第6話
彼女のことを少しでも知りたいと思ったのは確かだ。
佐藤さんの笑顔や優しい声、友達に対する接し方を見ていると、どうしても気になってしまう。
今は、陰ながら彼女を応援することにしているが、いつか自分の気持ちを伝える勇気が持てるのだろうかと思う。
心の中では、少しずつ距離を縮めていきたいという願望が強くなっている。
でも、俺はきっと、佐藤さんには似合わないと思ったんだ。
彼女の周りにはもっと輝いている人たちがたくさんいる。
勉強が得意で、スポーツもこなすような、そんな完璧な人たち。
正直、俺は勉強もあまりできるとは言えない。授業中、ノートを取るのが精いっぱいで、頭の中で数式がごちゃごちゃになることも多い。
そんな自分を見せるのが恥ずかしいと感じる瞬間が多い。
だから、心の中で
「俺には無理だ」
と諦めがちだ。
それでも、誰よりも高みというか、これだけは誰にも負けないというものがあるのかな、と考えることもある。
例えば、料理に関しては、自分が頑張ってきた自信がある。
友達の山田がいつも
「お前の料理はすごい!」
と褒めてくれるのも、俺にとっての励みだ。
山田は料理のことをよく知らないけれど、俺の努力を見ているからだと思う。
コツコツと作り続けたからこそ、今の自分がいるのだ。
台所に立って、調理器具や食材を使う瞬間が、俺にとっては最高のリフレッシュになる。
新しいレシピに挑戦することで、自分の腕前を上げていく喜びを感じられる。
料理を通して、心の中にある不安や悩みを忘れることができるのだ。
特に、誰かに自分の料理を食べてもらって喜んでもらえる瞬間は、本当に幸せだ。
だけど、佐藤さんのことを考えると、自分に自信が持てなくなってしまう。
彼女がどんな趣味を持ち、どんな夢を抱いているのかを知りたい。
友達に囲まれた彼女の笑顔を見ていると、自分もその一部になりたいという思いが強くなる。
どうにかして、彼女と仲良くなりたいと思っているが、どうアプローチすればいいのかがわからない。
友達の山田は、俺にこう言った。
「お前、料理が得意なんだから、佐藤さんをお弁当で誘ってみたらどうだ?」
それを聞いて、俺は一瞬驚いた。
お弁当で誘うという発想は、確かにユニークだ。
でも、俺は彼女のことを思うと、足がすくんでしまう。
もしも、誘ったら断られたらどうしようと、ネガティブな考えが頭をよぎる。
それでも、料理の腕を活かして何かアプローチするのは悪くないアイデアだと思った。
自分の得意なことで彼女に興味を持ってもらえれば、少しずつ距離が縮まるかもしれない。
そう考えると、少し勇気が湧いてくる。
「でも、どうやって誘おうかな」
と思案しながら、学校の帰り道に考える。
廊下で彼女とすれ違った時、勇気を振り絞って話しかけてみるのもいいかもしれない。
思いついたのは、佐藤さんが好きな料理を聞いてみることだ。
それがきっかけになれば、自然と会話も生まれるのではないか。
放課後、部活の後に彼女が廊下を歩いているのを見かけた。
思い切って近づく。
「あ、佐藤さん!」
と声をかけると、彼女は振り返ってくれた。
少しドキドキしたけれど、笑顔を浮かべているのを見て安心した。
「今日、授業どうだった?」
と尋ねると、彼女は
「うん、普通だったよ。でも、数学がちょっと難しかったかな」
と答える。
俺も数学が苦手だと感じているので
「同じだよ、あれは本当に難しいよね」
と共感する。
そして、ついに言うタイミングが来た。
「あの、実は料理を作るのが好きなんだけど、佐藤さんはどんな料理が好き?」
と問いかけてみた。
彼女は少し驚いた表情を浮かべて
「私、パスタが好きかな。特にトマトソースが」
と答えてくれた。
俺の心臓が高鳴る。
彼女の好みを知れたのが嬉しかった。
「じゃあ、今度パスタを作ってみるよ」
と言った瞬間、彼女の目が輝いたように見えた。
「本当に?それなら楽しみだね」
と笑顔で返してくれた。
その瞬間、心の中で小さな花が咲いたような気がした。
もしかしたら、これがきっかけになるかもしれない。
徐々にお互いの距離が縮まることを願いながら、少しだけ自信が持てるようになった。
これからも、佐藤さんのことを知るために、もっと話しかけてみよう。
自分の得意な料理を通じて、少しずつ仲良くなれることを夢見ているのだった。
まず、彼女の好きな食べ物がパスタ系であることは理解した。
しかし、実際にお弁当にパスタを持っていくのは大変面倒なことだ。
特に、学校のお弁当は冷めた状態でも美味しく食べられるものが求められるので、パスタのような食材はどうしても難しい。
パスタを弁当に入れるとなると、しっかりとしたソースやトッピングの工夫が必要だし、加えて保温や容器の問題も考えなければならない。
お弁当としてパスタを持っていく場合、まず考えるべきは
「冷めても美味しいパスタ」
がどういったものなのかだ。
普通のトマトソースパスタやクリーム系のパスタは、時間が経つとどうしても風味が落ちてしまう。
特に、麺が水分を吸ってしまい、ベチャっとした食感になってしまうのは避けたい。
冷たい状態でも食べられるような工夫をするには、かなりの試行錯誤が必要になる。
さらに、どの具材を使うかも重要だ。
ベーコンやソーセージ、野菜などを入れると彩りが良くなりそうだが、それらも冷めたときの味や食感を考慮しなければならない。
特にトマトソースを使う場合、トマト自体の水分が気になる。
水分が多い具材を使ってしまうと、弁当の中でパスタが水分を吸ってしまい、結果的に美味しくないものになってしまう。
また、パスタを弁当に入れるためには、どうしても弁当を詰める段階での工夫が必要だ。
パスタをいかにうまく詰めるか、そしてソースをどうやって絡ませるかを考えると、まずは別々に詰めておくことが基本かもしれない。
パスタとソースを一緒に詰めてしまうと、冷めたときに味がしっかりと絡まらず、なんとも言えない食感になってしまうことがある。
そこで、俺は
「冷製パスタ」
という選択肢も考えてみた。
冷製パスタは、もともと冷たい状態で食べることを想定しているので、弁当にも向いている。
ただ、冷製パスタを作るには、さっぱりとしたドレッシングやオリーブオイルを使ったソースが必要だ。
さらに、具材はしっかりとした味付けが必要で、食感が失われないように工夫しなければならない。
ここでもまた試行錯誤が必要だが、少しずつ実験を重ねることで、きっと美味しい冷製パスタを完成させることができるだろう。
一方で、佐藤さんにはあまり手間をかけさせたくないという気持ちもある。
彼女のために頑張ることは嬉しいことだけど、逆に負担をかけてしまっては本末転倒だ。
お弁当が美味しいことはもちろん重要だけど、佐藤さんが無理をせずに楽しんでもらえることも大切にしたい。
だからこそ、パスタ以外のメニューを提案することも考えなくてはならない。
そう思うと、他にも彼女が好きそうな食べ物を探し始めた。
例えば、彼女が好きなものとして考えられるのは、オムライスやカレー、あるいは焼きそばなどだ。
これらの料理は、お弁当にも向いているし、冷めても美味しさが保たれる。
オムライスなら、卵で包んだご飯を持っていけば、見た目も可愛くなる。カレーも、時間が経っても風味が落ちにくいので、作り置きしておける。
だが、どうしても佐藤さんのパスタ好きが気になる。
彼女の好きなものを取り入れたい気持ちは強いので、やはり何かしらの形でパスタを取り入れたいと思う。
そこで、パスタをサラダ仕立てにして、サラダとして弁当に詰めるという方法も思いついた。これなら、冷たくても美味しいし、色どりも良くなる。ドレッシングを工夫すれば、さっぱりとした味わいに仕上がることもできる。
これなら、佐藤さんにも喜んでもらえるのではないだろうか。
思いを巡らせながら、自分の好きな料理を考えることができたのは、少し楽しい時間でもあった。
料理を通じて彼女と近づくことができるというのは、俺にとっての大きなモチベーションだ。
彼女が喜んでくれるような料理を作りたい、少しでも彼女の好みを理解したいという気持ちがどんどん膨らんでいく。
ただ、もちろん実際に作るのは簡単なことではない。
パスタにしろ、他の料理にしろ、しっかりとした腕前が求められる。
何度も試行錯誤を繰り返しながら、自分の料理のスキルを上げていく必要がある。
そうして、少しずつ佐藤さんとの距離を縮めていくことができれば、自信を持てる日が来るかもしれない。
学校に通う日々の中で、料理の時間を充実させていきたい。
佐藤さんに会うたびに彼女の笑顔を思い出し、少しでも彼女の好みに近づけるよう努力することを誓った。
何気ない日常の中に、小さな楽しみを見つけながら、彼女のことを思って料理をすることができれば、いつか彼女に自分の気持ちを伝えることもできるかもしれない。
そう考えると、少しずつ勇気が湧いてくるのだった。
考えた末、冷製パスタのレシピで使えそうなものを翌朝作って持っていくことにした。
佐藤さんが好きなパスタを取り入れられるのなら、少しでも彼女の心をつかむチャンスになるかもしれない。
自分の中でその思いが少しずつ固まっていくのを感じながら、放課後、家に帰ると早速夕飯作りを始めることにした。
今日は肉じゃがと焼き魚だ。
普段から料理をするようになったおかげで、これくらいのメニューはスムーズにこなせるようになった。
肉じゃがは、柔らかく煮込むためにじゃがいもと人参、玉ねぎを切り、豚肉を炒めてから煮込む。
焼き魚は、最近習った味付けを使って、シンプルに塩を振って焼く。
魚の鮮度も大事だが、母さんが仕事帰りに買ってきてくれる食材に期待していた。
キッチンに立つと、心地よい匂いが漂い始め、料理に集中できる時間がやってくる。
手際良く調理を進めながら、冷製パスタのことを考える。
冷製パスタにはどんな具材を使うべきか、またどんなソースが合うのかを頭の中で整理していく。
何度か作ったことのある冷製パスタのレシピが思い浮かび、ひとまずそれを参考にしようと決めた。
肉じゃがが煮えている間、他の具材の下ごしらえも進める。
今日は、冷製パスタに使うために、トマト、きゅうり、そしてハーブ類を準備する予定だ。
トマトは新鮮なものを選び、甘みと酸味のバランスが良いものを使う。
きゅうりは、しゃきしゃきとした食感を楽しむために、薄切りにしておく。
さらに、冷製パスタに欠かせないバジルやオレガノも加えることで、香りをプラスし、食欲をそそる一品に仕上げたい。
その間にも、夕食の準備は進んでいく。
肉じゃがは少しずつ味が染み込んできて、いい感じに仕上がっている。
煮物は、時間をかけてじっくりと火を通すことで、素材の旨味が引き出される。
味見をしながら、少し甘めの味付けに仕上げていく。
普段の料理に比べて、今日は少し特別な気分だ。佐藤さんのことを思い浮かべながら料理をすることで、気持ちが高まっているのだろうか。
そして、母さんが買ってきてくれる食材を待ちながら、焼き魚の準備に取りかかる。
魚は新鮮なものが一番だが、冷凍のものも手軽に使える。
しっかりと塩を振りかけ、30分ほど置いておくと、魚の身がしっかりとしてくる。
焼き加減を見ながら、ちょうどいいタイミングで火を入れる。
身がふっくらと仕上がったところで、皿に盛り付け、少しの醤油を垂らして香ばしさを引き立てる。
そのころ、母さんが帰宅する気配がした。
ドアを開ける音がして、買い物の袋の音がキッチンに響く。
母さんがキッチンに入ってくると
「ただいま」
と元気な声が聞こえた。
「おかえりなさい、今日もお疲れ様!」
と俺は答える。
母さんは、色とりどりの野菜や新鮮な魚を見せながら、食材をキッチンに置いていく。
今日は特に、季節の野菜がたくさん揃っていて、嬉しくなる。
特に新鮮なトマトやバジルは、冷製パスタには欠かせないアイテムだ。
「これ、明日の冷製パスタに使う予定なんだ」
と俺は母さんに話しかける。
「そうなのね、楽しみね。佐藤さんも喜んでくれるといいわね」
と母さんは微笑みながら言った。
その言葉に、少し照れくさくなったが、嬉しい気持ちも増す。
母さんは俺の気持ちを理解してくれているのだ。
「そうだ、佐藤さんのために美味しい料理を作りたいと思ってるんだ」
と続けると、母さんは満足そうに頷いた。
「それなら、頑張ってね。料理は愛情が一番だから、気持ちを込めて作れば絶対に美味しくなるよ」
と励ましてくれた。
その言葉を胸に刻み、さらに気合を入れて夕飯の仕上げに取りかかる。
肉じゃがは、最後にもう一度味を確認して、必要ならば調整を行った。
程よい甘さとコクが出ていて、家族全員が喜んで食べてくれることだろう。
焼き魚も火が通り、香ばしい匂いが漂ってきて、食欲をそそる。
食事ができあがると、ダイニングテーブルに並べる。
これから家族が帰ってくるのが待ち遠しい。食卓が囲まれる時間、家族で美味しいご飯を楽しむ瞬間が、何よりも幸せなひとときだ。
そう思いながら、今日の夕飯もきっと良いものになると期待を寄せていた。
夕食の準備が整い、みんなが揃ったところで食事を始める。肉じゃがの味がしっかりとしみ込んでいて、家族みんなが
「美味しい」
と声を揃えてくれる。
焼き魚も香ばしく、今日は特にご飯が進む。
料理を通じて、みんなの笑顔を見ることができるこの時間が、何よりも自分の心を満たしてくれるのだ。
食事を終え、後片付けをしながら、明日の冷製パスタのことが頭から離れない。
具材のことや味付け、盛り付けの工夫など、考えることは尽きない。
料理の時間を大切にしながら、少しずつ佐藤さんとの距離を縮めていく。そのための努力を続けることが、これからの自分の課題だと感じていた。
そうして、夕食を作りながら、自分の心の中で少しずつ成長していることを実感する。
明日の朝、冷製パスタを作るための準備をしっかり整え、佐藤さんに喜んでもらえるような料理を届けられるよう、全力を尽くすつもりだ。
料理を通じて、彼女に少しでも心を伝えることができれば、それが何よりの喜びになるに違いない。
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