第10話 異空間転移について
そして。
その日から俺は時折「異空間転移」に巻き込まれるようになった。
時刻としては夕方が多かったな。
逢魔が刻って言うんだっけ?
だからまあ、下校中が多かった。
……今日のように。
ガアアアアアッ!
頭に2本の角を生やし、歯が全て牙になってる巨漢が、鉄の棍棒を右腕で振り上げる。
ぶっとくて、棘がいっぱいついた鉄の棒。
一般的に、鬼の金棒と言われる代物。
今日、襲って来た妖怪は鬼だった。
地獄の獄卒の、アレだ。
2本の角を生やして、虎の皮の腰巻をしてるアレ。
獄卒では
こいつは普通のやつ。
俺は剣を脇構えに構えて、真っ直ぐに振り下ろして来た金棒をサイドステップで躱し、躱しざま逆袈裟でその金棒を握った鬼の腕に斬撃を浴びせる。
鬼の腕が吹っ飛んだ。
……慣れたもんだよ。
回数をこなし、俺は知ってる古流剣術の技を試して習得する……実践的な剣術の練習台に、妖怪たちを使うことが出来るレベルで戦いに慣れて来ていた。
ギアアアアアア!
右腕を奪われて、悲鳴をあげる鬼。
よし。
高瀬曰く「部位破壊は基本」なんだよな。
時間も無いし、終わらせよう。
俺は両足に意思を込めた。
途端に凍結冷気が地面に伝わり、標的の鬼に向かって恣意的に伝播していく。
そして
鬼の足元に到達したとき。
鬼の両足が凍ったんだ。
ギエエエエ!?
足が動かなくなり、悲鳴をあげる鬼。
そこに俺は踏み込んで、袈裟で斬りつけた。
熱エネルギーで、白く輝いている刃で。
「太陽斬ッ!」
俺の太陽の熱を持つ刃は、鬼の肉体を斜めに切断し。
2つになった鬼の身体双方を瞬時に発火、炭化させ。
完全に打ち滅ぼした。
……いっちょあがり!
2分掛かってない!
本当に、慣れたもんだよ。
……俺は変身を解除し「こっちの世界から見える高瀬と笹谷の映像のようなもの」の後ろに戻った。
今日の転移が起きる前の位置だ。
3人で下校中に起きたんだよな。
今日の異空間転移。
……そして。
どういうわけか、今まで異空間転移が起きたときに近くに妖怪が出現しなかったことが無い。
これはどういうことなんだろうな?
戦いが終わると、いつもそんなことを考えてしまう。
異空間転移に巻き込まれはしたが、妖怪出現場所が近場じゃなくて感知できないということがないんだ。
いつも、転移が起きるとすぐ近くに妖怪が出現するんだよ。
そこに不自然さを感じはするけど、だったらどうするんだという考えも無いし。
悩んでもしょうがないだろ。
俺が原因である可能性もあるけど、そうじゃないかもしれないし。
その辺、確かめる術が無いからな。
俺は悩んでもしょうがないことはだいぶ前に考えないようにしていた。
暴力事件を起こした後は特に。
俺がこの町の名士の家の人間の顔面を殴りつけ、その前歯を全損させたことが原因で、この先何か起きるかもだけど。
それに関しては、俺は「しょうがないだろ」と考えている。
相手が法的に訴えるのを断念した以上、違法な手段で報復に出てくるかもしれないが。
そうなったらそうなったときに考える。
だって、備えようがないもの。
悩んだってしょうがないだろ。
悩んでもしょうがないことを悩んで考えてもしょうがない。
これはきっと真理だ。
そう思いながら、俺は「異空間転移」状態を解除した。
同時に、モノクロに見えていた世界に色が戻った。
「私も見たよ。カープ。ヒロインの女の子が可愛いよね」
「あのヒロインは私も推しなんですよォ」
すると何事も無かったように、高瀬と笹谷が会話を再開した。
……異空間転移を作動させるのと、解除するのは別に変身しなくてもできるんだよね。
左手首からヒーローブレスを外し、ズボンのポケットにしまい込みながら。
これがあるから、この怪しい変身アイテムを他人に押し付けて責任から逃れるという選択肢が俺には無いんだ。
その気になれば、いくらでも悪用する方法を考えられるしな。これ。
良く分かんないから放り出す。
それこそ無責任だろ。
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