第15話 黒幕はスペイニ国王

 ♦♢オリバーside


 オリバーは城の外壁に隣接する荒れた裏庭から、使われなくなった荷物口を通じて王宮へと潜り込んだ。帝国の精鋭部隊の男たちも後に続く。

 スペイニ国は、怠惰な王の統治によって国土が荒れ、民は貧困にあえいでいた。宮殿もまた手入れが行き届かず、衛兵の巡回もまばらである。そのため、宮殿内に足を踏み入れるのは予想以上に容易だった。

 やがて、彼らは使用人用の制服やコックのエプロンが保管されている部屋を見つけ、そこでそれぞれ服を手に取り、変装を整えた。


 オリバーは給仕の役を演じるために使い古された制服に袖を通し、同じく変装を終えた精鋭部隊の男たちを引き連れて先へと進む。闇に紛れ、油断しきった衛兵の隙を突きながら、豪華な食堂へと忍び寄った。


 時刻はちょうどディナーの時間である。食堂の入口から様子を伺ったオリバーは、目の前に広がる光景を見て思わず顔を曇らせた。そこでは贅を尽くした料理を目の前に、スペイニ国王がふんぞり返って食事をむさぼっていたのだ。貧困にあえぐ民を気にも留めず、贅沢に耽るその姿に、オリバーは内心で怒りをかき立てられながらも冷静に様子を窺っていた。


 「おい、そこの給仕! 肉も魚も足りないぞ。もっと、たくさん持ってこい!」

 でっぶりと太った身体に豪華な衣服を纏ったスペイニ国王は、頬がパンパンに膨れていたし血色もとてもいい。


 ーー明らかに食べ過ぎだぞ。スペイニ国の民たちのなかには餓死する者も少なくないのに……


 オリバーは厨房から肉や魚をさらに運んだ。スペイニ国王は高価な酒を飲みながら上機嫌だった。


 「ローマムア帝国の皇女が毒薬をかけられただと? それは面白い。実行犯は我が国の民? なかなか楽しい展開になってきたな。若き冷血皇帝はもちろんその者たちを厳しく罰するはずだ。ますます、我が民のローマムア帝国への反感が募るぞ」


 そう言って喜ぶスペイニ国王に報告をした騎士たちの顔を見たオリバーは、どこかで見覚えがあることに気づいた。それは、ローマムア帝国風の騎士服を着て悪事を働いていた者たちだったのだ。


「しかし、もし戦争になれば、我が国はひとたまりもありません。騎士たちの数や戦闘技術において、ローマムア帝国には到底敵いません」


「ここは痩せた土地ばかりで、贅沢などできぬ。未練はないわい。ローマムア帝国に攻め込まれたら、余は異国に亡命するつもりだ。戦うのは、ローマムア帝国に不満を抱く民たちで十分であろう。まぁ、互角に戦えるとは思わんがな」


「でしたら、俺たちも一緒に連れて行ってください。ローマムア帝国の騎士たちとは、とても戦えませんから」


 ーーなんという無責任さ……国王でいる資格はまったくないし、あの騎士たちも同罪だ。


 「しかし、あのアレクサンダー皇帝は絶世の美男子だと聞いた。とすれば皇女も素晴らしい美人なのだろう?」


  騎士のひとりが、記念皿を国王に差し出す。


 「ほぉ、たいした美人だ。毒をかけるよりもスペイニ国に拉致して奴隷にすればよい。余がじきじきに可愛がってやるのだがなぁーー」


 オリバーは必死に我慢し、給仕のふりを続けた。精鋭部隊は、厨房の水瓶に眠り薬を仕込む。着々と断罪の時が近づいているのも知らず、スペイニ国王はふんぞり返って笑う。


 「皇女を拉致してきた者には、褒美をやろう! ローマムア帝国風の下級騎士服はかなり在庫がある。あれを使ってローマムア帝国の皇宮に忍び込めるぞ」


 ーー自国民を騙し、そのうえ僕の最愛を害そうとする極悪人め!


 やがて、スペイニ国王とその周りにいた男たちは、次々と倒れていった。そして……


 


 

 


 

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