儀式 参

「探してるって、睦美の知り合いですか?」

見たところ30代ぐらいの男。

父親ではなさそうだが・・・。

「睦美さんのご両親に依頼されたんだよ」

男は上着のポケットから手帳を取り出し、挟まれていた名刺を僕に差し出した。

「”梅貝雅人うめづかまさと”。職業は探偵だ」

「・・・”桜田伊吹”さくらだいぶきです。大学生です」

探偵?

正直疑わしい。

ぼさぼさの長い髪の毛を一つに結んでいるが、所々毛束がふわふわと緩んで出ている。

サイドの髪の毛も多く、目に掛かっている。

更にあごひげを生やしており、あまり清潔感がない。

怪しいが、睦美を知っていることには変わりはない。

話を聞こう。

「睦美の事、どこまで知っているんですか?」

「そんな怖い顔するなよ、伊吹君。ご両親から直接話は聞いている。もちろん、彼氏である君の事もね」


男が言うには、つい先日警察の捜査を当てにできないと思った睦美の両親が、梅貝さんに依頼。

睦美がいなくなる数日前、睦美が母親に連絡をしたようだ。






「お母さん、あのね、私しばらくお出かけするの。サークルの皆と」

「そうなの?どこへ?」

「XX神社・・・ねぇお母さん。お父さんはそこにいるの?」

「今はまだ帰ってきていないわ。どうしたの?」

「ううん。なんでも。・・・お母さんありがとう」

「あまり無理をしないのよ」

「うん・・・また今度連絡するね」










「それっきり、睦美さんからは連絡が取れていないらしい」

「睦美が両親に電話・・・?」

知らなかった。僕が一度睦美の親に電話したときは、知らないの一点張りだった。

・・・疑われていたのか。はた目からみたら、睦美に一番近い存在。

容疑者の一人だろう。

自分の彼女の身内に疑われているショックで、泣きたくなった。

だがグッと堪えて、男と話を続けた。

「それでこの村に来たんですね。神社の方には?」

「行ったよ。神主さんが亡くなったんだってね」

「それに謎の祠もできたそうですよ」

「あぁ、それも聞いてる。祟りで殺されたって噂されてるね」

男は煙草を机の上にあった、ガラスの灰皿に捨てるとすぐに新しい煙草に火を点けた。

ため息混じりに煙を吐い出した。

「オカルト・・・俺は信じられないんだけどねぇ」

「それは僕もです」

「君の彼女さんは、随分オカルト好きだったみたいだけど」

「睦美はその祟りについて、調べていたんでしょうか?」

「いや、時系列が逆だねぇ。睦美ちゃんたちがこの村に来て、その事件が起きている」

「そうなんですか?」

「オカルトサークルの連中は、この旅館に泊まっていた。そこの名簿に名前が載ってあった」

僕はフロントの方を見た。

あそこに置いてあった名簿に、睦美の名前が・・・?

「気になる?」

「えぇ勿論です」

「じゃあ着いてきて」

梅貝さんは、タバコを灰皿にしてソファから立ち上がった。

サッサと早歩きでフロントの方へ行き、僕も後を追った。



「確かこの辺だったよねぇ」

フロントの棚を開けた梅貝さんは、ノートを探し始めた。

「ちょ、ちょっと流石にまずいですよ!」

「良いの良いの。ここのおばあちゃん、夜中は寝てるし」

「そういう問題じゃないです!泥棒ですよ!」

「盗まないよ~。ちょっと借りるだけぇ」

この人、やっぱり信用できないな。

「あった!はい、このページねぇ」

開かれたページを見ると、そこには確かに”朝霧睦美”の名前が書かれていた。

「本当に、睦美の名前が・・・。睦美の字だ・・・」

睦美の生きた証が記されている。

ここに来ていたんだ。

安堵のような、泣きたいような、そんな複雑な感情に押し潰されそうになった。

睦美の字から、久しぶりに彼女の生を感じる。

「・・・写真撮っとく?」

僕は頷いて、ノートの写真を撮った。



おばあさんには悪いが、睦美の字だけでも手に入れたい想いが勝った。

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