#47 先輩たちのファンクラブに入っていた月雪フロルにコメント欄で阿鼻叫喚の皆さん【電ファン切り抜き】

 次の局。


『……何も起きませんね』

『塩だね……』

「ツモ切り多いもんね……あ、チーで」


〈配信者的には嫌なやつ〉

〈めちゃくちゃ雑談させられるな〉

〈せめて誰かが強ければ……〉

〈これは流れるか〉


 終盤まで動きがなく、全員が揃わない展開になった。さすがに荒牌流局が見えてきたから、無理やりにでも聴牌だけ作るために鳴いておく。役なしだけど。

 どうにか全員が滑り込みで聴牌を作れたけど、そのまま流局となった。まあ仕方ない、こういう時もある。


「……なるほど」

『え、何が?』

「三人の打ち筋だよ」

『……もしかして、今の流局で開いた手牌で読み取りましたか?』

『一瞬だったよ!?』


〈うわなんかズルそうなことしてる〉

〈できるのかそんなこと……〉

〈面目躍如って感じだ〉

〈こういう細かいところの積み重ねで上手いんだろうな〉

〈シンプルに瞬間視力と記憶力がヤバい〉

〈喋りながら当たり前にずっと全部の川を見て打ち方予測してないとできないことだぞ〉

〈フロル相当喋ってるよね???〉


 まあ、答え合わせに近いから。何を切っていないかを確認して、そこから狙っていそうな役をざっくり予想する。特定の柄の数牌が極端に少なければ一色イーソー一気通貫イッツー、明らかに幺九牌ヤオチュウハイが少なければ混全帯幺九チャンタといった具合だ。

 本来なら感想戦でやることではあるけど、リアルタイムでできると振込率が大幅に減る。さっき見せた平均順位のカラクリはだいたいこれで、別に私は純粋な打ち方は素人の域を出ない。


『さっきのダマテンは……?』

「あのくらいは慣れだよ」

『幽子さん、さては私達、まだ勝負を吹っかけるには早かったのでは』

『でもちよりん、フロルちゃんにこうやって言われずにあと一週間や二週間でアレ身についてた?』

『無理ですね』






 その後も熾烈な戦いが続いて、暫定最下位は何度も入れ替わった。自分の推しに罰ゲームを受けてほしいファンも含めてずいぶん盛り上がって、まだ終わっていないけど配信としては大成功といえる部類だ。

 ……私? 私は、罰ゲームの内容を考えないといけなくなってきた。そちらの方が麻雀そのものよりよっぽど難しい。


「んー……こっちかな」

『おー、よけた……』

『それ危険牌じゃなかった……?』

「こっち被弾ならまあ割り切っていいから」


 状況は残り20枚を切ったところ、全員がマギにゃを警戒している場面だ。誰も立直はしていないけど、マギにゃは既に二度鳴いている。いずれもポンで、トン一筒イーピン

 私は川に六筒ローピンがあって筋は成立している不要牌の九筒チューピンを捨てずに五萬ウーマンを切った。まだマギにゃの捨牌にはそれ自体だけでなく二萬リャンマン八萬ヤーマンも見えていないけど、五萬はゆーこさんの副露に刻子コーツで置かれている。

 つまり刻子はもうないから、仮にアタリ牌でロンされたとしても場風牌の一翻からで済むはずだ。だけど九筒は……。


「あー……まあ仕方ないか」

『またちょっと怖いところ……』

『むぐぐ』

「大事なのは一貫性だからね」


〈引いた〉

〈ん?〉

〈切るの?〉

〈ベタオリか〉

〈9p切ればテンパイだけど〉

〈フロルはそこと睨んでると〉

〈実際9ピンがアタリだとデカくなりすぎるから……〉


 うん、私は九筒がマギにゃの聴牌の可能性を危惧している。そうだとしてもう片方の聴牌がどちらかはちょっとわからないんだけど、そもそも幺九牌も筒子ピンズも切らなければいい。

 そもそも読みが外れていたとしたら、その場合はある程度点数が落ちるからそれでいい。割り切りは大事だ。


『あ、ロン!!』

『くっ……当たってしまいましたか』

対々和トイトイ混老頭ホンロートー混一色ホンイツハツドラ3、三倍満っ!』

『なっ!?』

『子同士でよかったね……ってチュンあぶなっ』

「うわー、両方だったか」


〈でっか!?〉

〈これはテンション上がるわ〉

〈ちよりんからしたら冗談じゃ済まないぞこれ〉

〈フロル神回避じゃん〉

〈うわマジで9pなのかよ〉

〈きっちり最大値持ってるの草〉


 少しして、その九筒でちよりんが被弾した。やはり危ないところだったわけだ。ここ、字牌と九筒はもう切ってはいけない場面だった。

 次が始まる一方で、ゆーこさんは気付いたように話しかけてくる。


『両方ってことは、だいたいわかってたの?』

「うん……というよりは、最悪のパターンだけ避けた感じ。混一色か混老頭のどっちかは怖かったから、幺九牌と筒子は切らずにベタオリ」

『……え、聴牌すててたの? これがはんだんりょく……』

「ああ、七索チーソー切ったときに九筒切ってれば聴牌だったよ」


〈こんな簡単に聴牌捨ててベタオリできる嗅覚なに?〉

〈マギにゃ字牌まあまあ切ってたよね〉

〈まあフロルだいぶ勝ってるし負けない方が楽かもしれん〉

〈これが強者の余裕か〉


 とはいえ、マギにゃが暗刻アンコーに字牌を持っていたせいで思っていたより強い手を出したから、ちょっと誤算にはなってるよ。追いつかれる可能性が現実的になってきた。

 これ以上守り一辺倒はあまりよくないね。突き放さないと。






 全体的な展開は、ある程度だけどメリカのときと似たようなものになった。ゲームのジャンルは全くの別物なんだけどね。

 私、マギにゃ、ちよりん、ゆーこさんの順だ。麻雀でも点数が伸び悩んでいるゆーこさんだけど、その一方で誰よりもゲームを楽しんでいるように見える。こういうところ、見習いたい。


 一方で違う展開になっているのが……ちょうどさっきの三倍満の分。これの分だけマギにゃとちよりんに大きな差ができていて、加えて私とマギにゃ、ちよりんとゆーこさんの差がそれぞれ縮まっている。これによっていい具合に結末がわからなくなっていた。


『ふろるちゃんに勝てるかも……っ』

「うーん、本格的にヤバいんだよねぇ……。勝たないとキャラ的にまずいんだけど、マギにゃ強くて」


〈なかなか離せないよな〉

〈キャラ的にとか言わんでもろて〉

〈というかなんやかんや全員耐えてる〉

〈もっとボコボコになると思ってました〉

〈コソ練の成果出てるのかもしれんね〉

〈フロルも早くファンクラブ作ってクラ限やらない?〉


「クラブは遅れてごめんなさい、近々作りますから」


 たぶんコソ練の成果は出ているんだと思う。三人ともしっかり基礎のやり方は押さえてきていてけっこう強いし、適当な初心者狩りはあまり通用しそうにないから使っていない。今だってマギにゃに追いかけられているけど、突き放しの確実な有効手はないのだ。機会を待って逃さずに掴むしかない。

 この話になってくると、そうだよね。少なくともこの場では唯一ファンクラブをまだ開設していない私に目が向くのは当然だ。何もやりたくないわけじゃないけど、どうしても手が回っていないのが実情なんだよね。

 ついには筆が速すぎるママがメンバー限定のスタンブやフォントを描きたいと言ってきたけど、こればかりは私が自分でやりたいから断っている。これでもそこそこ絵も描けるんだよ、私。


『わたしね、ライバーは仲間のクラブはいれないの、おかしいとおもうの』

『入りたいんだね』

『欲望が駄々漏れですよ』

「でも入れるようになったら今回みたいなコソ練できなくなるよ」


〈黙っちゃった〉

〈ロジハラやめてください〉

〈確かにそうなんだけど〉

〈マギアすごい葛藤顔してる〉


 マギにゃがこれに反応して不満を表明してきたけど、こればかりはね。同僚のファンクラブに入れないのは、事情や実利なんかもあってのことだから。その代わり、裏での会話では伏せたいこと以外はみんなクラ限での発言やできごとを話したりしているし。


「実際私も、デビュー決まってから全部抜けましたからね」

『……前までは入ってたのですか?』

「そりゃもう。定期的に主張するけど、私は最初の箱ファンだし」

『うわ、凄い発言だ』

『ふろるちゃんだから言えることだね……』

『これは勝てませんね』


〈パワーワード〉

〈その方面じゃ勝てんわ〉

〈デビュー前からはズルいって〉

〈*エティア・アレクサンドレイア / Etia ch.:待って?〉

〈*パンドラ・ラスト Pandora Last:あの あの〉

〈*芥 叶夢 - Tom Akuta:怒らないから今度話さないか?〉

〈先輩たち阿鼻叫喚で草〉

〈フロルにクラ限の恥を見られてて動揺を隠せてない〉

〈エティアはそもそもキャリアの半分以上担当されてたろ〉


 そりゃ見てるよ。私はみんなの、担当マネージャー以外で最初のファンのつもりでいたんだから。これからは自分自身が推される側だから、そのあたりのスタンスも変えざるを得ないけど。

 だからもちろん、先輩たちのあんな場面やこんな発言もしっかり知っている。今から焦っても仕方ないと思うよ?

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