存在しない祠が出現した村

即興

存在しない祠が出現した

「村長!これは、一体・・・?」

近所の村娘に呼び出され、ある場所へと向かった。”これ”と指された方を見ると、見慣れない古びた祠があった。

「分からない。こんな祠があること自体初めて知った」

「いたずらでしょうか?最近よそ者が多く来ますし」

「よそ者がこれを置く理由がよく分からんな」

「犯人は分かりませんが、置いておくのもなんですし・・・」

村娘はそう言って、祠に近づいて触れようとした。

「や、やめときなさい!何を奉っているのか分からないから、迂闊に触れてはならないだろう!」

「分かりました。でも早いとこ対処したいですね」

「そうだね。とりあえず、神主に聞いてみよう。何か分かるかもしれん」



早速、二人で神社に向かうと何やら騒々しい。

鳥居に人集りができている。

「何かあったのか?」

「そ、村長!!こ、これ・・・」

その光景に目を疑った___

神主の変わり果てた姿だった。

外傷はなさそうだが、明らかに死んでいる。

顔は悲痛に歪められた表情をしたまま、鳥居にもたれ掛っている。

「朝来た時にはもうこの姿で」

「警察は呼んだのか!」

「電話は繋がるんですが、意味が分からないんです!」



村人の一人が携帯で110番を掛けてくれた。

「こちら、110番通報です。事件ですか?事故ですか?」

「事件です!人が死んでいるんです!」

「場所は縺ゥ縺薙〒縺励g縺?°?」

オペレーターの声が、急に無機質に意味不明な言葉を発した。

「場所はXX村のXX神社です!」

「縺吶∩縺セ縺帙s縲√b縺?ク?蠎ヲ縺企。倥>縺励∪縺」

「もしもし?そちらの声がよく分からないんですが」

「縺吶∩縺セ縺帙s縲√b縺?ク?蠎ヲ縺企。倥>縺励∪縺」

ブツリと電話が切れてしまった。



「何度電話しても、ずっとこんな感じなんです」

「なら村の外へ行って直接助けを求めに行こう」

「村長、それが・・・」

また何かあるのか。

「村と外を繋ぐ唯一のトンネルが、昨日の夜の間に崖崩れで塞がれてしまって・・・」

「なら私たちは閉じ込められたのか?!この村に!!」

私の言葉に、村人たちは騒めいた。

「神主様を殺したかもしれない奴がいるのに?」

「犯人は誰なんだ!」

「よそ者よきっと!」

まずい。とにかく皆を落ち着かせねば!

「一旦、村のものを集めて会議を行う!全員、私の家に集まるよう声掛けを頼む」



20分ほど経ち、ようやく皆が集まった。

まず神主が死んでいる事、謎の祠が建てられている事を伝えた。

「犯人に目星がある者はいるか?」

「村長、私怪しい人知っています」

声をあげたのは、旅館の女将だった。

「今宿泊している記者の男です。何かとつけて、村の事を探ろうとしていましたわ」

「村の事?」

「えぇ。妙なことを言ってましたわ。祟りやら呪いやら」

「うちの村にそんなものないが」

「何度言ってもしつこいんです。まるで尋問されている気分でしたわ」

「その男に後で直接聞いてみよう。何か知っているかもしれん」

「村長、犯人かもしれません。迂闊に話しかけるのは危険ですわ」

「閉じ込められている以上、何もしないわけにはいかない。私が話をしてくる」

そう言うと、後ろから肩をトントンされた。

振り返ると、近所の村娘だった。

「一緒に行く」

「危ないからここに居なさい」

「え~!やだ!!」

「諦めなさい」

「でも村長が話しかけるより、私が話しかけた方が良いよ!」

「なんで?」

「だって幼い子供の方が話しやすいんじゃない?大人ってすぐ子ども舐めるし」

「なんてこと言うんだ、君は」



致し方なく、村娘を連れていくことに。

女将の旅館へ向かうと、ロビーにそれらしき男がソファに座っていた。

無精ひげに、ぼさぼさの髪を一つに結んでいる。

年齢は30代ぐらいだろうか。

見るからに胡散臭い。

何やら手帳と睨めっこしているようだ。

調べものをまとめているのか?

「ねぇねぇおじさん!何してるの?」

いつの間にか村娘は男に近づいていた。

物陰に隠れて様子を見よう。

「ん~?俺ね、この村に調べものがあって来たんだよ、お嬢さん」

「調べ物って何?」

「この村の言い伝えだよ。昔祟りがあったと聞いたんだ」

「祟り?聞いたことないよ?」

「皆そう言うねぇ」

「だって事実だもん」

「そうなの?でもね、村の外では結構有名になっているんだよ?ここで昔神主が祟りで殺されたって」

「へぇそうなんだ。じゃあ神主さんにはその話聞いたの?」

「いやまだ。ちょうど今から行こうと思ってたところ。でももう一つ用事思い出しちゃった。ねぇ村長さん」



どうやらバレていたようだ。

大人しく出よう。

「すみません。盗み聞きするつもりでは・・・」

「良いよ良いよ!俺盗み聞きするのが趣味だし!されるのも全然平気」

悪趣味な人だ。

「で、村長さん。ぶっちゃけて聞くけど、祟りやら呪いやらこの村には”存在しない”。そうだね?」

「ああ。そんな話は聞いたこともない」

「そっか・・・」

男はじっとこちらを見つめたまま固まった。

真剣な顔つきが一変し、穏やかな表情になった。

「やぁ・・・村ぐるみで嘘ついている訳ではなさそうだな。良かった」

「あの、貴方の仰った噂とは何ですか?」

「ネットでこの村を検索すると、祟りの話が出てくるんだよ。結構動画やら掲示板やらで話題になってる」

「ネットは疎いから分からん」

「まぁ赤の他人が勝手に囃し立ててるってこと」

面倒くさいな。一体誰がそんなデマを流したんだ。



「ねぇおじさん。噂では神主さん死ぬんでしょ?何で死ぬの?」

「神主が信仰心を忘れたから」

「あの人に限って、それはあり得ない!あんなに誠実な人だったのに・・・」

「・・・”だったのに”?」

「あ、いや、その」

「村長さん。俺も知っている事話したんで、そっちも話してくださいよ」

「・・・」

「”存在しない祠”があるんだな?」

「!!」

「こっちの話をもっと聞きたいなら、そっちが話してくれないとな」

「・・・仕方がない」

この男に、祠と神主が死んだ事、村に閉じ込められたことを伝えた。



「なるほど。じゃあ噂通り神主は死んじまったのか」

「そうだが、まだ祟りと決まった訳じゃないだろう。殺人の可能性は捨てきれん」

「俺は、祟りを使った殺人だと思うね」

「は?」

「存在しない祠が建てられて神主が死ぬ。この村以外にも起きてるんだ」

そんな馬鹿げた話があるのか?

「証拠に写真を撮ってある。・・・あぁ、ご遺体も映ってるからお嬢ちゃんは見ない方が良いかもね」

「別に平気だし」

「お嬢ちゃん強いねぇ!」



男は手帳の中身を見してくれた。

そこには、3枚の祠の写真が張られていた。

「これらは別々の村に合った”存在しない祠”だ。この村で四件目。見覚えは?」

「これ見た!私が一番最初に見つけたんだよ!」

「お嬢ちゃんお手柄だ!俺の相棒になるか?」

「不潔だからヤダ」

「お嬢ちゃん手強いねぇ!」



「四件とも同じって事は、連続殺人なのか?」

「その可能性が高い。祠だけじゃない。殺され方も一緒だ」

手帳のページが捲られると、今度は三枚の遺体の写真が張られていた。

「・・・確かに、同じ死に方だ」

「神主同士に繋がりはない。無差別殺人の可能性が高いね」

「なぁ犯人の目星はあるのか?」

「ある」

「だ、誰なんだ!?」

「こいつらに見覚えは?」

ページが捲られると、今度は4人の若い男女が写っている写真が張られていた。

「見たような、見てないような・・・。最近よそから来る人多いから覚えておらん」

「この人たち知ってる」

村娘はじっと写真を見つめながら答えた。

「大学生の人でしょ?神社までの道を聞いてきたから、覚えてる」

「それはいつ頃だい、お嬢さん」

「昨日の夕方ごろ。お参りした後すぐ帰るって、言ってた気がする」

「・・・もう少し早く到着できたら、止められたかもしれなかったのに。残念だ」

「この四人が本当に犯人なのか?」

「あぁ。目撃証言が4件全部の村である。クロで間違いない」

「この人たち、一体何者なんですか?」

「XX大学のオカルトサークルの連中だ。交霊術や呪いの類を研究してるそうだ。多分この殺人も、実験か何かだろう」

「はた迷惑だ」

「厄介なことに、決定的な証拠がないから逮捕できない」

「泣き寝入りするしかないのか?!」

「普通だったらそうだな。でも・・・」

男はニヤリと笑みを浮かべながら言った。


「同じ方法で仕返すことはできるんじゃないか?」



「それは、祠を建てて同じように殺すってことか?」

「同じ方法ってそういう意味じゃない。同じように法で裁けない方法で仕返すってこと。ほら、祠建てるなんかより簡単な方法があるだろ?」

「・・・?」


「祠を壊すんだよ」



「そ、そんなことして大丈夫なのか!?」

「どういう手順で祟りを行っているか分からないが、祠が必要なのは確かだ。祠は、遠くにいる神と繋がる為のもの。祠が無くなったら・・・?」

「神様と繋がれない?」

「そうだ。しかもこの悪神は信仰心を失った奴を殺していく。祠を壊されて、放置したら…」

「神主が死ぬ?しかし大学生たちは神主ではないだろう?」

「祠を建てる時、儀式をするだろ?」

「あ・・・」

「その時に、誰かが神主の代役をやるはずだ。事前に悪神を怒らせておく。五件目の事件が起きる時に、決着がつく」



男の言う通り、祠を壊した。

村人には事情を説明し、男を見送ろうとトンネル前までやってきた。

「しかし、あんたどうやって帰るんだい?」

「閉じ込められるのは想定済み。予め助けを呼んである。すぐにトンネルは開通するよ」

「そうか、しかし・・・」

私は男に気になっていた点を聞いた。

「どうしてそこまで真剣に調べていたんだ。やっぱり記事にすると金になるからか?」

「ん?あぁ、実はね俺嘘吐いてたんだ」




男はトンネルに歩みを進めながら、言葉を続けた。

「探偵なんだ」


ー完結ー

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