BL短編集(裏)

冬生まれ

似た者同士【BL/ヤンデレ/共依存】

いつも笑顔の絶えない君がこの時だけ笑っていなかったのはきっと僕のせいだ。


何故そう思うのかって?


だって……目の前にいる君の表情がそう告げているんだから。



蒼白い、、否、青ざめたといった方が正しいのかも知れない。

君が僕に向ける視線は冷ややかなモノで、まるで軽蔑しているようだった。

そりゃそうだ。

目の前の僕ときたら君が貰った恋文を鋏でジャキジャキと切り刻んでいたんだから。


見られる予定はなかったんだけどなぁ……?


誰もいない教室で隙を見計らってやっていたのに。

まさか君が来てしまうなんて、僕はどんだけ運がないんだろう。

貰った恋文を握りしめ、大事そうに机に閉まった君を見た僕はあの時、もの凄いジェラシーを感じた。

今までずっと一緒にいた僕には見向きもしなかった君が、初めて出会ったあの娘に貰った恋文で一喜一憂しているその姿に無性に苛立ちを覚えた。

君は確かにモテるから、今までだって恋文なんか山ほど貰っている処を何度も見掛けていたし、知っていたけど。

だけど、今まではここまで執着しなかった。

いつも貰っても、すぐに捨てていたのに。


なんで今回に限って大事そうに持っているの?


あの娘は君の好みのタイプじゃないし、君も恋文を貰うまであの娘の事を知りもしなかった。

僕は君の事なら何でも知っているんだ、間違い無い。


なのに、なんで。

なんで。

なんで?


僕がずっと近くにいたのに……。


君は僕に近付いて僕が持つ恋文だった紙切れを奪い取ると、静かに僕を睨み付ける。

目は口ほどにモノを言うように君の瞳の奥に見えたのは恐ろしいほどの殺意だろうか。


あぁ、嫌われた。


そう思った刹那、君の手が僕の胸ぐらを掴んだ。



誰もいない教室でお前は俺の机を漁り、今朝方貰った名も知らぬ女からの恋文を取り出した。

皆が移動教室に向かう際、忘れ物をしたと一人教室に向かったお前の後を他の友人らの声に耳も貸さずに走りだす。


お前の事ならなんだって知ってる俺が騙されるはずないだろ……?


お前は忘れ物なんかしていない。

いつも俺よりこまめに確認するお前が、忘れたなどと宣うのには何か理由が有るはずだ。


お前の胸元に抱える教材、筆箱、ノートと完璧に揃ったそれが何よりの証拠だ。


呆れて教室を覗き見ると案の定。

お前は自分の席を通り過ぎ、俺の席へと足を伸ばす。

辺りを確認しながら俺の座席へと手を伸ばし、椅子を軽く引っ張ると、机をガサゴソ探り出した。


見られているとも知らないお前は机の中から白い紙、基、恋文を取り出すと、その顔は見る見るウチに曇っていく。


あの顔には見覚えがあった。


昔、俺が色んな女から恋文やら告白やらを受けていた時に遠くの方から此方を見つめていたお前の顔だ。

お前が俺を羨んで見ていた時の顔。

お前は俺より全然モテないから僻んでいたんだろう。

唇を噛み締めて恨めしそうに女を見つめてさ?


けどな。


お前が女を見つめる度に俺は心底腸が煮えくりかえる想いだった。

俺じゃなくて女を求めるお前にだ……。

お前の隣にいつも居たのはこの俺だ。

お前の世話を人一倍誰よりもみてきてやったのも優しく色々教えてやったのも全部ぜんぶこの俺なのに、、、。


なんでお前は俺を見ない?


恋文を握りしめ、自身の筆箱から鋏を取り出したお前は躊躇せずにその手紙を切り刻む。

先ほどの曇り顔から一変、今度は然も愉快そうに、ジョキリジョキリと切り刻まれた恋文は紙吹雪の如く床に散った。


俺はその光景をチャンスとばかりに教室の扉を開けた。



素早く此方に振り向くお前は目が合うと、面白いくらいにサッと顔を青ざめた。

右手の鋏を落とし、左手に紙切れとなった恋文を持ちながら後退るお前。


「あっ…これは、、、その」


必死で何か言い訳を探している。

目は泳ぎ、俺を見ようともしない。

その態度に苛つき声を上げた。


「それ俺の手紙だろ?お前、何してくれてんだよ……ッ!」


近付いて咄嗟に紙切れを奪い取る。

それからギロッと睨みつければ、お前はカタカタと小刻みに震え出した。

今にも泣きそうな瞳の奥には絶望が滲み出ており、俺の目を逸らさず見つめ返してきた。


あぁ、やっと俺を見た……!!


お前の瞳に映る俺は恍惚とお前を見つめていた。

にやけ顔を必死に堪えてお前の胸ぐらに掴み掛かる。


「こんな事して、タダで済むと思うなよ?」


紙切れを見せつけながら脅迫すると、お前は縋るように弱々しく呟く。


「ごめっ、、、な、なんでもするから…ゆるしてっ……」

「なんでも?」

「う、ん……」


その言葉に口元が緩み、胸元からスッと手を離す。


それなら。


涙目で震えるお前を優しく抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。


「じゃあ、これからは俺の言うこと何でも聞けよ?」

「…はぃ」


小さく返事をするお前に俺の顔はきっと歪んだ笑みを浮かべているだろう。

手元の紙切れをクシャリと握りしめ、まさかこんなモノが役に立つなんてと捨てる気だった其れを見つめる。

捨てる手間を省いたお陰でようやくお前を手に入れた。


あの娘には感謝しなくちゃな……?




これでお前は俺のモノ。






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