新婚相手の連れ子がヤバかった。

三月男爵

第1章 キーストン子爵家

第1話 結婚


 ――2日前


「「「ご結婚おめでとうございます」」」

 

 教会の鐘の音と人々の祝福が辺りに響く。


 セシル・ナインロール。今歳24歳。

 5日前に長年、好意を向けていた相手へ人生初の告白。

そして、過去に例を見ないスピード結婚を達成した。


 相手は同じ騎士団所属で自分の上司でもあった、キーストン子爵家長男のルイス・キーストン、今歳27歳。


 結婚相手が初婚なのは勿論、知っていた。


 それで居ながら、跡取りとして養子をとっていたのも聞いていた。


 しかし、その子供がこんなに破天荒だとは……


 

 ――5年前


 私には生まれた時から朧げだが、前世の記憶があった。


 異世界人、異邦人などと呼ばれる者達。

 時に神の如く尊敬、畏怖され、時に重罪人の様に酷く虐げられ命を落とす人であり人でない存在。

 それが私である。


 前世の私は「おーえる」という仕事に就いており、石や金属で出来た塔で働いていたらしい。


 しかし、前世は前世。今世は今世。

 特段、良い記憶も印象的な記憶もない為、私の人生にコレと言って関わりはなかった。


 実際、無くても変わらなかっただろう。


 7歳の頃には私の人生の大元は決まっていたのだから。


 実家の家臣の1人が見せてくれた剣技。


 板を両断するだけのものだったが、素早くそれでいて美しい剣に私は魅入ってしまった。


 それからというもの、私は剣の腕ばかりを伸ばしていた所為で他の令嬢達からは冷めた目で見られ、中々、社交界には馴染めなかった。

 

 そんな私を見兼ねた元騎士団団長の父上が、普段は使わないコネを活用して、本来なら女性禁制の騎士団への道を作ってくれたのである。



 騎士団への所属は茨の道だった。


 騎士団団員の募集は数年に一度である。

 前提として、剣技や体力が無いと話にならない。

 

 さらに、家柄もある程度求められる。

 これに関しては、主に貴族の務めという面が強い為であるのだが……

 騎士団に入れば衣食住と家族の安全、万が一の時の保障といった厚い福利厚生と国営組織という圧倒的な肩書きがある為、平民出身の者も多い。


 王族に名を連ねる方も数名所属しており、全ての身分に開かれた勤め先である。


 それでも、体力的な要因か世間の評定か、女性騎士という存在は少ない。


 ましてや貴族令嬢が所属を願うなど前例が無い。

 

 能力や志はどうなのか。

 果たして、この人物は組織に必要なのか。


 入団までには数多くの試験が待ち構え、入団した後も、世間では私の様な変わり者の評判はされど良くなかった。


 それでも、自分の特技を活かす為、人の役に立つ為に真っ当な騎士である事を目指していた。


 しかしだ。

 まさか、社交界でも巷でも婚期は無いと言われていた私が結婚相手を見つける事になるとは……

 騎士団に入るきっかけをくれた父も、婚期が無いと言っていた者達も、ましてや、私自身も当時は思いもしなかっただろう。



 ――現在


 それでも、私は結婚した。


 人生で初めて好きになった人と結ばれた。


 幸せなことである。

 

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