第12話 皇女を庇うオリバー / ここは地獄

  🌺これ以降、俯瞰視点で書いていきます。


 ♦♢オリバーside


 

 かつて、ローマムア帝国では双子は不吉な存在とされ、民は長らく双子の存在を隠してきた。しかし、4年ほど前から預言者や占星術師たちの間で双子への見方が変わり始め、むしろ繁栄をもたらす象徴として双子が受け入れられるようになった。


 この新しい時代を切り開いたのは、冷血皇帝と噂されながらも民衆を守り抜いたアレクサンダーだった。彼は帝国の繁栄と民の生活を守りつつ、古い迷信の影響を少しずつ薄めていった。

 そして、かつて双子の子を隠していた家族たちはその偏見から解放され、堂々と世に送り出せるようになった。アレクサンダーは、双子の子供たちや彼らの家族に対し、偏見の時代に苦しめられたことへの謝意を示し、特別な補償制度を設けた。民たちはこの改革を歓迎し、皇帝への信頼は揺るぎないものとなっていった。


 そうした中、ある知らせが帝国中を駆け巡る。なんと、アレクサンダー皇帝に双子の妹がいることが公示されたのだ。皇女は異国で育てられたが、このたびローマムア帝国へと帰還したという。この発表により、民は大いに驚きつつも歓喜した。双子が幸福と繁栄の象徴とされた時代の流れに乗り、「皇帝の双子の妹」という存在は国にさらなる栄華をもたらす吉兆として歓迎されたのだ。


 街には早速、皇女の肖像が描かれた記念皿やペンダントが並び始めた。豪華な衣装に身を包み、上品な微笑みを浮かべる皇女の肖像が、記念皿やティーセットにあしらわれ、風に揺れるペンダントは光を反射し、まるで彼女の帰還がもたらす希望を照らしているかのようだった。亡き前皇帝と皇太后、そして現皇帝であるアレクサンダーの姿を刻んだ絵皿や葉書セットも店先に並び、貴族だけでなく庶民の間でも記念品として人気を博していた。




 オリバーは記念皿をしげしげと眺めながら、皇女の顔に見覚えがあるような気がして心をざわつかせていた。


「どうだい?  ローマムア帝国の皇女様は美しいだろう。今日は皇女様の誕生日だから、街中がこうして賑わってるんだ。まもなく、大通りを皇女様の馬車が通る。街全体で祝うパレードさ」


 通りには祭りの飾りが所々に掲げられ、人々は色とりどりの衣装を身にまとい、楽しげに笑い合っていた。屋台からは甘い香りが漂い、街全体が一体となって皇女の誕生日を祝っているのだった。


「本当に華やかだな。皇女様は今までどちらの国にいらっしゃったんだ?」

「それは明かされてないよ。皇女様も親元を離れ、お寂しかったに違いない」


 オリバーは店主の話に頷きつつも、皿に描かれた皇女の肖像から目が離せなかった。その表情、柔らかな瞳の輝き、全てが彼の心を掻き乱す。その容姿は、亡くなったと思っていた彼の知る女性と瓜二つだったのだ。


「まさか……アグネス?」

 彼は動揺を隠せず、胸が高鳴るのを感じた。記念皿の中の皇女は微笑みを浮かべ、今にも語りかけてきそうだった。


 オリバーはふと、アグネスの遺体が見つからなかったことを思い出す。


 ーーアグネスは生きているのか? それとも、これは他人の空似か? 僕は……彼女に会わなきゃならない。


 オリバーは心の中でそう呟き、パレードが行われるという大通りに向かった。そこは皇女の誕生日を祝う人々で溢れている。人々の歓声が響く中、ちょうど豪華な馬車がゆっくりと進み、皇女が穏やかな微笑みを浮かべながら手を振る様子が見えた。その姿は気品に満ち、どこか神秘的な雰囲気さえ漂わせていた。


 オリバーは遠くからその馬車を見つめ、胸が高鳴るのを感じていた。記念皿で見た姿と同じ、いや、それ以上に生き生きとした彼女がそこにいた。しかしその時、群衆の中で不審な動きをする集団が視界に入る。スペイニ国で見かけた男たちが、小さな少女に何かを手渡し、馬車の進行方向に急かしているように見えたのだ。


「しまった……あれは、過激派の連中だ。まずいぞ、早く止めなければ」


 オリバーは人波をかき分け、急いで皇女の馬車へと向かって駆け出した。しかし、時すでに遅く、花束を抱えた少女が皇女の馬車の前で叫び、馬車の馬を止めさせた。


「皇女さまぁーー、お誕生日おめでとうございます! 花束を受け取ってください」

 少女が震える声で花束を差し出すと、皇女は優しい眼差しで彼女に微笑みかけ、手を伸ばして受け取ろうとする。


 その瞬間、少女の背後にいた男たちが袖口から小瓶を取り出し、素早く開封すると、怪しげな液体を皇女のいる馬車に向かって振りかけようとした。


「やめろっ!」


 オリバーは全速力で飛び出し、間一髪のところで皇女の前に立ちはだかった。液体が飛び散り、彼の腕と肩にかかった。


「くっ…!」

 


 

 


 ♦♢ガッシー(元モーガン男爵)side



 いっぽう、皇宮の屋根ではガッシー元モーガン男爵がまたもや足を滑らせて、命綱が今にも切れそうなところを監督官に引き上げられていた。おかしなことに前回と同じように地上に降ろされて、再度いちから屋根に登らされる。


 ――よく考えたら、せっかく屋根に引き上げてくれたんだから、そのまま修理作業を続けさせてくれればいいじゃないか。なんでわざわざ一度地上まで降りる必要があるんだ?


 ガッシー元モーガン男爵はそこで悟った。これは明らかに自分に対する処罰の一環であり、死ぬほどの恐怖を何度も味わわせるための罰なのだと。梯子をなんども往復させられるのは、そういうことだ。


 ――あぁ、それならいっそ、ひと思いに処刑されていたほうがマシだった。


 ガッシー元モーガン男爵はそう心の中でつぶやいたのだった。




 •───⋅⋆⁺‧₊☽⛦☾₊‧⁺⋆⋅───•

 前話の訂正とお詫び


 前話の元モーガン男爵の部分ですが、

 やっと、引き上げられて地面に足をつけた時、私はふらつき膝から崩れ落ちた。→やっと、引き上げられていったん地上へと戻された。地面に足をつけた時、私はふらつき膝から崩れ落ちた。

 のように修正しました。

 すみません🙇🏻‍♀️


 誰の話か一目でわかるように、文の前に○○sideのように明記しました。ちなみにガッシーは元モーガン男爵の名前です。ルビで上に記載しました。

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