神様の旅噺

@sikineko-0827

つくもの子としの子

第1話 付喪神の子

その日は、よく晴れた日だった。

白無垢を着た少女は、付き人とともに歩いていた。山の中だった。

―おおきな鳥居。

これからなにが始まるのか知らない少女は、ただ迫る鳥居を見ていた。

「さあっ、□□様。もうすぐですよ。もうすぐ、貴女様はご結婚なさるのですよ!ああっ、なんて名誉なこと!ご両親もきっと、お空で喜ばれております!」

付き人のひとりが、捲し立てるように言う。少女はそれを聞いていなかった。

「……ぃ」

「はい?すみません、□□様。なんと仰いました?」

「いたい。痛い痛い痛い痛い痛い!痛、」

痛みを訴え倒れた少女を囲むように付き人達が駆け寄る。

「どうなさいました!?□□様!?□□さ、ま…?」

少女は痛みに耐えきれず気絶した。そのあと、付き人達がなにを話していたかは、知らない。


―ここは、どこ?

目覚めた少女は知らない場所にいた。家ではないのは確か。では里長の家?それも違う。一度訪れたことのあるあの家は、こんな内装ではなかった。

明るい布地のカーテン、焦茶色の壁紙、多種多様な色の混じったベッドとカーペット。とにかく見慣れぬ部屋だった。自分の服を見れば白無垢ではなく、薄黄色を基調としたワンピースだった。

―こんな服、持ってないわ。

思う。これは"外"で有名な誘拐では?と。里では起こらないこと。逃げなければ、そう考えた瞬間、ドアが開いた。

「!」

刹那、少女は布団に潜り込んだ。バレないだろう、という自信があったのだが―。

「ふふ、何をしているんです?かくれんぼでしょうか?なら俺はルール違反ですけど…どうします?」

―知らないわ、そんなの。

急に布団をめくられ、少女を見つめる男を、少女は警戒していた。にらむように見つめ返す。

「かくれんぼなんて知らないわ。それより、あなただれ。あたくしけっこんしきしてたのよ。お里に帰して」

強気に言った。のちにこういった言動は相手を怒らせかねないことを知るが、今はまだ知らない。

「お里…ねぇ。本当に、連中は面倒だ…」

「しつもんにこたえなさい!それに、お里をわるくいうなら許さないわよ!」

音がした。何かが震えるような音。それは風切り音を立て、ふたりの眼前に現れた。

『ペン…?』

声が重なる。同時に、ペンは素早く男の首へ向かった。

「っ!おお、危ない危ない。ただ、これで判明した」

男は難なくペンを掴み、無傷だった。

「なるほどぉ…?いいねー、代替わりは酷だけどがんばってもらおう」

「…しつもん、こたえて」

そろそろ不機嫌になってきた少女に呼応するように再び音が鳴る。

「ああ、ごめんごめん。子供難しいな…。えーっと…、」

男はあからさまに咳払いをし、少女に向き合い傅いた。

「俺の名は白檀。露影白檀。あなたに仕え、御身の一生を守護する者」

―仕え、る?

「そして御身は白鶴牡丹。まあ、昔の呼び名で言うなら―」



「付喪神に選ばれし、穢れなき姫。それが貴女様です」


「どうぞよろしくお願いしますね、俺の、お姫様」

彼、もとい白檀はそう言い、呆然とする少女の手の甲に口づけを落とした。

当時十一歳の牡丹と、当時十五歳の白檀の最初の出会いだった。




神様になりたての娘は、ここから神へと相成った。






そんな昔のことを、泣きたくなるような闇の中で、思い出していた。

物語は、ここから四年ほど進む。


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