どんくさすぎて3回も婚約破棄された私ですが、王子様に見初められました

倉世朔

上 どんくさ令嬢のシャーロット


 婚約者の前でずっこけた回数5回。

 婚約者とのダンスで彼の足を踏みつけた回数15回。

 婚約者の服に飲み物をこぼしてしまった回数1回。


「わぁぁ! あぶなーーーい!!」


 いや、2回に変更。

 んー、頭から被った場合は別でカウントしたほうがいいのかしら。


「もー我慢できない!! シャーロット・デルファイン! 君との婚約を破棄させてもらう!!」


 あはは。やっぱりそうですわよね。


【どんくさすぎて婚約破棄された私ですが、王子様に見初められました】


 シャーロット・デルファイン公爵令嬢。

 またの名をどんくさ令嬢。


 デルファイン公爵家の家柄がいいことから、婚約者に困ることはないのだが、問題はこの私だ。

 頑張ろうとしすぎるあまり、それが空回り。

 婚約者を誤って湖に落としたり、つんのめった拍子でズボンをずり下ろしてしまったり、足を何度も踏んでしまったり……。


 そんなことが毎度のこと起きるのだから婚約者はカンカンに怒って婚約破棄となってしまう。

 もうかれこれ3回目となってしまった。


「シャーロット。あなたまた婚約者に逃げられたそうじゃないの」

「シンシアお姉様」


 シンシアお姉様は私と違って、完璧なレディだ。ダンスも勉強も手芸も生け花も私より遥かに上。婚約者はもう決まっており、近々結婚式が行われる。


「シャーロット。私の結婚式では大人しくしていなさいよね。どんくさいあなたがいるから恥ずかしいったらないわ。全くあなたは、この家のいい恥晒しよ」

「ごめんなさい。シンシアお姉様」

「あなたと姉妹だなんてほんとに嫌なの。早くどこか適当な殿方に嫁いで、視界から消えてくれる?」

「わ、私も頑張ってるんだけど」

「あなたはなにやってもグズなのよ!」


 私は何も言い返せない。

 たしかに私がどんくさいのは間違いがないし、お姉様が完璧だと言うことは事実だ。


「明日の舞踏会、あなたと時間をずらして参加するから。私に話しかけないでよね」

「うん、わかったわ」


 そう言うとシンシアお姉様は、背筋を伸ばして気品高く歩き去っていく。


 神様は不公平だと思う。

 私にできることは歌を歌うことだけ。

 シンシアお姉様の才能の1個だけでも私のものにできれば、周りから疎まれることもなく、誰からも好かれたであろうに。

 

 私の友達は、小鳥だけ。

 窓を開けて歌を歌えば、やってきてくれる。

 あぁ小鳥よ小鳥。

 私も人間ではなく小鳥であれば、皆から好かれたのだろうか。


 ***


 シンシアお姉様と時間をずらして舞踏会に出向いた。私が来たとわかると、皆が私を避けていく。


「シャーロットよ。どんくさ令嬢の」「せっかくのドレスを汚されたらたまらないわ」「彼女の近くにいるとロクなことにならない」


 舞踏会の雰囲気は嫌いではなかった。

 音楽とダンスに包まれて、美味しいものを食べて楽しくおしゃべりする。そういう空間に浸れるだけでも私は幸せだった。

 でも今日は来るんじゃなかったと思う。


 ここに私の居場所はない。


 私は一人中庭に移動してベンチに座った。

 夜だと言うのに、紫色の小鳥が木の枝に止まっている。


 私は軽く鼻唄を歌って小鳥と会話をした。小鳥は嬉しそうにピィピィと返すと私の肩に飛び乗る。


「君、小鳥を操れるのかい?」


 私は声のする方を向くと思わず、え!と声を上げた。

 

 私に話しかけてきたのは、この国の皇太子であるユーリ殿下だった。


「殿下! あのこれは」

「非常に珍しい種類の鳥なんだ。よく見せてくれないかい?」


 私はハミングをして小鳥を指まで誘導する。

 王子は嬉しそうに鳥に近づいた。


「あぁ、なんて小さくて可愛らしいんだ。君はすごい能力をもっているんだね。君の名前は?」


 私の名前を言ったらきっと、気づいてしまう。

 私がどんくさ令嬢だって。


「シャーロット・デルファインですわ。殿下」

「デルファイン公爵家の! これはこれは」

「殿下! 私に近づかないほうが」


 私はベンチから立ち上がり、後ずさる。

 しかし、ドレスの裾が足にひっかかり倒れそうになった。


「危ない!」


 ユーリ王子は私の腰に手を回して支える。王子の顔が一気に近くなって、私は顔を真っ赤にさせた。


「も、申し訳ありません!」

「いやいや、いいんだよ。それよりもシャーロット。シャーロットって呼ばせてくれないか?」

「もちろんです! 殿下」

「では、シャーロット。今度私の誕生日パーティーが開かれるんだけど、君も来てくれないかい?」


 私は驚いて目を丸くした。


「わ、私がですか!?」

「君の歌声は鳥をも魅了する。もっとその歌が聞きたいんだよ」

「で、ですが殿下」

「何か問題でもあるのかい?」


 私は自分のドレスの裾を握りしめ、うつむいた。


「殿下は私の二つ名をご存知ないのですね」

「二つ名?」

「私はシャーロット・デルファイン。またの名をどんくさ令嬢と言われておりますの! だから殿下の誕生日パーティーには参加できません! 私がいたらきっとパーティーが台無しになってしまいますわ!」


 私はそういって、小走りで中庭から出た。

 これでいいのだ。

 これなら誰も恥をかかずにすむ。


 殿下とのささやかな思い出が残せた。

 それだけで私は十分です。

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