第11話 桜田君は勇気ある人だよね
俺はロードワークが日課だ。
毎日10キロ。
そして走った後に木刀の素振り。
これは剣道部を辞めた後も続けてた。
運動習慣を無くすのは良くないと思ったからだ。
いつも夕方2時間くらいでやってた。
平日だけなく、休みの日もだ。
控えるのは嵐の日と、病気の日のみ。
そして日曜日の夕方に、日課をこなしているとき。
河川敷で
「あっ、桜田君」
……どういうわけか。
笹谷に出会った。
向こうはピンク色のジャージ姿で、手にタオルを持ちながら走ってて。
バッタリ出会ったんだ。
「笹谷。この辺がランニングコースなの?」
今まで出会ったことが無かったんだけど。
すると
彼女は首を左右に振り
「今日は気分を変えてコースを変更したんだ」
……なるほど。
同じことの繰り返しは、刺激が欲しくなるしね。
分からなくはない。
「じゃあ、暗くならないうちに帰れよ」
そう言って俺は俺のロードワークに戻ろうとしたら。
「待って!」
……呼び止められた。
俺が足を止めて振り返ると彼女は
「しばらく一緒に走ろう?」
そんなことを言って来たので。
断るのも感じ悪いので、俺は
「いいよ」
そう言ったんだ。
「桜田君は勇気ある人だよね」
「……何が?」
走り始めてしばらくして。
笹谷がそんなことを突然、ボソリと言ってきたんだ。
勇気ある人と言われても……
どう返せばいいのやら……
俺がリアクションに困って黙っていると、勝手に笹谷が話を進めて来た。
「小学校5年生のときさ、クラスに小6の男子がやって来て、クラスの大人しい子に悪口を言いに来たことがあったでしょ?」
んん~。
そんな話をされても。
記憶に無いよ。
俺が困惑しているのを見て取ってか、笹谷は
「……あったのよ。そんなことが。どうもその子、学習塾でウンチを漏らしてしまったらしいんだけど」
強引に話を進める。
……ガキあるあるだな。
下痢かなんか知らんけど、大を漏らしてしまうやつ。
んで、それで?
俺が視線で先を促すと、笹谷は
「それをその小6男子、一部始終を目撃してて。わざわざ私たちの教室に触れ周りに来たんだよ」
……クズやん。
そいつろくなもんじゃない。
俺は不快になる。
そんな俺の表情に気づいたのか、笹谷は少し興奮気味に
「するとその子、泣き出してね。その小6男子は馬鹿笑い」
……胸糞悪。
そう思っていたら
「だけどさ、そこで桜田君が席を立ってね」
笹谷は語った。
「無言でその小6男子の股間を蹴り上げて、悶絶してるところに顔面パンチを入れたの。
するとその小6男子はひっくり返って、自分が鼻血が噴き出してることに気づいて、今度は自分が泣きだしたのよ」
……ええ?
俺は覚えて無いんだけど……?
「よくそんなことが出来たよね。小学生で1年の差って結構大きいはずだよね?」
俺の話を語り終えた笹谷は……
やっぱなんか、興奮していた。
俺としては、記憶にないことを讃えられても困惑するだけなんだよなぁ……
何で記憶にないのかというと、それは単に「快不快」で動いた結果だからなんだろうな。
昔からそうなんだ、俺は。
……ん~。
どっかで直さないとまずいよなぁ。
そこは自覚はしてんだよ。
笹谷とそのまま、1キロくらい走って。
俺はさよならをした。
笹谷を見送った後。
……さて、行くか。
笹谷に合わせて、ペース落としてたし。
日課はただやればいいってもんでもなし。
本格的に……
そう思ったとき。
ギチッ、というイメージ上の音が鳴り。
世界がモノクロになったんだ。
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