#20【ワードウルフ】空騒ぎ!ファンボードパーティ その40【フロル無双?】

「おいしいよね」

「さっきの流れが?」

「それはもういいよぅ……」

「そうじゃな。間違いなく美味いものじゃ」

「いくつか種類があるよね」


 まずはジャブから。自分がどちら側かもわからないから、わからないうちに自分が少数派だとバレるパターンのリスクが大きすぎてあんまり大胆にはいけない。

 とはいえ探り合いだけでは終わらない。自分が多数派だった場合は誰なのか当てないと勝てないし、当然ながら多数派である確率の方が三倍高いのだ。ひとつだけ裏目があるけど、ちょっと攻めてみる。


「森の中には当然なかったけど、パンドラ先輩が元いた世界にもなさそう」

「ああ、うん。なかったよ。こっちに来てから」

「まあ日本の料理だからな」

「そうじゃな。皆は知って日が浅かろう」


 パンドラ先輩はプロフィールによると、宿っている力の暴走で日本に飛ばされてきたとのこと。元は典型的なファンタジー世界だったそうだから、日本料理はなくて当然だろう。もう片方がパスタだったら墓穴かもしれなかったけど、全員が同意した。

 ただ…………ちょっと違和感があった。気をつけながらつついてみようかな。


「私、好きなトッピングがあって」

「そうだな。どれが好きかはけっこう好みが分かれるんじゃないか?」

「どれかって言える?」

「うん。卵が特に」

「うむうむ、わしもじゃ。よう麺に絡むと特に……」


 あ、尻尾が出た。けど……これだけだとどっちだろう。みくらさんと違うことはわかったけど、もう片方の候補が二つある。自分が多数派か少数派かもまだわからない。

 ここは同調して引き出してみよう。と思ったけど、先んじてパンドラ先輩が切り込んだ。


「でもみくらちゃん、たぶんそれより好きなトッピングがあるんじゃない?」

「な、なんのことじゃ!」

「「「え?」」」

「え?」


 ……完璧だ。パンドラ先輩、綺麗にやってくれた。しかも私が多数派であることも間接的にわかった。

 じゃあもういいか。


「これみくら先輩だな」

「だね」

「間違いなさそうかな」

「な、なっ……うわ、そういうことかえ!?」


 欲しい反応も貰えた。もう喋る必要もなさそうだね。


「じゃあ少数派だと思う人を、手元のタブレットの画面から選んでくれ」

「ま、待て! わしはまだ議論がしたいんじゃが……」

「このゲーム、三人が確信したら余計な情報を出さなくなるからね」


 結果は言うまでもなく、みくら先輩に三票だった。……これはなんだか悪意があるような気はするけど、隙を見せたみくら先輩の責任もあるね。

 とはいえ、見抜かれた人狼にもまだチャンスがある。多数派のお題を当てれば逆転勝利だけど……。


「そ、そうじゃ! わかっておればよいのじゃ!」

「というわけで人狼のみくら先輩、答えをどうぞ!」

「答えは『そば』じゃ!」

「……残念ー!」

「えええっ!?」


 最後のパンドラ先輩の詰め方が上手かったから、これは外れるよね。そうなると思った。

 第一試合は私、デュエ兄、パンドラ先輩の勝ちとなった。というわけで、感想戦。




「正解はラーメンだよ」

「なんじゃと!?」

「フロルちゃん、上手かったね。煮卵と月見そばと釜玉うどんを重ねたでしょ」

「うん。まだカマをかけた段階だったけど、うまく誤認させられたらいいなって」

「それ言ったらパンドラ先輩も上手かったっすよ。あれで完全にラーメンを意識から消せた」

「お、踊らされておっただけか……」

「ふふ、たぬきそばはミスリードだよ?」


 パスタを潰した時点ではまだわからなかったけど、この時のデュエ兄の「日本料理」という発言が実は罠だった。ラーメンが日本生まれの料理であることの知識検査でありながら、うどんかそばの人には違和感を抱かせない発言だ。

 そしてここにみくら先輩が、「皆は」と言った。ここにデュエ兄が含まれているかのような言い方が気になったのだ。それでもしかすると、日本で齢1000以上を数える豊川みくらの基準で「日が浅い」と言ったのかもしれないと当たりがついた。


「それで、みくら先輩が違うのだとしたらラーメンではなさそうだと思って」

「そこまで考えてたんだね……わたしは麺に絡めるって聞いて、煮卵はそんなことしないなと思ってみくらちゃんはラーメンじゃないなって」

「そっちが失言じゃったか……」

「みくらちゃんがうどんかそばかはどっちでもよくて、トッピングの話でそのままきつねうどんかたぬきそばのどっちかの反応をしてくれればとりあえず、他の二人がどっち側かわかりそうだなって」

「むぐ……これでもうどんのところをそばの振りはしたのじゃが」

「もう一段外だよ」


 偽の対抗馬を用意した上で自分は間違えないの、有効なやり方だ。ちょっと難しいけど、今回は綺麗だったね。






「俺がやることなかったくらいパンドラ先輩とフロルが上手かったな。ってことで、次のお題だ」


 それから休憩を挟みつつ何度も続ける。今度書かれていたのは……「イタズラ」。


「私これ好き」

「じゃろうな」

「まあみんな好きだろ」

「楽しいからね」


 なかなかな発言で一致したけど、これだけだとなんともいえない。電ファンはそういう集まりだから。

 もう少し探らないといけないか。


「電ファンのお家芸みたいなところはあるかも」

「Vtuberそのものがそうじゃない?」

「確かにのう。特にフロルは記憶に新しいじゃろ。ようやっておる」

「あ、けっこう見てくれてる……そうだね、私はかなりやってる」


 なんか違和感がある。というか……ついさっき特大のものをされたばかりにしては、あまりに平然としすぎじゃないかな。私のイタズラ癖に言及するなら、もっと責める口調になって然るべきというか。

 もちろん罠の可能性はあるけど、その場合もこれなら正解を探り当てやすそう。一旦ゲームが多数派だとして、とにかく合わせてみよう。


「でもこれ、私以外にも得意なひといるよね」

「そうだな。特にフロルだとは思うが」

「言い方によってはデュエ兄くんもかな?」


 これがどうやら当たりのようで、見事に迷宮入りした。確かにカードゲームもゲームのうちだけど、それが致命的だったね。


「ダメだわからん!」

「これ四人とも同じなんじゃないかとすら思えてくるね……」

「ドッキリってこと?」

「うむ、ありうるぞ」

「一期生、ドッキリ掛けられ慣れてる……」


 結局本当に見つからず、わからないまま当てずっぽうでなされた投票はデュエ兄に二票。これがハズレで、人狼の勝ちが確定する。


「で、誰だよ」

「私だよね?」

「……あ、フロルちゃんだったんだ……」


やっぱり。そうだと思って動いたから。もちろん多数派のお題もわかっている、「ゲーム」だろう。

 人狼がボロを出す前に気付いてしまえば終わりだ。基本的にどうしようもない。




 別の回。手元にあるのは「ドラゴン」……。


「デュエ兄好きそう」

「まあな。フロルも割と好きなんじゃないか?」

「出くわしさえしなければ……」

「そういう次元の話になるあたりにファンタジア組を感じるな」


 電脳ファンタジアの所属ライバーは、現実にもいそうなひとと明らかにファンタジーの存在に分かれている。このうち前者を電脳組、後者をファンタジア組と呼ぶことがあった。この場ならデュエ兄だけが電脳組だ。


「わたしは会いたいかも。手懐けたいな」

「え……?」

「これどっちだ? 人狼か? それともパンドラ先輩が本当にヤバいだけか?」


 それがわからないのがパンドラ先輩の怖いところだった。……そう、今日はここまで大人しかったけどこのひと、時々思考がぶっ飛んでいる。

 パンドラ・ラストは村娘だけど、その身に邪神を宿している。その影響なのか、そもそも邪神の器になれる人間がまともなわけがないのか、たまに常人には辿り着かない領域でタップダンスをするのだ。シミュレーションゲームなんかでは実行に移すこともあって、前は架空の感染症を作るシミュレーションゲームで世界を滅ぼしていた。無邪気に笑いながら。


「危険そうじゃとは思うが……」

「危険で強いほど、服従させたら便利になるでしょ?」

「邪神を宿してるとやっぱり言うことが違うな……」

「もし世界が滅んだりしても、みんなとファンファン箱ファンは助けてあげるからね」

「そういうこと言い出すと宗教になっちゃうって。パンドラ先輩は森羅万象にこういうこと言いそうだからなんのヒントにもならないし……」


 私が嫌な予感を働かせてデュエ兄が助けを求めたのも、主にパンドラ先輩のこういうところが収拾つかなくなるからだった。……だけどデュエ兄、これは私でも無理だよ。私は設定上はせいぜい強めのアルラウネくらいで、とてもじゃないけど太刀打ちできないし。回り始めたパンドラ先輩はツッコミ一人では間に合わないし。

 これをどうにかしていたハヤテ先輩はすごい……といいたいところだけど、実際どうにもなっていなかった。ほかの二人も大概だし、一期生コラボはほとんどが混沌の巣窟となるのだ。


 ……ちなみにこの回の人狼はパンドラさんで、お題は「フェンリル」だった。わかるか!

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