#48【神回】あまりにも鮮やかなフロルの役満と着弾したコメディリリーフ【電脳ファンタジア切り抜き】

 そして事件は起きた。


『つぎ満貫だせば逆転っ……』

『これ以上振り込むとまずいです』

『このまま逆転して罰ゲーム回避する!』


〈あっ〉

〈これは……狙うか?〉

〈いや強くね?〉

〈ここにきてコレは惨いぞフロル〉


 初手の時点で六索ローソーと八索と發の対子、それに二三四索の順子と二枚目の二索……あまりに誂え向きだ。

 序盤にある程度稼いでいた点差もマギにゃとは5000点弱まで縮んできたところだったけど……もし和了までいければそんなことは気にする必要もなくなる。

 ここまでくるとちょっと手牌について口には出せなくなるから、ある程度当たり障りない喋り方をしないと。


「満貫どころかドラが変に絡んだりするだけでヤバいんですよね……けっこうちゃんと点数稼いだはずなんだけどな」

『おかくごっ!』

「でもま、受けて立つよ。ここから安上がりを続ければ勝てるし」

『そりゃそうだけど』


〈言ってることとやってること真逆ですよ〉

〈めちゃくちゃ役満狙ってますがな〉

〈当たり前のように自風牌切ってんだよな〉

〈これで不要牌にも索子あるのズルくね?〉

〈フロル詐欺師の才能ありそう〉

〈心理戦要素のある対戦ゲーム強いやつだいたいそうだろ〉

〈TCG強い理由も出てるなあ〉


 そりゃね。こんなもの見せられて狙わないわけないでしょ、まして配信中に。言っている間に四索スーソーも二枚目を引いたから、これで二向聴リャンシャンテンだ。しかも比較的待ちやすい形。

 詐欺師も何も、忘れたの? 私、二年以上ずっとライバーにイタズラし続けてきたんだよ。人を欺いて遊ぶのは得意だ。……自分のことだけど、だいぶクソガキだね。


『1000点で流して逃げるフロルさん、解釈不一致です』

「なにさ解釈って、そんなのより目の前にいる私を見てよ」

『えっ……!』

『(トゥンク』

「勝手に人の反応に色をつけないであげて」


〈せやな〉

〈実際そうだろ〉

〈フロルならもっと配信のこと考えてやる。今みたいに〉

〈かっこいいこと言ってる風だけど……〉

〈反論に説得力ないんだよね〉

〈目の前のフロルがこうしてるんだから〉

〈\ポン/〉

〈どさくさに紛れて發ポンで安上がりっぽくしとる〉

〈トゥンクw〉

〈幽子さん……〉

〈幽霊は幽霊でもネットの幽霊だから〉


 こうは言ったけど、私自身確かに解釈不一致だ。リード状態のオーラスでも1000点逃げ切りは喰いタン以外ハナから狙いたくはないし、実際にもたぶんしない。その点ちよりんは私のことをよくわかっている。

 古のネットミームに強いゆーこさんが乗ってきて反応を勝手に作り、ちよりんはそれを否定。……ところがこのやり取りにはマギアちゃん、首を傾げて。


『とぅんくってなに?』

『ぐはっ!?』

『はうあっ』

「……まあ死語だよね普通に」


〈なんか静かですね〉

〈おまいら……〉

〈いや待て、いくらフロルとはいえライバーのファンがここまでネット老人しかいないわけないだろ〉

〈知らないけどここ黙るとこかなって〉

〈で、トゥンクって何?〉

〈空気読みが上手すぎる〉

〈リスナーって配信者に似るんだな〉

〈逆にフロルはトゥンクわかるのかよ〉

〈マギアは街に出てきて数ヶ月だから。フロルは数年〉

〈トゥンクとか数年前どころじゃないんだよなあ〉


 そう、マギアちゃんはトゥンクなんて知らない。そりゃそうだよね、何年前のミームだろうこれ。私はネットミームに最低限の慣れがあるからわかったけど。

 ネットの亡霊とネット弁慶が大ダメージを負っているだけならともかく、コメント欄も面白いことになっていた。だけどちょっと待って、「いくらフロルとはいえ」って何? 私のファン層なんだと思われてるの?


『トゥンクっていうのはね、キュンですって意味だよ』

『ネットミームをネットミームで説明する妖怪ですね』

「でもゆーこさん、キュンですもけっこう……」

『きゅんです……?』

『』

「ゆ、ゆーこさぁんっ!?」


〈ネット老人の悪い癖だぞ幽子さん〉

〈やってること若いのに感性だけ古いのさすが幽霊って感じする〉

〈古のオタクすぎるだろ〉

〈キュンですって何年前?〉

〈九年前〉

〈また静かになったな〉

〈おい聴牌してるぞ!?〉

〈こんな雑な役満確定あるかよ!!〉


 ゆーこさん、あまりにもテンプレムーブをかましてくれるから面白いよね。わかるよ。今回に至っては自分から露骨に誘っているし、たぶんマギにゃは狙ってすらいないし。

 面白がっているのは私とちよりんだ。……いや、そうは言っても別に私どころかちよりんもキュンですは世代じゃないんだけどね。仮に世代でもあんな陽の極致のようなSNSはやらないだろう、私もだ。


 ……うん。そんな話をだらだら続けている間に聴牌まで来てしまった。なんか三索サンソーを引いたから、幸運なことに發しか副露していない。

 そして画面に踊る「役満確定!!」の文字。……駄目だ、まだ笑うな……。


『結局どう収拾つけるのですかこれ』

「ネットミームの使いすぎには注意ってことで」

『ふろるちゃん、これなんのはなし……?』

「マギにゃはそのまま綺麗でいてね……あ」


〈あ〉

〈あっ〉

〈あーあ〉

〈本日の勝敗 四ツ谷の負け〉

〈オイオイオイアイツ死んだわ〉

〈もう死んでるだろ〉


 うん。ゆーこさんから見えた。双碰シャンポン待ちの和了牌の片割れ、八索だ。

 画面には「ロン」のボタン。……これを振り込むのがこの流れでのゆーこさんというのが、なんというか配信的にできすぎている。


『またダマテン!?』

『和了ですか……本当にお強い』

『うー、おいつけない……』

「ねえゆーこさん、これ何の役だと思う?」

『え? そんなこと言っても、發と索子だけだし……混一色くらい、しか…………』

『發と二三四索と八索?』

『え、もしかして』

「はい」

『や、役満演出っ!』

「……緑一色リューイーソーだよ」

『』


〈マジで役満決めやがったァ!?〉

〈これが月雪フロルか〉

〈いいもん見たわ〉

〈配信者パワー!!〉

〈もはや才能だよこれは〉


 ロン。一位が四位に対してするには無慈悲だとは私も思うけど、これも勝負だ。それに罰ゲームルールを持ち込んできたのはゆーこさんである。

 子の役満でしめて32000点。……25000点スタートの四人麻雀ということもあって、ゆーこさんの点数がなくなってしまった。これが最終卓だと決まっていたから、これで終わりだ。






「改めて合計点の集計だけど……」

『これ、数えなおす必要、ある?』

『ありませんね。どう考えてもフロルさんが一位で、どう考えても幽子さんが四位です』


〈そりゃそうだ〉

〈最後にどっちも32000差ついたし〉

〈まあわかってた展開ではあるんだよね〉

〈すごく……解釈一致です……〉

〈かなり運要素のある麻雀でもこうなるんだなって〉

〈幽子さん合計点マイナスだし〉

〈四卓やって!?〉

〈10万点溶かしたのかあの幽霊〉


 うん。そういうことになった。最後の役満はほぼ勘づかれていなかったから誰に着弾してもおかしくなかったんだけど、それでもゆーこさんに当たるあたりほんと持ってるよね。

 スタッフさんがちゃんと計算したところ、初期持ち点の合計である10万点から最も離れていたのはゆーこさんの方だった。卓単位ではマギにゃに二回ほど一位を取られているし、いくら私でも合計20万点は突破していない。


『マギアさん、あまり悔しくなさそうですね。先ほどまでは勝機を見ていましたのに』

『なんか諦めがついちゃったの』

『まあ、確かに。あんなものを見せられると……』

『プレイヤーとしても配信者としてもコメディアンとしても勝てるきしない』

「あれ、私役満アガっただけでコメディアン扱いされてる?」

『だけじゃなかったからだよ?』


〈せやな……〉

〈これはフロルが悪いよ〉

〈むしろよくほぼ役満差だけに留めたよマギにゃ〉

〈マギアは大健闘だったはず〉

〈自覚がおありでない??〉

〈電ファンそのものってくらいコメディだろ〉

〈これから音楽活動するけどめっちゃコメディ〉

〈フロルはイタズラとツッコミだけだと思ってた時期が僕にもありました〉


 そうかな。……そうかも。今日はあんまり突っ込んでない気はする。電ファンに誰よりも愛を向けている私にとって、コメディは褒め言葉だからなかなか素直に受け取りづらいけど。


『私、どんどんコメディリリーフになってる……』

「でもコメディリリーフって話なら電ファンみんなそうでしょ」

『先発も中継ぎも抑えもコメディですよね』

『そういう話をしてるんじゃないとおもう……』

『こう……やられ役というか、愛と真実の正義を貫くというか……』

『そう聞くと本気で羨ましくなりますね。確立されたポジション』

「正気?」


〈四期生、電ファンが芸人集団である自覚がありすぎる〉

〈そらあんな先輩たちを見てきたらそうなる〉

〈フロルが早々に認めちゃったし〉

〈コメディスターターとコメディクローザーもいるのか〉

〈ロ○ット団の代名詞そこなの?〉

〈ちよりん目を覚ませ、そっちに行くな〉


 実際そうだし、私は電ファンの配信というコンテンツの面白さに惹かれたからね。芸人とはいうけど、それはしっかり笑いという形でファンを楽しませられている証だ。

 とはいえ、どれだけそれを標榜していても、向き不向きやポジションというものはある。たとえば私が今のゆーこさんみたいなことをしようとしても、上手くいかずに空回ってしまうだろう。そういう意味で全ては持ちつ持たれつでありお互い様、羨ましいとも思っているし感謝もしている。そんな人たちが私と関わってくれるから面白いのだ。


「……ところで罰ゲーム思いつかないんだけど助けて」

『あ、ずっとかんがえてたんだ……』

『そうですね……たとえば、三日間Tsuittaのアイコンを自作絵にするとか』

「あ、それいいね。そうしよっか」

『え!? ……あの、私、絵は』

『だいじょうぶだよ、ゆーこちゃん。がはくだったらそれはそれで、配信者としていいこと』

『うっ……言葉のナイフがっ……』


 これも似たような話だね。私は上手いと言われるくらいには絵も描けるけど、イラストレーターができるほどでもなければ画伯的な面白さも得られない。おかげでネタにできるような画力はかえって羨ましいのだ。

 とはいえ、本人が望まないならこういうことは言わないけど……返答の声がちょっと嬉しそうだった。やっぱりゆーこさんは信頼できるんだよね。

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