妹の妹による妹のためのハーレム計画

相上和音

プロローグ

「あのね、お願いがあるの」


 妹の晴香はるかが上目使いでそんなことを言う。

 場所は俺の部屋で、時刻は真夜中だった。

 両親はすでに寝入ねいっていて、家の中は森閑しんかんとしていた。


「いろいろと悩んだんだけど、どうしても我慢できなくて。お兄ちゃんにこんなこと言うのは、本当は間違ったことなのかもしれない。でも、私はやっぱり……」


 まだ幼さなさの残る顔を真っ赤に染めて、妹は恥ずかしそうに身じろぎした。

 大きな瞳には涙が溜まっている。


「お兄ちゃん。私のお願い、きいてくれる?」


 可愛い妹の頼みだ。

 俺にできることならなんでもしてやりたい。


 けれどそれは本当に正しいことなのだろうか。

 何か倫理的に問題があることのような気がする。

 内容も聞かずに安請やすうけ合いできることではなかった。


「お願いって、なんだ」

「きいてくれるって約束してくれないと言えない。軽蔑されるかもしれないし」


 俺は一抹いちまつの怒りを覚えた。


「あのな、俺がお前を軽蔑することなんて絶対にない。もしお前が世間に顔向けできないような間違いを犯して、非難されることがあったとしても、俺だけはずっとお前の味方だ」


 場の空気に呑まれてしまっているのだろう、思わず臭い台詞を吐いてしまう。

 けれど、それは間違いなく俺の本音だった。


 妹は嬉しそうに笑う。

 幼いころによく見せてくれた無垢むくな笑顔だ。


 今でも仲はいいけれど、お互い見聞が広まり、昔ほど特別な関係ではなくなってしまっている。

 そんな妹が、俺を頼ってまたあの笑顔をみせてくれた。

 こいつのためならなんでもしてやろうと、そう強く思った。


「本当に?」

「本当だよ」

「私の抱いてる想いを全部伝えても『なに言ってるんだこいつ、頭おかしいんじゃないのか』とか思わない?」

「しつこいな」


 今にも泣き出してしまいそうな妹の視線を、真正面から受け止める。


「俺はなにがあってもお前を否定しない。絶対だ」

「……そっか」


 妹は胸の前で指を絡め、少し照れたように微笑んだ。


「私ね、お兄ちゃんにお願いがあるの。こういうのは、たぶん間違ったことだし、すごく恥ずかしいし、怖い気持ちもあるんだけど……」


 ぐっと喉が鳴る。

 さっきから胸の高鳴りが収まらなかった。


 これから妹がなにを口にしようと、俺は決してそれを否定しない。

 どんな頼みであろうと、真摯しんしに受け止めてみせる。


「お兄ちゃん、お願い……」


 妹は言った。


「私の代わりに、ハーレムを作ってほしいの」




 …………なに言ってんだこいつ、頭おかしいんじゃないのか?





 ―――――――

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