第5話 謎の転校生?

「え?転校生?」


桜は担任の先生が告げた言葉に驚いた。この時期に転校生が来るなんて珍しい。そして、教室のドアが開き、静かな空気の中、一人の少年が現れた。整った顔立ちに短い黒髪、そしてキラリと光る眼鏡が特徴的だ。彼はクラスの前に立つと、軽く頭を下げて自己紹介を始めた。


「僕は…えーと、『モグ』です。よろしくお願いします。」


「モグ!?」


桜は思わず声を上げてしまった。なんと、あの異次元生物のモグが人間の姿で教室に立っていたのだ。クラスメイトたちは、急に大声を出した桜を驚いた顔で見つめる。慌てて口を手で押さえた桜は、必死に冷静を装うが、頭の中は大混乱だ。


(どういうこと!?モグが人間になってる!?しかも、クラスメイトとして転校してきたなんて…。)


先生は軽く咳払いをして、クラス全体に声をかけた。


「じゃあ、モグ君は…えー、空いてる席に座ってもらって…春山さんの隣が空いてるね。」


「えぇぇぇっ!?」


桜は驚きのあまり、思わず立ち上がってしまった。モグが自分の隣に座るなんて想像もしていなかった。しかし、モグはまるで何事もなかったかのように、桜の隣の席に座り、静かにノートを取り出した。


「よろしく、桜。」


「なんで人間になってるの!?しかも普通に喋ってるし!」


桜はモグに小声で問い詰めた。だが、モグはにこりと笑いながら答えた。


「わからないけど、気づいたらこうなってたんだ。人間の世界に馴染むためだって、誰かに言われたような気がするよ。」


「誰かって…!?いや、そもそもそんな適当な理由で転校してこないでよ!」


桜は頭を抱えたが、周りのクラスメイトたちは転校生のモグを不思議に思うこともなく、普通に受け入れていた。異次元の力が何か作用しているのか、桜以外の誰も彼の異常さには気づいていないようだ。


授業が始まると、モグは見た目こそ優等生のようだが、その実態は全く別だった。先生が板書している最中に、モグは授業内容を無視して、持っていた消しゴムをムシャムシャと食べ始めたのだ。


「ちょ、ちょっと!何してるのよ!」


桜は慌ててモグの手から消しゴムを取り上げるが、すでに半分が食べられていた。もちろん、周りのクラスメイトにはその奇妙な光景が見えていない。


「だって、お腹が空いたんだよ。授業中でも食べ物は食べたいだろ?」


モグが悪びれる様子もなく言うものだから、桜はため息をつくしかなかった。異次元生物が人間の姿で転校してきた上に、普通の人間とは全く違う行動を取る。これでは騒動が絶えないのは目に見えている。


その後も、モグは授業中に机をガリガリと齧ったり、ノートを丸めて食べようとしたりと、予想通りの奇行を繰り返した。そのたびに桜はモグを止めようと奮闘するが、どうにもうまくいかない。


「これ以上、変なことしないでよ…!」


桜が心の中でそう叫んだが、モグの無邪気な行動は止まることなく、クラスメイトたちの目をかいくぐって次々と笑いを引き起こしていく。


授業が終わり、放課後になった。桜はモグを引っ張りながら、教室の外へと連れ出した。


「モグ!なんでこんなことになってるのか説明してよ!」


桜が問い詰めると、モグは首をかしげながら答えた。


「僕もよくわからないんだ。でも、人間の世界で少しだけ普通の生活をしてみたくなったんだよ。楽しそうだし。」


「楽しそうって…そんな簡単な理由で転校してこないでよ!」


桜は再び頭を抱えたが、モグの無邪気な笑顔を見て、結局は怒る気も失せてしまった。どうやら、彼との騒動はまだまだ続きそうだ。


「もう、いいよ…。でも、これからは私に迷惑かけないようにしてよね。」


「うん、わかったよ。」


そう言ってモグはにこりと笑い、桜の隣を歩き始めた。こうして、モグが人間として学校生活に溶け込む(?)日々が始まったのだった。

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