大神は春に酔う
かすたぁど
訪れた光よ照らせ枯れ桜
桜並木
訪れた光よ照らせ枯れ桜
春の訪れを感じた花は身を起こし、色を咲かせる。その姿は見事だ。真に綺麗な光に照らされた花は、非常に鮮やかで麗しい。だが、それはもう朽ちた
「みんなの自慢したい場所、どこでもいいから好き場所の絵を描いてくること。できるかな?」
教壇に立つ女性教師が挙手を促す。人生始めたての無邪気な児童たちは、はーい!と元気な声で呼応する。話を聞かず遊ぶ約束をしたり、配られたプリントを生身でランドセルに荷物を詰めたりする者。これらはもはや伝統とも言えるほどありふれた光景だ。このあと、生身で詰められたプリントはくしゃくしゃになり、親に渡ることになる。ここまでがセットだ。さて、その中で一人ニコニコしながら、既に鉛筆を動かしお絵描きを楽しんでいる者がいる。
「ふうかちゃん、それ桜?」
「そう、家の近くに桜が並んでる道があって、すごく綺麗なんだ!」
「いーなー!」
「そうだ、帰りにさきちゃんも見に来なよ!」
「いいの?でも、そっちまでいったら帰り遅くなっちゃうよ」
「そしたらお母さんが送ってくれるから!」
ご覧の通り、もしくはご存知の通り、子供というのは理不尽なものだ。当事者の母親が居なくとも、約束がこうして取り付けられる。親はきっと困り顔をするだろう。しかしいくら我儘であろうと、親にとって子供というのは放っておけない存在。喩えたならば、一種の王様のようなものだろうか。そんな話している王様と眷属に迫る足音があった。
「はーいふたりとも、先生のお話は聞いてたかな?」
「あ、えーと……」
「二度は言いませんから。二人の絵を楽しみにしてますよ?」
不気味さを感じる笑みの先生を前に、二人の少女は「は、はーい……」とか弱い返事をするほかなかった。陰りのある笑みをしたままの先生が、背中を向けて歩き出した途端。風華と咲は顔を見合せて笑う。この二人は注意されたことを全く気にしてない。小学二年生の辞書に反省という文字は無いようだ。
下校中、咲と風華は桜の並木を見るために数分は一緒に歩いていた。だがどうやら、咲には習字の習い事があったらしい。
「ごめんね、ふうかちゃん」
「えー、ちょっとだけいいでしょー?」
風華が強引に説得するが、咲の困った顔を見て「……じゃあまた来週ね!」と見送った。だが、相当桜を見るのが楽しみだったようで、咲を失った代わりに寂しそうな顔が張り付いてしまった。まだこんなにも澄み渡った青空が広がってるというのに、春らしからぬ冷たい風が頬を撫でている。二人で見るはずだった桜の並木道を、彼女はとぼとぼと地面を見て歩いている。桜の並木に通ずる住宅街の端、そこに彼女の家はあった。奥には田んぼが広がり、都会のフリをした景色は、一気に田舎の風景へと早変わりする。駅周りは発展してるのに、少し歩けば田や畑ばかりのド田舎。例えるのならばそんなとこだろう。そんな家の裏手に見える、シケた田舎の風景。高低差があるために、上から見下ろせる田道や奥の森。でもそれこそが、彼女が密かに気に入っている風景なのだ。そんな景色すら見えていないとき。不意に、彼女は
「……犬?」
彼女には少しだが捉えることが出来ていた。うっすらと光る、
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