第18話「模擬戦の評価 1」

バーニアタム大演習場




「さ、改めて自己紹介と、それぞれの模擬戦について話すよ。」



「まだ誰とパーティーを組むのか決まってないから、全員と組んで、ある程度の連携ができるように、ちゃんと話を聞いとくんだよ。」




刀花と翠月、氷室の模擬戦が終わり、観客席に座っていた面々も舞台中央に集まって、前に立つ千躰と優愛の話に耳を傾ける。




「勇輝は、まだ分からないことも出てくるだろうけど、後から説明するから。今は、そうなんだ〜ぐらいで、聞いといて。」



「はい。」




新人魔現師達から少し離れたところで、未良と刀花の前に立ち、勇輝も頭を働かせながら話を聞く。




「まずは、羅刹莉理香。天能名と属性、大まかな発現の内容を言って。あと、種族はまぁ、好きなように。」



「趣味なんかも言っていいよ!仲良くならないとだしね!」



「ちょっと、優愛。」



「別に良いじゃん笑。ね?未良、刀花!」




千躰から、それ必要か?みたいな視線を向けられた優愛は、すぐに未良と刀花に助けを求める。




「笑、これがパーティーを組むためのやつなら、全然アリだと思うよ。」



「同じく。」




それを受けて、未良と刀花は笑顔でそう答える。




「ほら。連火が固すぎるんだって。もっと楽しく行こう!」



「……はぁ……じゃあ、言いたい人は趣味とか好きな物とか言ってどうぞ。前に出てきて。」



「はい。」




最初に自己紹介をすることになった莉理香が、皆の前に出て、笑顔で話し始める。




「私の名前は、羅刹莉理香で、種族は見た目通り、鬼人族です。」




額に生える2本の角を軽く触りながら、そう言う。




「そして、天能は『輝愛華墜きめがお』で、土属性。周りの視線や、攻撃を自分に引き付けることができます。趣味は演劇を見ることです!よろしくお願いします!」



「ありがとう。みんな拍手〜」




パチパチパチパチパチ




優愛の言葉で、他の新人魔現師達と勇輝達も拍手をする。




「あ、全員、これからは下の名前で呼ぶから。特に、莉理香は同じ苗字がいるからね。」




そう先に断ってから、千躰は評価を伝え始める。




「私が戦ってみた感じ、莉理香はその天能を使って、自分が持つ盾に、攻撃を集めてるんだよね?」



「そうです。攻撃を盾で受け止めて、受け止めて、隙ができた瞬間に、攻撃!……っていう感じで行きたかったんですけど、千躰さんの攻撃は速くて重くて、受け止めるので精一杯でした笑」



「いや、前から莉理香の話は聞いてて、まぁまぁ力入れてやったけど、全部受け切ったんだから、すごいよ。」



「ありがとうございます!」



「でも、まだまだ盾の扱いは上達できるし、天啓にもよるけど、衝撃とか相手の体まで引き付けられるようになったら良いよね。」



「なるほど……」



「ま、これからだよ。それと剣術はド下手だから、そこは重点的に。」



「分かりました。」



「じゃ、次の子行くよ。白雲真綾、前に。」



「は〜い。」




紹介と評価が終わった莉理香と入れ替わりで、真綾が前に出てくる。




「白雲真綾です。犬人族です。趣味は〜〜可愛いものを集めることです。」




垂れている耳と尻尾を揺らしながら、真綾はふわふわとした口調でそう言う。




「天能は『深環降渦ふわふわ』で、風属性で、こう風をぐるぐる〜って集めて、ぶわっと放つことができます。よろしくお願いします。」




持っている棒を動かして、自分が放つ擬音を補足し、ぺこりと頭を下げる。




パチパチパチパチパチ




「つまり、真綾は風を渦のように凝縮させて、旋風を放つことができるんだよね?真綾の風に吹き上げられた時、私の体が回転したし。」



「多分、そうです。はい。」



「多分?…まぁいいや。真綾が持ってるそれは、杖じゃなくて、棒なんでしょ?」



「はい、千躰さんと同じです。」



「なら、もっと棒を活かした戦い方をしたいよね。例えば……棒に渦を纏わせて、インパクトの瞬間に旋風を発生させるとか。」



「おぉ……頑張ります。」



「うん。でも、"連鎖"は上手だったから、その調子で。」



「わぁ、ありがとうございます!」



「笑、次、陰野雅。」




笑顔で、手に持つ棒をぎゅっと握り締めた真綾は戻り、フードを深く被った雅が出てくる。




「…陰野雅です。天能は『影の番人』、闇属性です。気配を消したりできます。よろしくお願いします。」




……パチパチパチパチパチ




あまりにあっさりとした雅の自己紹介に、戸惑いながらも皆は拍手を送る。




「了解。『影の番人』って言うぐらいだから、できることは、ただ気配を消すだけじゃないと思うけど……まぁ、いずれだね。」



「……」




影になって口元しか見えないが、目の前の千躰にじっと視線を送っていることは分かる。




「……フードはとるつもりはない?」



「……ないです。」



「そう。別に、誰も気にしないと思うけど?実際、同じ子がうちにはいるし。」



「………」



「ま、アイコンタクトが取れないと、連携もやりずらいだろうし、工房の方に魔道具の製作を依頼しとく。」



「…ありがとうございます。」



「雅ちゃん。ちょっとずつ慣れていこうね。」




隣に移動した優愛が、そう雅に微笑みかける。




「……はい。」




その返事を聞いて、千躰は次の名前を呼ぶ。




「向井汐。」



「はい!!」




静かな雅と対照的に、大きな返事をして向井が前に出てくる。




「向井汐です!小人族で、趣味は食べることです!天能は『暴走車輪』で、火属性。炎を纏わせて突進できます!よろしくお願いします!」




パチパチパチパチパチ




「炎を纏わせて突進……模擬戦だと、その斧に炎を纏わせるだけだったみたいだけど?」



「はい。まだ全身を炎で纏うのは練習中で、炎による推進力ってのは、まだ使えてないんです。」




頬をかきながら、少ししょぼんとして向井は言う。




「ふ〜ん……別に全身に炎を纏わなくても、斧に纏わせた炎で、斧の方に推進力を与えれば、回転数……連撃の速度は上がるんじゃない?」



「あ、確かに……やってみます!」



「うん。あと、大斧の使い方も練習。」



「はい!」



「その元気と根性があれば、すぐに上達すると思うから。」



「ありがとうございます!」



「ん。さ、次は瑞葉楓。」



「はい。」




向井とすれ違う時にニコッと笑って出てきた楓が、前に立つ。




「私は瑞葉楓で、人族。好きなことは体を動かすことです。天能は『迅反失刃現じんぞうにんげん』で水属性。この短剣に水を纏わせて、それを飛ばすこともできます。よろしくお願いします。」




パチパチパチパチパチ




「うん。楓の天能はすごく使い勝手が良いよね。あれって多分、別に水を飛ばさなくても、纏わせた状態で斬れ味を増させることもできるんでしょ?」



「できます。今回は汐が前衛だったんで、水の刃を飛ばしましたけど、そのまま戦うこともできます。」



「やっぱりか。短剣術は……また明日、見るよ。」



「ありがとうございます。」



「あと、模擬戦での中衛としての動きは、中々に良かった。魔現師が戦ってるのをよく見てた感じ?」



「そうですね。私が育った村は、"魔の森"の近くにありまして、それで魔現師達が魔の森から出てきた魔物を討伐しているところを、物見台からよく見ていたんです。」



「お、それなら私達も行ったことあるよね!」




優愛が、私達も見た?と言わんばかりの表情で、楓の方を見る。




「だからバーニアタムに来たんですよ。あまりに、千躰さんと優愛さんと槻谷さん、あとバーニアタムのキャプテンさんの魔物討伐が凄すぎて、華麗すぎて。憧れなんです。」




目をキラキラと輝かせながら、楓はそう言う。




「わっ、嬉しい!ね、連火。」



「笑、うん。じゃ、私達みたいになれるように頑張って。」



「はい、頑張ります!」




そう意気込んだ楓は、千躰と優愛に礼をして、次の吉田と交代する。




「吉田来栖です。種族は、鳥人族の白鳥族です。趣味は……笑、ふわふわなものをモフることです。」




と言いながら、吉田は虎人族の兄妹の方を見る。




「っ!な、なに……」



「なんでこっちを見てるんだ!」




そんな様子を見て、優愛が笑いながら言う。




「もしかして、モフモフの獣人族もモフりたい感じ?笑」



「もしかしたら……そうかもですね笑」



「や、やめろ!」



「モフるって……」




兄妹が少しビビる中、吉田は話を続ける。




「それで、天能は『乱数領域ランダムエリア』、光属性です。えーっと、指定した範囲内の決まった数をランダムに変更できます。よろしくお願いします。」




パチパチパチパチパチ




「じゃあ評価に入るけど、模擬戦で来栖が変えたのは、重力……決まった数って言い方からして、重力定数を変えたの?事前に来栖の天能については、詳しく聞けなかったから、よく分かんなくて。」



「いえ、あの時は質量単位を変えました。だから多分、千躰さんは空気にというか、肺に圧迫感を感じませんでした?」



「そうなの?」



「…確かに……なるほど、空気の質量が増加してたのか…だから体が重く感じると同時に、空気が重くなって、まるで重力が増加したように…」



「そういうことです。でも、あの時はちゃんと重くなってくれて良かったです。私はその変化の指定まではできませんから。」



「それは、重くなるか軽くなるかも指定できないの?」



「はい、完全にランダムです。」



「だったら、若干使い勝手が悪いね。もしかしたら全く変化しないかもだし。」



「ですね。」



「……ただ、その変化を連続的に行えるようになれば、かなり強いかも。だって、いきなり体や持ってる武器が重くなったり軽くなったりしたら、まともに動けなくなるじゃん。」



「連続的に……」



「それに、範囲内の決まった数を変化ってことは、質量基準以外の物理定数も変化可能になるんじゃない?例えば、重力定数とか、ボルツマン定数、あとは、光速も。」



「…練習ですね。」



「うん。デバッファーは貴重だから、私達も期待してるよ。頑張って。」



「はい笑、ありがとうございます。」




と、笑顔で言う吉田を見て、千躰は優愛の方を見ながら笑う。




「笑、なんか来栖の笑顔って、優愛に似てる。」



「え、そう?」



「2人はどう思う?」




千躰は未良と刀花に聞く。




「あ〜確かに。」



「癒し系の笑顔だね。」




そう2人は答え、それを聞いた吉田は喜び…




「とっても嬉しいです!」



「笑、これからは一緒に笑顔でみんなを癒していこうね〜」



「はい笑」




ニコニコとしながら、優愛の言葉に返事をし、元の場所に戻る。




「じゃあ次は……」



「次からは私だね!」




続けて仕切ろうとした千躰を遮って、優愛が前に出て話し始めた。





to be continued

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