美談

苦しい時は心も荒れる

辛さの只中ただなかでは

それと向き合うだけで必死だ。



ある看護師さんの投稿記事で


末期の癌患者さんが痛みで苦しがった時に、担当していたその看護師さんが座薬の痛み止めを入れて腰をさすってあげながら

「今までの人生で一番辛かったことはなんですか」

と聞いたら

イライラした口調で

「今だよ!」

と答えられて

次に

「じゃあ、一番幸せだったのは?」

と尋ねたら

「お医者さんに車椅子に乗せてもらって、疎遠にしていた弟とベランダで話せたこと」

と答えてくれたとか


その患者さんは、翌日に安らかな顔をして息を引き取っていたそうだ。


コメント欄には看護師さんを称える声が多かった。


実際、看護師というのは、大変な仕事だと思う。

わたしも何度もお世話になってきて感謝しかないし、きっと最期もお世話になることだろう。


でも

わたしなら、この最期が近づいて痛みや苦しみのなかで

「今までで一番辛かったこと」

「今までで一番幸せだったこと」

なんて質問は、されたくないなって思った。


荒れ狂う嵐の海の中、溺れながら、もう助からないと自分でもわかっている時に


それでもこの問いに答えた患者さんは、優しい人だなって思った。


わたしなら、ただ黙りこむばかりだろうから。

なんなら、心で

『不用意にソンナコトニフレナイデ』って叫んで

「頼むから黙っててください」

くらい言うかもしれない。


これはわたしが、ヒネクレモノだったりするからかな。

優しさだったり、思いやりを受け取れない心の狭さとか、かな。


それでも

この話を読んで、ザワザワしてしまったわたしがいる。


きっと、この問いに思い出して救われる人も確かにいるだろう。

この患者さんも、そうだったかもしれない。


それは、誰にもわからない。


それぞれに感じることは違う。

人の心というのは複雑なものだな。


ごめんなさい。


これは美談ではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る