#57 幸運魔嬢マリエルの実態を暴露する月雪フロル【電ファン切り抜き】
「先輩、こっちまた地面光ってるよ」
『ほんとうですか!?』
〈おお〉
〈運いいな〉
〈さすがマリエル〉
〈これが幸運の魔嬢か〉
マリエル先輩にはひとつ特徴的な要素がある。彼女、運がいいのだ。ゲーム自体が苦手で雑談多めだから配信で目に見えることはあまり多くないんだけど、その雑談でもしばしば豪運エピソードが披露される。
何の気なしに立ち寄った自動販売機で一発で当たりを引き、うっかり傘を忘れた日に限って降水確率100%の予報が外れ、福引では当たり前のように上位景品を当てる。デュエ兄は新弾の通販購入のときに最終決定のクリックだけマリエル先輩に頼んで、しかもそれがちゃんと高確率で当たっているほどだ。
今回出たのもラッキーイベントだ。地面が光っているところをスコップで掘ったらお金が出てきて、そこにできた光る穴に物を埋めたらいろいろ恩恵がある。
一応、それ自体はどの村にも一日一つは出るものなんだけど……先輩は見事に、低確率のはずの二個目の光る地面を当ててみせた。
「ほんと幸運の女神様……先輩、宝くじとか買わないの?」
『……その、ですね。逆に怖いので、買わないようにしているんです』
「あー……まあ、気持ちはわからなくもないかな」
〈買ったらマジで当たっちゃいそう〉
〈もったいない〉
〈幸運体質もいざなってみると怖いものか?〉
〈当たったら当たったで大変とも聞くしなぁ〉
〈そこまで自分のよくわからない性質に人生委ねたくないか〉
ただ、マリエル先輩は自分の幸運に頼ろうとしない。もし自分の運が普通でも問題なく生きていけるやり方を常々標榜しているそうだ。例外はたった一度だけだとか。
きっとデュエ兄の儀式も、それが開封配信として活かされるものでなければ断っていることだろう。そのあたりは案外しっかりしているし、デュエ兄も承知した上でやっている。
だから宝くじは気が進まない、というのも確かにわかる話だった。……私もデビューするまでは、自分のゲーム関連になると途端に得意になる性質が少し怖くて高難度ゲームやチャレンジには手を出していなかった。
私の場合は直接配信のネタになるし、朱音がやっていたことを聞いてしまったから結局やることになったけど、先輩はちょっと話が違うだろう。本当に宝くじを買ったりしても、諸々の問題から配信にするのは難しいし。
『幸運に頼るのは、電ファンに入れたこと一回でお腹いっぱいです』
「皆さんわかります? こういうこと素で言えちゃう子だから全方位から可愛がりが止まらないんですよ」
そのたった一度の例外というのが、それ。電ファンへの加入、正確にはオーディションのときのことだ。
こんなマリエル先輩だけど……電ファンの少なからずのライバーと同じく、一般社会への適合はあまり上手くいかなかった人だった。本人は頑張ったのだけど、結局。それならいっそ、と元々ファンだったという電ファンの第三期オーディションに応募したんだけど……そのときなんと、彼女は本来落ちるはずだったところから合格したのだ。
ことが起こったのは最終の一つ手前の三次選考。やはりあまりにゲームができない上に明確な穴埋め要素もないことが祟って、一度は不合格のほうに振り分けられた。ただ、そこに本来あるはずの仕事が先方の事情で延期になったハルカ姉さんが入ってくると、彼女の選考書が風でふわりと飛んでハルカ姉さんのもとへ。読んでアピールポイント欄の「運がいい」という一言を面白がったハルカ姉さんの鶴の一声で最終選考まで残されることになって、そのまま通過したらしい。
『ほんの少しでも運がなければ、わたくしはここにいませんから。感謝して、慎ましくないと』
「むしろド派手に暴れてほしいんだよね、配信的には」
まあ、そんなエピソードはあるけど、結局最終選考を通っているのだから合格すべき人だったのだろう。四期生のオーディションでは、ゲームができないことのマイナス査定がずいぶん減ったのだとか。とはいえいきなりそれが活かされるとも限らなくて、ゆーこさんも陽くんもマリエル先輩と比べればできるけどね。
「ま、その意思を尊重して電ファンはマリエル先輩の幸運を無闇には乱用しないんですけど……それでもね、幸運の招き猫って置いとくだけで効果あるんですよ」
『まあ、ライバーとして役に立てることや、拾ってくれた電ファンの利になることはわたくしとしても嬉しいですから』
〈やっぱ漏れ出るのか〉
〈コントロールできない置物〉
〈もはやある意味呪物じゃん〉
〈ほんとに無闇に使ってないか?〉
〈ダウトだぜそりゃあ〉
まあ、電ファンとしてはね。ライバーはしばしばマリエル先輩の私物や通話の声、それどころか本人を呼び寄せたりして触媒としてガチャを引く。そしてこれがまあ当たる。ブレはあるにせよ、少なくとも上振れはするんだよね。
電ファンというグループ単位では、わかりやすくアテにしたりはしないようにしている。ただそれでも、番組に出演しているというだけで効果を発揮したりはしていた。もはや運要素を売りにするコンテンツがマリエル先輩を狙って案件売り込みをしてきても驚かない。
「ところで皆さん、今年6月の半ばにみくら先輩がやった『百鬼戦録』のガチャ配信を覚えているでしょうか」
『……?』
〈ああ、あの神引き連発してたやつ〉
〈ドタバタ回の印象強いけど〉
〈あれ結局なんだったん?〉
〈めちゃくちゃバタついてたけど〉
〈なんでマリエル嬢がわかってなさそうなんだよ〉
それがエスカレートして、一期生豊川みくらは一度あることを行った。内容としてはもはや恒例とすらなっていたマリエル先輩にあやかったガチャ配信だったんだけど、それに際して借りてきたものが特徴的だったのだ。
なんとこれ、マリエル先輩当人はピンときていない。別に盗んだりしたわけではないんだけどね。
「あのとき使ったという触媒は、『膝の上に乗せていた』と言っていましたよね。ぬいぐるみか何かか、というコメントが多かったです」
『え? でもわたくし、ぬいぐるみを人に貸したことはありませんよ?』
「どうしてぬいぐるみがあることをバラすのかなこのひとは……」
〈あったあった〉
〈ぬいぐるみにしちゃ物音に質量感あったんだよな〉
〈柔らかそうな音はしてたけど〉
〈ペットとか飼ってないよね?〉
〈えっぬいぐるみ持ってるんですか〉
〈ぬいぐるみCOたすかる〉
〈でっかいぬいぐるみ抱えたマリエル嬢めっちゃ需要あるわ〉
〈*sper:任せて〉
〈最近いつでもいるなsper!?〉
うん、マリエル先輩はペットを飼ったりはしていない。一応自分で世話できるならペットOKなんだけど、今のところ誰も飼っていない。
ちなみにマリエル先輩の部屋には二桁に迫る数のぬいぐるみが置かれている。こんな淑やかな立ち絵と声をしていながらファンシー全振りなんだよねこの人。
ママ、頼んだ。
「あれですね、私です」
『え!?』
「私を膝に抱えて配信やってたのあの人」
『ズルくないですか!?』
「反応それで合ってる?」
『合ってます』
〈!?〉
〈は???〉
〈そんな贅沢が許されるのか〉
〈罰当たりだぞ女狐〉
〈*ルフェ・ガトー【電ファン】:先輩とて許せぬ〉
〈ルフェガチギレ〉
〈*エティア・アレクサンドレイア / Etia ch. :今度私もやる〉
〈イミアリ反応早すぎだろ〉
〈*sper:任せて!〉
〈sper、頼んだ〉
〈ん? 待てよそれって〉
まあそういうことだ。なんとみくら先輩、「マリエルのサブマネ」を触媒扱いした。たぶん半分くらいはそれにかこつけて私を可愛がりたかっただけだとは思うけど。
それに一丁前に怒ってみせるイミアリの二人はよくわからないけど、それを聞いたリスナーの反応が「ご馳走様です」ではなく「罰当たり」なあたりがみくら先輩の扱いというか。大概全員が芸人の素質を持つ電ファンでも特にコメディリリーフ主体なのがあの人だった。
ママ、帰って。
……さておき、気付いた人もいるようだ。
「つまりですね。当時の私をみくら先輩は『マリエルの私物』扱いしたんです」
『あっ!?』
「そしてそれであの引きをしたということは、幸運の招き猫的にそれが承認されてしまったわけですね。去年までは私も並の引きでしたから」
『うぇ!?!?』
「私が今のところソシャゲあんまりやってないの、実はそれもあって。毎回のように上振れする度に私が人の所有物扱いになってるのを突きつけられるからなんですよ。……まあ、さすがにそろそろ抜けてきたと思いますけど……」
〈唐突な百合〉
〈これはてぇてぇですな!〉
〈お前ら早く塔建てろ〉
〈結局フロルはマリエルのものだったと〉
〈*ルフェ・ガトー【電ファン】:祟る〉
〈こわ〉
〈ルフェ……〉
〈祟るべきはみくらだぞルフェ〉
〈半分自分のものでもあったはずなのに目に見えるものがないせいで〉
私としては恥ずかしい過去だし、みくら先輩から必要なとき以外は距離を取り気味なのはこれのせいで警戒しているから。運に追認されてしまったから余計だ。
シンプルに怖いことを言い出すルフェ先輩はいいけど、ここで本当に顔を出さなくなったママが一番怖かった。たぶんもうペンタブを起動しているのだろう。まあ帰れって言ったの私だけど。
さておき、そろそろソシャゲに手を出しても大丈夫かもしれない。完全にマリエル先輩と関係ないところで、残滓のようなもので妙にいい引きをしたりする可能性は避けていたんだけど、さすがに私もそろそろサブマネを辞してから二ヶ月だ。
まあ、じゃあどれをやる、とかは考えていないんだけど。流行りや興味はもちろん触りつつだけど、当分は九津堂最難関ツアーを主軸にしていくつもりだから。
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