、特に衰弱した様子の女性が一人いた。彼女の腕や足には、深い痣や傷が目立ち、その痛々しさが彼女の状態を物語っていた。
「その子はラクエルよ。妹のことをいつも案じていて、スペイニ国王に何度も帰らせてくれって頼むものだから、よく殴られていたわ。あの男は女を殴るのが大好きなのよ」
「妹の名前は?」
「マドリンよ。両親が亡くなって、自分が母親代わりに育ててきたって。親戚もいないから、きっとひとりぼっちで困っているに違いないわ。もしかしたら、もう餓死しているかも……」
「それなら、大丈夫だ。今はローマムア帝国にいるし、なんとしても命は助ける。そのために、僕がここにいるんだから。そう、たくさんの命を救うために、僕はここに来たんだ」
オリバーは自分に言い聞かせるように、そうつぶやいた。
オリバーの声にラクエルは目を開く。
「……マドリンは……生きているんですね?」
「あぁ、生きている。話せば長くなるが、絶対に君の妹は守ってみせる。もう、だれも悲しませたくないんだ」
オリバーの声は自信に満ちていた。ラクエルは安心したようにホッと息を吐いた。彼女の地獄の日々は終わったのだ。
翌朝、オリバーはスペイニ国王を放置した広場に向かった。そこには、多くの民から怒りの鉄拳を浴びせられ、顔を倍に腫らせて転がっているスペイニ国王たちの姿があった。鼻の骨は折れ前歯はすっかり欠けていて、もはや誰だかわからないほどである。
「みんな、これでも手加減したんです。この男たちはローマムア帝国に連行するんでしょう? だとしたら、アレクサンダー皇帝陛下がきっと相応の罰を与えてくださる。おいらたちは、そう思ったんです」
「そうだよ。俺たちを散々苦しめた奴らです。簡単に殺したらもったいない。充分に反省してもらいたいです。アレクサンダー皇帝陛下は冷血皇帝と噂されるほどだ。きっと、納得できる刑を執行してくれますよね」
広場にいた民たちがオリバーに期待するような眼差しを向けた。彼は深く頷き、スペイニ国王に向かって吐き捨てるように告げた。
「ここで死ねなかったことを、お前たちはきっと後悔するだろう。アレクサンダー皇帝陛下は慈悲深い方だが、皇女殿下のこととなれば容赦はしない。おそらく、お前たちは死を願うほどの罰を受けることになるだろう」
スペイニ国王たちは恐怖に打ちのめされ、震えながら許しを乞うのだった。
♦♢ビクトリアside
「両親が亡くなってから、私の姉は必死になって私を育ててくれたの。だって、スペイニ国は本当に貧しいから、私たちは姉妹で支え合って生きてきたのよ。なのに、ローマムア帝国の騎士がやって来て、ニヤニヤしながら姉をさらって行ったの。ローマムア帝国は本当に最低よ」
アルバートの手伝いをしながら、マドリンは同じ言葉を繰り返していた。
その頃、アルバートは自身の働きぶりを宮廷庭師長に認められ、皇宮専用の庭資材や肥料、特注の鉢や装飾品を受け取りに、指定された工房や資材店に行く用事も任されていた。そこで、アルバートは
彼女に現実を見せるためだった。アルバートは落ち着いた口調で、マドリンに説明を始めた。
「この街を見てごらん、マドリン。道は石畳で整備され、街角には美しい噴水があって、夕方になると広場は賑やかで活気に溢れているだろう? 市場には新鮮な食材も揃っていて、人々はそれぞれに余裕のある暮らしを楽しんでいるんだ。こんな国で、わざわざ他国を略奪する必要なんて、誰も感じていないのさ」
その言葉に、マドリンはハッと気づいたように視線を落とした。帰り道、彼女はずっと何かを考え込んでいた。
「でも、下級騎士たちは貧しいでしょう? スペイニ国の騎士たちはみんな貧しくて、食べていくのがやっとだって聞いたことがあるの」
マドリンの頭の中では、さきほどの会話がずっと繰り返されているようだった。
「スペイニ国のことは詳しく知らないけど、僕がいたフリートウッド王国の下級騎士たちの俸給は、年400万リラ(1リラ=1円)だと聞いたことがあるよ。このローマムア帝国ではもっと高いはずさ。それにここでは、騎士たちの住居は国が安く貸し出しているらしい。アレクサンダー皇帝陛下はとても慈悲深い皇帝だと、皆が口々に言っているよ。実際、僕たちが仕事をしている時も、気さくに声をかけてくださるだろう?」
「それが本当なら、私の姉さんを連れ去ったのは誰なの? おかしいじゃない」
「確かにおかしいわよね。でも、もうじき真実がわかるはずよ。オリバー様がこちらに向かっているという知らせがきました。ローマムア帝国騎士のふりをしていた男たちとスペイニ国王も一緒らしいわ。それに、マドリンのお姉さんもいるのですって。ラクエルという名前で間違いない?」
アレクサンダーと
「はい、ラクエル姉さんです」
マドリンは嬉しさのあまり、思わず涙を流した。その瞬間、皇宮にオリバーたちの帰還を知らせる荘厳な角笛の音が高らかに響き渡ったのだった。
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