#11【朝活】月曜朝さんだって来たくて来てるわけじゃないんですよ!【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
「コンロンカー。日本晴れで素早さ二倍系ライバー、月雪フロルです! 朝活やるよー」
〈コンロンカー〉
〈植物だ〉
〈フロルは葉緑素〉
〈朝活……だと?〉
〈電ファンに朝活できる子が増えた!!〉
〈ライバーなのに朝に強い!?〉
〈やはりエティアの系譜か〉
月曜朝。そろそろやってみようかということで、初めての朝活だ。現在時刻は午前7時、今日は30分間の予定だ。今はまだ、それ以上は私の朝の時間が足りない。
朝が弱いライバーが多いのは事実だけど、そもそも朝活って大変だからね。自分の準備もしながら朝方に、それもこれから職場や学校に向かう時間のないみんなを元気づけるBGMを作らないといけない。その自分の準備という部分が専業ライバーには少ないとはいえ。
見る側からすればできれば毎日誰かしらがやっているといいなと思うものだけど、電ファンには私を含めて三人しか朝活ができるライバーがいない。あと二人いれば月曜日から金曜日まで埋めたりできるかもしれないんだけどね。電ファンはまだまだ少数精鋭だ。
「まあ、これは雑談の練習も兼ねてたりします。まだ一時間二時間を雑談で繋ぐ自信があんまりないので、まずは30分の短時間配信に合理的理由がある朝活からってことで。私も50分には出ますからね」
〈四期生の初雑談が朝活な方〉
〈他の四期生全員朝弱そう〉
〈時間ないじゃん〉
〈大丈夫なの?〉
〈別に夜に短時間雑談してもいいのに……〉
「準備は全部できてて、あとはシャットダウンして鞄を持つだけなので大丈夫……はい、他の五人は全員朝弱いですよー、朝活やる気はないって言ってましたもん。ゆーこさんは言うまでもないですし、陽くんはギリギリまで寝て慌てて身支度するタイプです。電脳学園軽音部は朝練ないので」
〈ぽいなぁ〉
〈ゆーこさんはそもそも夜型だからしゃーない〉
〈幽霊に朝起きろはね……〉
〈陽くん……〉
〈食パン咥えて走りそう〉
〈同期の話もっとほしいです〉
「同期の話もっと、と。他の三人とはまだ数えるくらいしか会ってないので、半分妄想でいいですかね?」
〈おっ〉
〈欲しい欲しい〉
〈助かる〉
〈ライバー妄想で救われる命はあります〉
〈たった今まで憂鬱だったけど楽しくなってきた〉
会話デッキは二つほど用意してあるけど、余ったら余ったでいいか。積極的にコメントから話題を拾っていく。同期の話ができそうだからその話から。
同期のうちハウスにいるのは二人だけど、他の三人とも連絡はよく取っている。全員と表立って絡むのはもう少しだけ先のことになるかもしれないけど、準備期間中に顔合わせはしているし。同期コラボが楽しみだ。
電ファンには学園組と呼ばれる括りがあるけど、これは公式設定でも採用されている。学園組のライバーは全員『私立電脳学園』という学校に通っている設定になっていて、これが公式番組にも流用されていたり。
やっぱり設定は固まっていたほうが演じやすいし、重なっていたほうが絡みを作りやすいからね。学園組以外も誰かしらと設定面からの関連を作れないか、という試みは考えられているようだ。いわゆる後付けである。
「アンリさんはアレ9時過ぎに朝コーヒー洒落込むタイプですね。私立探偵は時間にルーズでも務まるとか言ってました」
〈あーわかる〉
〈解釈一致〉
〈それっぽい理由を作って平時ダラダラする探偵、良さみ〉
〈問題は締める時締めるかどうかよ〉
「締めるとき……とうなんだろ、締められるのかなーあの人。なんか胡散臭さで乗り切ろうとしてるようにも見えますけど」
〈草〉
〈同期視点でもそうなのか〉
〈意味深にしてれば周りが勝手に深読みしてくれると思ってるイメージ〉
〈早くも同期に見抜かれて舐められてるじゃん〉
〈ライバーで遊ぶフロルだから〉
電ファンは男女混合の事務所ということもあって、五人の同期は毎回男女それぞれが複数人ずついる内訳になっている。私自身が追加枠になったこともあるし、今後は崩れていくこともあるかもしれないけど、身近に同性がいない、ということにはなるべくならないように選んではいそうだ。
アンリ・ブラウンさんはそんな四期生のもう一人の男性ライバーなんだけど、一言でいえば胡散臭い成人男性だ。まだクールぶっているけど、いつか剥がれると思う。こういうタイプのライバーは昔からいるから、みんなそれを期待しているだろう。
「ちよりんは抱き枕を取り上げたら渋々起きる気がしますね。代わりにしばらく機嫌悪くなるけど、朝ごはんが美味しかったらコロッと機嫌直りそう」
〈かわいい〉
〈それはかわいい〉
〈抱き枕わかる〉
〈マイペースな子だもんね〉
〈猫みたい〉
〈フロルに餌付けされて猫になるちよりん概念〉
〈本人聞いてたら暴れるなこれ〉
「本人が見てないだろうから言ってるとこありますよ。そもそも朝強かったらこんなこと言われてないわけで、ふふ」
ちよりんこと
とはいえ、こんな時間に配信を見てコメントできるような子にはこんなことは言わない。後から
「マギアちゃんは起きはするけど輪をかけてふにゃふにゃで、単独配信は無理そう。なんかそういうイメージはあります」
〈良い〉
〈尊い〉
〈ぽやぽやしてそう〉
〈すごくいいです〉
〈あれからさらにふにゃったらもう溶けてるじゃん〉
〈電話かけてみる?〉
「電話? 面白そうだけど、万一がありそうでちょっと怖いかも。とりあえずDisconectのボイチャに入っときますね、もしかしたら来るかもしれません」
『そうだね』
「エティア先輩が来ても驚きはないんだけど。絡みすぎて早くもガチ扱いされつつあるの知ってる?」
『させてるのよ』
「誤魔化しのきかないこと言わないで」
〈草〉
〈エティア来ちゃった〉
〈見てたんやろなあ〉
〈朝活勢が来るのはそりゃそうなのよ〉
〈これでアリエッタも来たらおもろい〉
〈ガチじゃないんですか?〉
マギア・ワルプルガは魔女である。見た目は幼女そのもので声も舌っ足らず気味だけど、それはそれとしてちゃんと魔女らしいことはやっている。0時過ぎにも配信するし、たまについっとを魔法薬レシピメモにしていてちょっと怖い。あの子この間「アルラウネのツル」をメモに並べていたんだよね。
それでも七時台にひらがなオンリーとはいえついっとをしている分だけ、四期生では暫定二番目に朝に強い判定なんだけど……ちょっとまだ朝凸電は怖いかな。デビューしたてで常にライバーとしての感覚が染み付いているかはちょっとわからないし、寝起きでキャラを保つのは慣れと普段からの意識の問題なのだ。
……向こうからアクションができる状態なら大丈夫だろうからと通話部屋で待つ形にしてみたら、5秒でエティア先輩が入ってきた。数少ない朝活勢が来ても「そりゃそう」としかならない。
0期生のアリエッタ=ロータス先輩は……さすがに来ないんじゃないかな。あの人は朝活はするけど基本的に忙しいから、単純に所用で埋まっていそうだ。確か今日はテレビ暁で仕事のはずだし。
「エティア先輩が来て寝起き凸未遂したところって、もうあの話するしかないじゃない……」
『うん。来たらしてくれるかなって』
「まあ、もともとするつもりだったけどね」
〈お?〉
〈この組み合わせということは〉
〈寝起きドッキリの話だ!〉
〈あれマジでよかった〉
〈エティフロてぇてぇだ〉
うん、あの話。私は土日両方を配信して過ごしたけど、寝起きドッキリの動画の話はまだしていなかった。なかなかゲーム中の流れではしづらくて。
ただもう一人の当事者も来てくれたことだから、ここでしてしまおう。今回のどこかでするつもりでもあったし。エティア先輩の立ち絵を画面に用意して……。
「あれ、たぶん皆笑ってくれたんじゃないと思うんですけど、寝起きには割と本気で怖かったんですよ」
『そういう反応だったね。食べないで、だったし』
「寝惚けてたし混乱してたから、本当に食べられるんじゃないかと思ったよ……」
〈あれマジで可愛かった〉
〈あれでフロルは伸びると確信した〉
〈ライバーの悲鳴は元気が出ると身をもって教えてくれてありがとう〉
〈フロルちゃんはこれから他の子もあんな目に遭わせていくんやなって〉
〈あの動画から来ました〉
うん、楽しんでくれたならよかった。ただこれだけは覚えていって、起きたら目の前に般若面があるのはものすごく怖いよ。……ホラー的文脈ではないところで。なんというか、狂気を感じたんだ。
木曜に動画を出されて、金曜にはゆーこさんのチャンネルでコラボ。主にこの二つの影響で、なんと早くも登録者10万人が近づいてきている。どっちも私のチャンネルではないのに。これは電ファンの中でもかなりの速さだ。
「ただ、早朝に怖がらせて終わりじゃなかったのがこの人で。あの後昼間に今度は寝かしつけてくれて」
『あ、自分からその話もするんだ』
「あれでエティア先輩の株が下がるのは私としても看過できないから。この先輩、その日のうちに今度は優しく起こしてくれたんですよ」
『う、うん。やったね……』
〈ほう〉
〈マジ?〉
〈これは……〉
〈てぇてぇだ!〉
〈さっきガチ扱いされつつあるとか言ってたのに〉
〈自分からネタ提供するのか……〉
〈自分のネタより先輩の株〉
〈ええ子や……〉
〈本気で美味しいって思えてるんだなぁ〉
〈もうガチじゃん〉
〈アフターケアバッチリで惚れる〉
〈RTA配信の日だよね〉
〈これはてぇてぇ〉
〈エティフロはいいぞ〉
裏話がそんなにある件ではないけど、この話はしないとと思っていたんだ。これでも割と本気で感謝しているし。
ただ……ある意味ではちょっとした妨害というか、仕返しにはなるかもしれない。あれ以来この人、若干ドSキャラで売ろうとする節が見え隠れしているから。本当は優しいんですよ、と言われて困るエティア先輩……ちょっと見たい。
このまま褒め倒したらどのくらいで照れてくれるかな。先輩が逃げ帰るのが先か、時間になるのが先か、試してみてもいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます