第6話 魔王、友達ができる。
「私
ルティアと別れた後、俺は2階の廊下を歩いていた。
どうやらこの学園は育成組 (10歳から12歳)は2階、精鋭組(13歳から15歳)は3階に分けられているようで、11歳の
育成組ってなんだよ。なんで俺が育成されないといけないのだ?
さっさとこんな場所を抜け出して、勇者を殺しに行きたいのだが、
「エナのやつが……厄介だな」
学園をサボって家に帰ったところで、エナに叱られるだけだ。
エナのお仕置きだけは避けたい。げんこつと側頭部をぐりぐりってされるやつは痛くてかなわん。
「……はっ!ま、まさか怯えているのか……?エナに?」
何度もお仕置きで完膚なきまでにやられて、もしかして弱気になったというのか?
「……いやいや!そんなはずない。俺は最強と呼ばれた魔王だぞ!あんな小娘ごとき俺がその気になれば一瞬で抹消できる……決してビビってなど……」
「俺はビビってない!」と何度も言い聞かせていると、
「ユウ殿覚悟ぉぉぉ!」
「ぐはっ!」
後ろから誰かが俺に向かって突進してきた。いきなり背中を抱きつかれた俺は抵抗できずバランスを崩して、そのまま床に倒れ込んでしまう。
「くーくくっ!どうやら私の高速タックルに手も足も出なかったようだな!」
俺は床に這いつくばったまま突進してきたやつを見る。
そこには俺と同じ歳ぐらいの女が「これで342勝目」とガッツポーズをしていた。
茶髪のツインテール! 眼鏡! 口元のほくろ!
よし、こいつの特徴を覚えた。
必ずぶっ殺す! 俺に喧嘩を売ったことを必ず後悔させてやる。
目つきを鋭くさせて「がるるるっ」と獣のように威嚇をしているが、目の前のバカツインテールは歯を見せて笑っていた。
「おはようユウ殿!今日も良き日だな」
「だまれ! 女!」
「あー!酷いぞ! 久方ぶりに会った友達に向かって!」
「貴様など友達ではない! そもそも誰なんだ!?」
「くーくくっ!ユウ殿どうやら長期休暇中に何者かに脳を改造されて記憶を失ったのだな。ならこの私が思い出してやるぞ!」
と言うと女はいくつものポージングを見せつけながら、名乗り始めた。
「世界にサプライズを届けるため! 悲しむ民を笑顔にするため!みなさんお待ちかね……1000年に1度のスーパースター! ただいま参上! 変身ならお手のもの……」
「長い!長すぎるぞ!俺は貴様の名を聞いているんだ!」
長い自己紹介に我慢できなかった俺は突っ込む。
すると女は邪魔されたことに腹が立ったのか、頬を膨らませて「ちょっとユウ殿!人の自己紹介を邪魔するなんてルール違反だぞ!」と怒っていた。
「まったく、それじゃ続きから言うぞ……変身ならお手のもの、時にメガネが似合うツインテール幼女、時に正義のヒーローに化ける正体不明のミステリーガール!変幻自在のファンタジスタ、その名はカナリア!」
「……」
……やっと終わったか。
ダサい決めポーズをしている女に呆れてしまった。
スーパースターやらミステリーガールやら情報量が多すぎて訳分らん。
「どうだ!私のこと思い出したか?」
「だから貴様など知らん!」
「むむむ……私の華麗なポーズを見ても思い出せないとは、ではもう一回」
「やめろ!もう一回聞いたら耳が腐ってしまう!」
「くーくくっ!そう遠慮するな。友達のためならいくらでも見せるぞ」
太陽のような笑顔で俺の腕に抱きついてくる女。
なんだよ……この女は?
随分親しげに俺に話しかけてきたが、こいつは勇者の息子の友達なのか?
勇者の息子よ。友達はちゃんと選べよ。
「えーい! やめんか!俺に触るのでない!」
「もう一回見たいだろ?ユウ殿」としつこく言うカナリアを振りほどく。
よく分からん奴だが、一つ言えることはめんどくさいやつ。できるだけ関わりたくない。
「俺とお前はみたいな低俗なやつと友達になった覚えはない!二度と俺の前に現れるな。あと話しかけるな」
「消え失せろ」と言い残して、女から遠ざかろうとすると、さっきまでにこやかだった瞳はいきなり涙を浮かべた。
そしてその涙が頬に垂れた時、再び俺に抱きついてきた。
「ユウ殿ぉぉぉぉぉぉ、絶交は嫌だぞぉぉぉぉぉぉ!」
「気持ち悪い!離れろよバカ!」
「私の友達はユウ殿しかいないのだぞぉぉぉぉ!その唯一の友達がいなくなったら私は誰と一緒に昼飯を食べればいいのだぁぁぁぁぁ!?」
「知らん!勝手に一人で食べとけ!」
「嫌だぞ!せっかく苦労してこの学園に入ったのに、一人ぼっちで学園生活を送るのは嫌だぞ! うわぁぁぁぁぁぁーん!」
「泣くな! 女!」
このバカツインテールは廊下で号泣している。振りほどこうとするが、なかなか俺から離れない。
大声で泣きやがるので、周りにいる人間どもがこちらを注目する。
「なに?イジメ?」
「ユウ君がカナリアちゃんをイジメたの?」
は?イジメだと?
野次馬たちのひそひそ話が聞こえて、体がビクッと動く。
そして俺は思い出す。ルティアの言っていたことを。
『間違っても誰かをイジメちゃダメだからね?もしお母さんにバレたら、ボコボコにされた後、魔法で火炙りにされちゃうから』
ボコボコにされた後、火炙り……ヤバい。想像をしてしまった。
「ひゃひゃひゃ」と悪魔のように笑いながら、俺を火炙りにするエナのことを……
背筋が寒くなってしまって顔が青ざめた。
「冗談だ!お前と一緒にいるとすごい楽しいぞ!これからもずっとにいたい!」
「……本当?絶交じゃない?」
「あぁ。貴様とは永遠に友達だ!」
「よかった……」
俺が無理矢理笑いながら言うと、女は泣き止んで明るい表情を見せた。
「くーくくっ!やはり私とユウ殿には切っても切れない絆があるようだな。さぁユウ殿、もうすぐ一時間目が始まってしまう。急いで教室へ向かうぞ!」
そして俺の手を握って教室へ走った。
「……っち!」
俺は女に引っ張られながら、小さく舌打ちをした。
変な友達を持つなよ。勇者の息子よ。
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