異世界で金と仲間でダンジョン無双

国米

第1話:最後の願い

俺の名前は倉木 未来(くらき みらい)。

独身で30歳の派遣社員だ。


「くそ~、100回以上倒してるのにレアイテムなしかよ・・・。」


俺は暗い部屋の中、子供の頃発売されたTVゲームをしていた。

「ソーサラー」というダンジョン探索型のゲームだが、ストーリーはほとんどなく、基本的にはレベル上げとレアアイテム集めが主という硬派なゲームだ。


「もう深夜3時か・・・。明日も仕事だからもう寝ないとな・・・残業がなければもっとゲームできるのに。」


いい大人なのに明日の事も考えずに深夜3時までゲームをするなんて本当に俺は馬鹿だと思う。

はっきり言って俺は仕事が出来ない。

そのため他の人が出来るノルマを終電まで残業して終わらせるのがやっとだ。

当然周りから馬鹿にされているし、残業代も出ないので毎日が空しい。

唯一の楽しみがダンジョンゲームでのレベルアップとレアアイテム探しだ。


「昔のゲームはいいよな。ただ単純作業を繰り返して強くすればいいだけだから。現実もそうだったら良かったのにな・・・。」


単純作業しか出来ない人間は社会から必要とされない、当たり前の事だ。

しかしゲーム内では単純作業で強くなり、それを誇ることが出来る。

それが日々のストレスから解放してくれるのだ。


「しかし若い頃と違って、最近調子が悪くなってきたな。特に頭痛が酷いけど・・・大丈夫だよな。」


その時、いつもより酷い頭痛がして、何かが切れたような感覚を感じた。


「な・・・なんだ・・・。」


俺は座ったまま床に前のめりに倒れた。

体を動かそうとしても全く動かない。


(え?え?うそだろ?体どころか声も出せない・・・。)


もう何も出来ない。

意識も遠のいていく。


(ああ・・俺は死ぬのか・・・でも社会にとってはいいのかもしれない。来世ではもう少しでも必要とされる人間になれたらいいなあ・・・。)


◇◇◇


気が付くと霞がかった場所にいた。

周りがよく見えないし、地面はまるで雲のようだ。


「ここが天国なのか?」


天国など来たことがないが、イメージ的にはあってる気がした。

すると霞の中から人影が浮かんできて、やがて俺の前に姿を現した。


「よく来てくれました。」


現れたのは美しい金髪碧眼で清楚な白い服に身を包んだ美しい女神だった。


「女神様、俺は死んだのですか?」

「残念なら貴方は死にました。これから貴方という存在はなくなり世界の一部となります。」


どうもここは天国で間違いないようだ。


「最後に何かやりたい事はありますか?」

「やりたい事・・・それは何でもいいのですか?」

「ん?・・・さすがに何でもは無理かもしれませんが・・・。」


さすがに何でもは許されなかったようだ。

とはいえ最後の願い、なんと思われてもいいから率直な願いを言おうと思った。


「なら、最後に女神様、貴方と愛し合う・・・と言うのは無理でしょうか?」


我ながら気持ち悪いと思ったが、女性から愛されなかった俺の切実な願いだった。

すると女神様は涙を流し始めた。


「あっ・・・す、すみません。ダメですよね。申し訳ありませんでした。」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません。貴方の願いを叶えてあげたいのですが、私には無理なのです。」


そう言って彼女は俺に近づき抱きしめてくれた・・・はずだったのだが、俺の体を素通りしてしまう。


「私には肉体がありません。貴方の望む姿を反映しているにすぎない幻なのです。」

「そうですか。お心遣いだけでもありがたいです。」

「ふむ・・・。」


すると女神様は俺の事をじっと見つめてきた。

その後、その場をウロウロしながら何か考え始めた。


「なるほど、貴方は欲望はありますが心は汚れていませんね。私には貴方の願いは直接叶えられませんが、方法はあります。」

「方法ですか?」


「貴方は異世界に興味ありますか?」






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