第9話
学校へ向かう道は、今日はいつもより静けさを感じた。
早朝の空気がひんやりとしていて、心地よい爽やかさが俺を包み込む。
自転車を漕ぎながら、昨日のことを思い返していた。
文化祭の出し物について話し合いがあったけど、まだ何も決定していない。
いくつか案は出ているけど、これから投票で決めることになりそうだ。何が選ばれるか少し楽しみでもある。
自転車を駐輪場に置くと、周りはいつものように友達やクラスメイトがそれぞれ登校してきている。
けど、今日はどこか穏やかで静かな雰囲気が漂っているように感じた。
俺はカバンを肩にかけ、校舎に向かって歩き出す。
教室に入ると、少し早かったのかまだそこまで生徒は集まっていなかった。
教室の窓から差し込む朝の光が、やさしく机を照らしている。
俺は自分の席に着き、カバンを机の横に掛けた。教科書やノートを確認しつつ、今日の授業に備える。
クラスメイトが次々と教室に入ってくる音を聞きながら、ふと佐藤さんのことが気になった。
彼女ももうすぐ来るだろうか。
昨日は彼女と一緒に帰ることができて、ちょっとだけ心が浮ついている自分がいる。
だが、それを顔に出すことなく、いつも通りに過ごすよう努める。
ホームルームが始まり、顧問の先生が前に立った。
先生は黒板の前に設置された大きめのタブレットを操作して、事前に登録された文化祭の演し物の候補を表示し始める。
「さて、皆さん。文化祭の演し物の候補が出揃いました。今から皆さんの手元のタブレットにもこのリストを送信します。各自、演し物を選んで、送信ボタンを押してください」
と顧問が指示を出す。
その言葉にクラス内が少しざわめく。
画面に映し出された候補は全部で五つ。
出し物のリストを眺めながら、俺はどれにしようか悩んだ。
一つ目は
「お化け屋敷」
毎年定番で盛り上がる出し物だが、準備が大変そうだなというのが正直なところ。
二つ目は
「カフェ」
これは比較的簡単そうだけど、他のクラスでもよくある出し物だ。
三つ目は
「演劇」
演技力が必要だが、もしこれに決まったら、少し自信がないかもしれない。
四つ目は
「展示会」
美術的な展示や作品紹介をするものだが、インパクトに欠ける気がする。
最後の五つ目は
「バンド演奏」
音楽好きにはぴったりだが、俺は楽器が得意というわけでもない。
「どれにしようか…」
と、少し考え込んだ。
個人的にはカフェが一番楽そうで、みんなも楽しめそうだが、やはりお化け屋敷も盛り上がりが期待できる。
クラス全体で協力できる出し物の方がいいのかな、とも思いながら、演し物を選ぶ。
「よし、決めた」
と心の中で呟いて、お化け屋敷に票を入れることにした。
少し手がかかるけど、クラス全員で協力して作り上げるのも悪くない。
投票画面で
「お化け屋敷」
を選択し、送信ボタンを押した。
周りを見渡すと、みんなもタブレットに視線を落とし、真剣に演し物を選んでいる様子だ。
友達の山田もタブレットを操作しているが、顔を見る限り、彼もまだ迷っているようだ。
佐藤さんはどうするのかな、とちらっと彼女の方を見るが、彼女も真剣に候補を見つめている。
数分後、クラス全員が投票を終えると、顧問が結果を集計し始めた。
「さて、結果が出るまで少々お待ちください」
と言うと、教室内が少し緩んだ空気に包まれる。
「何になるかなあ」
と山田が隣でぼそっと呟く。
「お化け屋敷も人気ありそうだし、カフェも無難だけどどうかな。個人的には楽な方がいいんだけどな」
と、彼は少し笑いながら続ける。
俺も同感だ。
楽しめることが一番だが、みんなで成功させたい気持ちもある。
しばらくして、顧問が手元のタブレットに表示された結果を見ながら、黒板に向かって歩き始める。
クラス全員の注目が集まる。
「皆さん、お待たせしました。今回の文化祭の出し物は…」
先生の声に少し緊張感が漂う教室内。
結果がどんなものになるのか、期待と不安が入り混じった空気が流れる。
「お化け屋敷に決まりました!」
と、顧問が発表した瞬間、教室内は歓声と拍手で包まれた。
お化け屋敷が選ばれたことに、みんなが一気に盛り上がりを見せる。
「よし、頑張ろう!」
と、周りから次々と声が上がる。
俺も少しホッとしながら、クラス全員で作り上げるお化け屋敷がどんな風になるか、楽しみになってきた。
今日から文化祭の演し物の準備が本格的に始まる。
クラス全員が協力して、お化け屋敷を作り上げるため、細かい役割分担が決まっていく。
俺は、演出や装飾の担当になった。
演出をどうするかは結構重要で、単に驚かせるだけじゃなく、雰囲気を作るのがポイントだ。
どうすればみんなが恐怖を感じてくれるか、考えながら作業に取り掛かる。
「さて、どこから手をつけるか…」
と呟きながら、まずはお化け屋敷のレイアウトを確認する。
黒板に大きな紙が貼られていて、そこに教室を使った簡単な設計図が描かれている。
入場から出口までの流れを想像しつつ、驚かせるポイントをいくつか作ることにした。
クラスメイトとも相談し、怖い演出を提案し合いながら決めていく。
「もっと暗くしたらどうだろう?」
「鏡とか使って、急に顔が映るとか怖くない?」
という声が飛び交う中、みんなでアイデアを出し合う。
俺も
「入り口付近は、最初に静かな恐怖を感じさせて、徐々にクライマックスに持っていくのがいいんじゃないか?」
と意見を出す。
演出担当として、どうすれば雰囲気が出るかを考えるのは少し難しいが、楽しさも感じている。
一方で、土曜日には運動会が控えている。
文化祭の準備に気を取られすぎて、運動会のことを忘れそうになっていたが、これも大事なイベントだ。
運動会では、俺はリレーの選手に選ばれている。
だから、文化祭の準備だけでなく、体力の維持にも気を配らなければならない。
「運動会の練習もしないと…」
と心の中で思いつつ、体育の時間にしっかりと体を動かしておこうと決意した。
文化祭の準備の合間に、運動会の話題がクラスメイトの間で上がる。
特にリレーはクラス対抗の一番盛り上がる競技で、みんな気合いが入っている。
「俺たちのクラスが優勝するぞ!」
と、クラスメイトの山田が言うのを聞き、俺も負けじと
「そうだな、頑張ろう!」
と返す。
放課後も文化祭の準備が続く。
装飾の素材を買い出しに行ったり、教室を少しずつお化け屋敷らしくしていったりと、クラス全員で力を合わせて準備を進める。
佐藤さんも飾り付けを担当していて、一緒に作業する機会が増えた。
彼女が真剣に作業している姿を見ていると、少しドキドキする。
「明日はもっと進めなきゃな…」
と考えながら、その日の準備が終わると、少し疲れた体を感じつつ家に帰る。
帰宅すると、夕食の準備をする。
文化祭と運動会の両方を控えているから、食事も栄養を考えてしっかりと作らなければならない。
今日は鶏肉と野菜を使った炒め物と、味噌汁を作ることにした。
「これで、体力もしっかりつくかな」
と思いながら、キッチンで料理をする。
夕食を終えて、少し休んだ後、明日も早く起きるために早めに寝ることにした。
布団に入ると、今日の出来事が頭に浮かび、これからの文化祭や運動会への期待と緊張が入り混じる。
「明日も頑張ろう」
と、そう思いながら、俺は眠りについた。
翌日、学校に着くと、教室はすでに文化祭の準備に向けた活気に満ちていた。
黒板には今日の作業予定が書かれ、みんなそれぞれの担当に向かって作業を開始していた。
俺も教室の装飾を手伝うために、準備を始める。
今日は特に入り口部分の演出に力を入れる日だ。
昨日話し合った案を基に、壁に不気味なイラストを貼ったり、暗幕で照明を調整して雰囲気を作る作業が続く。
「この幕、もっと上に持ち上げようか?光が強すぎるかもしれないな」
と、班の仲間と話し合いながら作業を進めていく。
作業は順調に進み、俺たちのクラスのお化け屋敷は少しずつ形になってきた。
しかし、文化祭の準備だけに集中するわけにはいかない。
午前中の授業もしっかり受けないと、勉強が遅れてしまうからだ。
ホームルームが終わった後、次の授業は数学。
俺はノートと教科書を取り出し、机に向かう。今日の授業は方程式の応用問題。
普段はあまり得意じゃないけれど、最近は少しずつコツが掴めてきたような気がする。
「よし、これでいいかな…」
と自信を持って解いた問題をノートに書き込む。隣を見ると、山田が頭を抱えていた。
苦手な問題が出てきたのだろう。
俺はそっと彼のノートを覗き込み
「ここはこう解くんだよ」
と教えてやる。
山田は感謝の眼差しを向けながら
「お前、ほんとすごいな」
と笑う。
俺も
「いや、まだまだだよ」
と照れ笑いを返しながら、授業に集中した。
午後になると、再び文化祭の準備に戻る。
午後の時間帯は、お化け屋敷の中の細かい演出に取り掛かる予定だ。
クラスメイトたちと協力しながら、入り口から出口までの動線を確認し、効果的に恐怖を演出できる場所を探していく。
途中で佐藤さんが
「こっちの方が怖さが出るんじゃない?」
とアイデアを出してくれて、彼女の意見も取り入れながら、少しずつ作り上げていく。
「これでどうかな?」
と全体を見渡していると、佐藤さんがにっこりと微笑んで
「すごくいい感じだね」
と褒めてくれた。
その言葉に、俺は少し照れつつも
「まだまだこれからだよ」
と返した。
彼女の意見を聞きながら作業するのは楽しいし、少しでも良いものを作ろうという気持ちが高まる。
その後、全体の進捗を確認してから、今日の作業を一旦終えることにした。
文化祭の準備も大変だけど、こうしてクラスメイトと協力しながら作業するのは楽しい。
みんなの力を合わせて何かを作り上げるという経験は、普段の授業では味わえない貴重なものだ。
放課後、残った仕事を片付けるために少しだけ残って作業をしてから帰ることにした。
帰り道、今日も少し疲れた体で自転車をこぎながら、明日も頑張ろうと自分に言い聞かせた。
文化祭まであと少し。
明日も忙しい一日になりそうだ。
木曜日の朝、目覚まし時計が鳴ると同時に、俺は目を覚ました。
まだ薄暗い部屋の中で、カーテンの隙間から微かに漏れる光が心地よい。
今日も忙しい一日が始まる。
文化祭まであと数日、そしてその前日は運動会だ。
気持ちが引き締まる思いだ。
まずは朝食を準備する。
エプロンをつけ、キッチンへ向かう。メニューはいつも通り和食。
味噌汁、焼き魚、そしてご飯。
シンプルだが、栄養満点だ。
お椀に温かい味噌汁を注ぎながら、昨日の文化祭の準備を思い出す。
お化け屋敷の装飾が進み、みんなのアイデアが形になってきているのが嬉しい。
朝食を終え、弁当の準備に取り掛かる。
今日は唐揚げをメインにした弁当だ。
余った材料を使って、彩り豊かに仕上げる。
冷蔵庫を開けると、昨日の夕食で作った肉じゃがの残りがある。
これもお弁当に入れてしまおう。
手際よく詰めていく。
弁当を作り終えると、無意識に達成感を感じた。
「よし、これで準備万端だ」
と、心の中で自分に言い聞かせる。
朝食と弁当を作り終えたら、さっそく自転車で学校へ向かう。
今日も爽やかな風が心地よく、少しだけ気分が高揚する。
運動会と文化祭が控えているこの時期は、何か特別な感じがする。
学校に着くと、教室の中はすでに文化祭の話題で盛り上がっていた。
「どんな演出にする?」
とか
「お化け屋敷はどうする?」
と、いろんな意見が飛び交っている。
俺も参加しようと手を挙げる。
「俺は、入り口に謎解きの問題を置いて、入る前にちょっとした試練を設けたいと思うんだ」
と提案すると、クラスメイトたちも興味津々で耳を傾けてくれた。
「それ、面白そうだね!みんなが興味を持つかもしれない!」
と佐藤さんが言ってくれる。
彼女の意見が後押ししてくれるのが嬉しい。
みんなの協力もあって、そのアイデアが具体化していく。
早速、各自で謎解きの問題を考えることになり、どんな内容にするか話し合いを進めた。
授業が始まり、教室の中はしっかりと学びの空間に戻る。
数学の授業で新しい単元を学ぶ中、運動会でのリレーのことが頭をよぎる。
俺はあまり足が速い方ではないが、みんなで力を合わせることの楽しさを知っている。
次の体育の授業では、運動会に向けた練習が行われるという噂も聞いた。
リレーのバトンパスがうまくできるか、ちょっと心配ではある。
午前中の授業が終わると、放課後の文化祭準備に向けた気持ちが高まる。
みんなが集まって、装飾を進めたり、出し物の練習をしたりする。
自分たちで作り上げていく実感が楽しい。
この一体感が、文化祭の魅力でもあると思う。
昼休み、俺は弁当を広げた。
隣には佐藤さんがいて、彼女も弁当を食べている。
「今日は、どうだった?」
と軽く話しかけてみる。
彼女は
「文化祭の準備も順調だし、運動会も楽しみだね」
と笑顔で返してくれた。
彼女の言葉が嬉しい。
自分の弁当を食べながら、彼女の言葉を思い返すと、さらにやる気が湧いてくる。
昼食後は再び教室に戻り、準備の続きをする。今日は特に集中して作業を進めた。
午後は、お化け屋敷の演出に使う小道具を作る。
みんなで協力していると、どんどん進んでいく。
お互いにアイデアを出し合いながら、作業を進めることができた。
夕方、作業が一段落したところで、今日の文化祭準備を終えることにした。
教室を片付け、明日の準備をしながら、クラスメイトたちと話し合った。
「明日も頑張ろう!」
と声を掛け合い、充実感を感じる。
帰り道、自転車をこぎながら運動会のことを考えていた。
バトンパスやチームワークの大切さを改めて感じながら、次の日が待ち遠しい。
文化祭と運動会が近づく中で、少しずつ盛り上がっていく。
この瞬間が、青春の一部として心に残ると思うと、胸が高鳴る。
家に帰ると、母さんが夕飯の支度をしていた。
俺も手伝いながら、今日の出来事を報告した。
すると、母さんは
「文化祭の準備も頑張っているんだね。運動会も楽しみだ」
と微笑んでくれた。
その言葉が、さらにやる気を引き出す。
「明日も頑張るよ!」
と自分に言い聞かせて、夕飯を一緒に食べた。
今日も充実した一日だった。
明日の運動会、そして文化祭を迎える準備が整いつつある。
心に高揚感を抱きながら、明日も頑張ろうと誓うのだった。
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