魔族王女が国の復興に失敗?弱き人間の俺のせいにされても困る!魔法世界でその日暮らししたい”凡人”の物語
@tennseikyabetsu27
第1話 アートディレクターの俺、よく知っているゲームに転生
柔らかな朝の光が部屋に差し込み、まどろみの中から目を開いた。視界に広がったのは、まるで異国の宮殿を思わせる優雅な西洋風の部屋。
鏡を覗き込む。
映るのは、湖のように深い緑色の瞳を持ち、困惑の色を湛えた美貌の少年だった。
「転、転生したのか……」
呟いた声は虚空に溶けた。
そして、ここが見覚えのある世界であることに気づく。
広がる光景は、自分がかつて勤めていたゲーム会社が手掛けた『ましん伝記』のシーンそのものだったのだ。
脳裏をかすめる転生前の記憶。ゲームのアートディレクターだった俺は、疲れ果てて机に伏したまま意識を失い、目が覚めるとこの異世界にいた。
だが、俺が転生したのは、無限の可能性を秘めたヒーローでも、物語を彩る大悪党でもなかった。外伝に登場する脇役であり、ストーリーの流れなら、俺が転生したこのジェスというキャラクターは悲惨な結末を迎える。
ジェスは目を奪われるような美貌を除けば、何の特筆すべき特徴もない少年だ。徐々に思い出していく中で、この世界の厳しさと待ち受けるジャスとしての運命の重さが、胸に重くのしかかってきた。
ジェスという少年は、見た目の美しさ以外にこれといった特徴はない。
しかし、過去を思い返してみると、重要な記憶が蘇る——転生前、俺が手掛けたゲームの主要キャラクター「カーシャ」のイラストを描いたのはまさに俺だった。
そして、この少年ジェスもまた、俺の筆から生まれたキャラクターだ。
まさか、俺がそのジェスに生まれ変わるとは……
幸いなことに、プロとしての矜持のおかげか、ジェスを非常に美しいキャラクターとして描いておいたことが、今となっては救いだ。
頭の中でストーリーを辿る——この先の運命がかかっている…そして、なんとか記憶の迷宮をくぐり抜けた……この物語では、やがてはラスボスとなる魔族の末裔——王女カーシャが、ジェスの命を狙う。
現時点では、カーシャはまだ力を得ておらず、ただの流民の少女にすぎない。しかし、その実力は既に目を見張るものになっている。彼女は人間界で生き延びるために自らの力を隠しているが、怒りを買うと、その内なる凶暴は止めどなく解き放たれるだろう。
物語では、ジェスはカーシャが流浪の身となった後、最初に彼女の怒りを買った人間である。理由は単純で、ジェスがカーシャの使い魔である「漆黒の鳩」を狩ってしまったことに始まる。
カーシャがジェスを探し出した時、貴族の坊っちゃんで礼を知らないジェスは、謝罪もせず、乞食のような姿をした魔族のプリンセスを嘲笑し、使い魔の鳩をスープにして食べてやるとまで言い放った。その結果、ジェスはカーシャの手によって命を奪われ、その財産はすべて彼女の手に渡ることとなった。
この財産が、後にカーシャが魔族復興を果たすための重要な資金源となるのは、特筆すべきではないから割愛させていただこう。
オリジナルのストーリーによれば、俺——つまりジェスは、まもなくカーシャの復興を支える重要な金脈となる運命にある。
ここまでストーリーを思い出し、冷や汗が額に滲む。
このままストーリー通りに進み、カーシャの魔の手に沈むなんてごめんだ!そして、俺はなんとか名案を思いつく——あの使い魔の鳩を狩らなければ、悲劇の連鎖は始まらないはずだ!
未来を知っている俺には、ジェスの人生を軌道修正するチャンスがあるじゃないか!
その時、外から軽やかなノックの音が響いた。
「坊っちゃん、お目覚めですか?昨日、早く起こすように伝えられておりまして」
「入れ」
そう答えてベッドを降りた瞬間、足元にある何かが引っかかり、転びそうになる。
酒瓶が転がっていた――まだ16歳だというのに、ジェスは酒に溺れていたようだ。
ジェスの過去に呆れつつも、部屋を出ると、隅で震えるメイドの姿が目に入った。彼女は俺、いや正確にはジェスを酷く恐れている。
「おはよう」
できるだけ優しい声で挨拶をする。
「えっ……?」
メイドは驚いた表情を浮かべ、思わず声を漏らした。
「旦那様が食堂でお待ちです」
軽く頷き、俺は食堂へと足を進めた。両親はあまり家に帰ってこない。商会の仕事に忙しく、俺はほとんど放任されている。
父が家にいるのはとても珍しいことだ。
食堂へ向かう途中、すれ違う使用人たちは皆、俺を見るなり萎縮して敬礼し、逃げるようにその場を離れていく。どうやら、ジェスは本当に嫌われていたようだ。
食堂に入ると、父は長いテーブルの端に座っていた。
「また遅刻か」
父は叱るつもりもないようで、淡々とした口調だった。
「すまない、もう酒は飲まないよ」
酒を好んで飲むのはジェスであり、俺は特に好きではない。
この裕福な暮らしには満足している。目指すのは、自由で気楽な生活だ。席に着くと、豪華な朝食に目をやり、その中でもひと際目立つ金色に焼き上げられたロースト鳩に目を留めた。
「これって……」
俺の表情はこわばった。
「昨日、お前が仕留めた鳩だ。使用人たちが言いつけ通りに料理したんだ」
「昨日も酔っ払って、記憶がないのか?」
父が頭を上げ、俺を見ながら淡々と言った。
「……そうかもな……」
言葉に詰まる。
昨日?俺が仕留めた鳩?不安が頭をよぎって、そそくさとフォークを手に取り、じっくり確認した。
十数秒ほどして……くそっ…間違いない、この鳩は、カーシャの使い魔だ。何せ、この鳩ですら、俺が描いたんだ。生みの親が一発で我が子を認識するようなもんだ。
「どうした、具合でも悪いのか?」
異変に気づいた父が問いかけてきた。
「何もないさ、酒のせいだと思う。飲みすぎると良くないな」
朝食を食べながら、俺は何度も使い魔の惨状に目をやってしまった。
ジェス、君は本当に愚かでダメダメな奴だったんだな。
人の使い魔を殺して料理して、さらに嘲笑までして……これで彼女が激怒しないわけがない。
まぁ、起きてしまったことだ。何とかして解決するしかない。前向きに生きていかないとな。やるべきこと……まずは証拠を隠滅することだ。
鳩の足を口に入れた途端、美味しさが口の中に広がる。食べたら骨はきれいに吐き出す。そうだ、骨もちゃんと処分しないとな。後で犬にでもやろう。
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