大きな木

早朝

此処は静かだ

時々、鳥のさえずりだけが

澄んだ空気を震わせながら

降り注いでくる

あとは風のざわめき


わたしが生まれた時には

もう、そこに根を張っていた大きな木は

まるで力を使い果たしたかのように

樹皮が剥がれ落ちてきている

嵐の激しさに耐えかねた枝が

折れて辺りに散らばって


時は過ぎていく

生命いのちあるものすべて

人も

場所も

変わっていく

少しずつ朽ちていく

寂しいけれど

だからこそ切なくも愛おしい


吐く息も白く

毛糸のショールにくるまって

わたしは大きな木と向かいあう

そっと手をのばして幹に触れる


ざらりとした感触が

祖母の

母の

水仕事で荒れた手を思い出させて


少しだけ


泣きたくなってしまった

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