第9話
カーティスが口を真一文字に引き結んだまま、目だけを大きく見開く。いわゆる鳩が豆鉄砲……って感じの表情だ。うんうん、まあ初めはそうなるよな。今の俺の言葉だけじゃ、どういう理屈で初体験しても将来現れるだろう好きな相手に操を立てられるのか、イマイチよく分からないだろうからな。
「えっ……ど……は……?」
「驚いているところ悪いが、時間がもったいないからサクサク説明させてもらうぞ? 娼妓ではなく俺がお前の相手役をする事で、概ね次のようなメリットが見込める。1つ目。カーティスは俺と長く一緒に居て俺の存在に慣れてるてるから、気心知れてる分初対面の娼妓相手にする時みたいに緊張しなくていい。2つ目。俺ならカーティスの事色々わかってるから、お前の様子を見つつペースを合わせる事が簡単。本当に無理な時も止めやすい。3つ目。俺は男だから女を相手にしなきゃいけないってプレッシャーはかからないし、男同士体の事もちゃんと分かってるから、遠慮や恥ずかしさなんてのも多少は考慮の対象外になる。そして最後。俺を相手にしたら、カーティスは好い人に対して操を保ったままで居られる! これが一番のメリットだな!」
「な、何で……その事を……」
「ん? 何でって、だってよく言うじゃないか。男同士でやるならノーカンだって。お前も俺も男だし、犬にでも噛まれたと思って経験に数えこまなけりゃいいんだよ」
「……えっ?」
あれっ? なんでカーティスはキョトンとそんなに驚いた顔して固まってるんだ? 質問に対して答え間違えたか? それともあれか? 男同士は経験数に含めないって説、初めて聞いて驚いたとか? うん、こっちの方が有り得るな。だってカーティスはこれまで狭い世界の中で情報をほぼ遮断されながら生きてきたみたいだもんな。そりゃあ知らなくても仕方がないか。
「後の問題はカーティスがここの所兄弟みたい仲良くやってた俺と寝るにつけて、擬似的にに近親相姦してるみたいな気分になってしまって拒否感を覚えないかだが……。どうだ? できそうか?」
「で、できるも何も……先ず大前提として、僕の為だけにオリバーさんに負担をかけてしまうのは申し訳ないというか……。それに、男同士でやるなら色々と準備も必要でしょうし、直ぐにはできないんじゃないんですか? 今は時間もないし、また別の方法を考えた方が……」
「ああ、そこら辺は心配しなくていい。俺、慣れてるから」
「へっ? な、慣れてるって」
「あれ? 若しかしてしらない? 俺、世間では結構なプレイボーイで有名なんだぜ?」
ピシャーン! まるでそんな轟音と共に頭のてっぺんに特大の雷が落ちたみたいな様子で、カーティスが驚く。えー、そんなに驚く事か? まあ、カーティスの前では比較的そういう事は匂わせず、ただの気のいいお兄さんだったかもだけどさぁ……。俺を語る上であちこち遊び歩いている遍歴は、忘れちゃならないぜ?
とは言え直接性的な事にまでは簡単には及ばないようにしているので、病気とかも貰ってないし、隠し子もいない。身綺麗なもんだ。知識は有るけど、それはただ耳年増なだけ。ほら、オッサンオジサンって男同士で下ネタ語り合うの好きな人たまに居るじゃん? 後は経験豊富な未亡人に愛人とのプレイの愚痴を聞かされたりとかで……。だから、そういうので聞き齧っただけで実施経験はあんまないんだよね。
それでも、初めては好きな相手に捧げます! とか宣言しちゃうくらいピユアッピュアな純情ボーイのカーティスには、俺がプレイボーイだって事は受け入れ難かったかな? これでカーティスとの間に距離ができちまったら、流石悲しいかも……。まあ、今は驚き過ぎてそれどころじゃないみたいだけど。
「それとな、男同士でやろうとするとヌキっこだけで終わらせる方法もあるけど、折角1度経験しとくなら最後までやっちまった方がお得だよな? だからお前に突っ込ませてやろうと思うんだけど……男同士だと、ケツの穴に突っ込まなきゃいけないんだ。勿論俺は病気とか持ってないし、後ろもちゃんと清潔にするけど、でも生理的嫌悪感はどうしようもないだろう? だから、カーティスがそこら辺気になるならこの作戦は止めとくけど……」
「えっ? は、入るんですか? 後ろに? その……いわゆる、男の象徴ってやつが? そんなの物理的に可能なんですか……?」
「普通は入らない。でも、俺は入る。だって開発済みだから」
ピシャーン! 雷、二激目! カーティスがなんとも言い表し難いよく分からん複雑な表情を浮かべる。そんな目で俺を見るなって。仕方ないじゃん、特に金払いがいいパトロンのマダムに、男に張り型突っ込むのが趣味の人が居たんだもん。で、どうしてもお金に困ってて大金が要る! って時にお金をもらって代わりにちょっとケツを差し出したら……案外これが良くってさぁ。マダムが慣れてて手際が良かったのもあるかもしれないが、俺も後ろでの快感に嵌っちまって自己開発を重ね、今ではすっかり後ろも使える体になったんだ。まあ、言うて突っ込むのは玩具ばっかで、他人を迎え入れた事は一度もないけれど。
「か、開発済み……オリバーさんは、プレイボーイで、開発済み……」
おい、改めて口にするな。他人の言葉で客観的に自分の現状を聞くと、途端に小っ恥ずかしくなるじゃねぇか。言っとくけど、俺は放任されてるだけで、奔放な訳じゃないからな? 確かに気持ちいい事は好きだけど、性欲はコントロールできてるし、これまで他人に迷惑をかけるような放蕩はした事がない。一応の節度はちゃんと守ってるんだ。
さて、この俺の申し出に、カーティスはどう出るか。ここまでお膳立てはしたが、それでも最後の決定をさっきのようにカーティスの意志を無視して無理強いするつもりはない。とてもデリケートな問題だし、俺もカーティスに無理を言うのはもう懲りた。だから、これからどうなるかは全て、カーティスの胸先三寸なのだが……。
「で? どうする、カーティス? やるか? 止めとくか? どっちにするにせよ、俺はお前を応援するぜ?」
「……オリバーさんは、その……。これまでも、こういう事を何度かしてきたんですか?」
こういう事? こういう事って? ああ、セックスの事か? そりゃあ俺だって今どきの若い男だし、何より伊達に名うてのプレイボーイだなんて言われちゃいない。セックスくらい経験はある。男も女も、両方。全部突っ込む側だったけど。
「そりゃあ、あるさ。そもそもそういう経験がなく知識が浅かったら、男同士でやるなんて発想もなくて今回の作戦なんて思いつきもしなかったろうよ。でも、それがどうかしたのか?」
「そうですか、何度も……。分かりました。僕自身もその大勢の中の一人になるのは癪ですが、だからと言って僕の知らないあなたを、他の誰かがよく知っているというのはもっと嫌だ。その計画、乗ってやろうじゃないですか」
俺の問いかけは聞き流されてしまったらしく答えて貰えなかったが、それでもカーティスから計画実行の承諾は得られた。何の気なしに聞いた質問の返事等なくてもどうでもいい。カーティスの口にした言葉の意味もちゃんと理解するより先に、提案を了承してもらえた興奮で流れていく。それよりも、一先ず最初の難関突破だ。しかし、本当の難所はまだこれからいくつもある。それ等を乗り越えない限り、本当に安心などできない。
「おお、そうか! よく決意してくれた! それじゃあ、隠れ家に戻ったら、早速準備を進めてもいいか? こういうのは間を置かない方が覚悟が鈍らなくていいかと思うんだが、逆に心の準備が必要なら時間を置いてもいいぞ?」
「いえ、帰り着き次第準備を進めていただいて構いません。心の準備はもうとっくにできてますし、時間は有限です。後顧の憂いは早急に断つに限ります」
そう言って俺に向かって微笑んで見せたカーティス。何故だろうか。笑っている筈のその表情がどこか、仄暗くみえたのは。しかしそんな僅かの疑念も、目前に迫る行為に対する緊張や、その為に必要な諸々の準備や手配に気が回って、そうと気が付く間でもなく無意識の内に頭の中であっという間に薄れて行ったのだった。
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