時詠之詩

縹香麗

時を詠む者

足元一面に広がる真っ白な彼岸花はあやかしを倒した証。全ての元凶と謂れる閻魔との戦いはくに一つを滅ぼす勢いで激しく大規模なものだった。


すっきりと晴れ渡った空に全ての終わりを確信したが、私の心は真逆な程暗く黒い穴がぽっかりと空いていた。こんな筈じゃなかった。皆、皆いなくなるなんて。私はどうすれば良かったの?あの時、あの場所で、ああしなければーー。

そんな後悔ばかりがよぎり、私は投げ捨てるように自分の武器である札の入った袋を宙へ放り出した。大切な故郷を、人々を守るために最後の力を振り絞って閻魔を異空間へと封印したものの、失ったものは多過ぎたのだ。

しかし、投げた拍子に袋から飛び出してしまった一枚が見た事のない印を浮かび上がらせて私の方へ飛んで来た。それはそのまま私の腕に巻き付き強い光の渦へと誘った。



時詠みの力。

彼女が覚醒させたのはそう呼ばれる能力だった。時間を移動できると言われるその能力は、「時詠の巫女」と呼ばれる一族のみが使用できる力であるが、覚醒する時機、具体的な使用方法、代償などの詳細は伝えられておらず、彼女自身もその一族であることすら知らなかった程だ。

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