第25話 杏奈からの指導

 「貴方もどうしようもない指導員だよね」

 「俺のどこが?」

 「貴方が子供と遊んでいるところを見たらそう思ったんだ」


 学童の指導員という仕事に全力で取り組む瑛太を杏奈は献身的に支えていた。彼女は彼が働いている所をコッソリと見るのを日課にしていた。子供たちと一緒に過ごしている姿を見ているだけでこの人と一緒になって良かったと思え幸せを感じる瞬間でもあった。


 しかし、今回は、杏奈は瑛太の姿が気になっていた。瑛太はその時に六年生を担当していた。子供たちと楽しそうにグラウンドで遊び、話しをしていた。しかし、杏奈の修羅場を潜り抜けて生きてきた目の奥は違うものに写っていた。


 瑛太の周りにいるのは、いつも同じ子供ばかりだった。それもキチンとした身なりで保護者はお金持ちに違いないと思わせる女子が多かった。しかし視線をちょっと遠くに向けると、それとは違った子供たちが遊んでいた。この子供たちは何となく、全体から弾かれているかのような感じに見えた。


 瑛太は杏奈の言葉を素直に聞き、年上の女性への依存心が強く、自分をグイグイと引っ張ってくれる女性に憧れていて、不良の、ある意味で冷たい大人の世界を潜って来た杏奈は、まさしく彼にとって教科書のようなそして司令塔のような女性だった。


「貴方の近くにいる子供たちよりも、もっと遠くにいる子供たちと遊んであげなければダメだよ!」


「貴方の近くにいる女子の親は、金持ちだし、親からも可愛がられて育てられているし、実際に見た目も可愛いし、男子にもモテるタイプばかりでしょ。そんな子ばかり可愛いがったって、世に出ればもっとこれからの人生にとって良い事が起こりそうな子ばかりだよ」


杏奈の視線とその考え方に瑛太は違和感を覚えた。


「貴方の遠くにいる子供たち。あの女子は、悪いけどハッキリ言うとね、今のところはブスばかりで、男子は気持ち悪いオタクとデブばかりだよね。そういう子供たちを可愛がって、大切にした方が良い指導員になると思うよ」


「それは、どういう事なの?」


「家庭に恵まれていて、可愛くて美人系の女子は、その後の人生もチヤホヤされて良い思い沢山して生きていけるんだよ! だけど、貴方の遠くにいる子供たちは、もしかしたら、この先、あまり人から優しくされる事が少ないかもしれない。だからこそ、小学校の時に貴方という指導員に沢山、愛情をこめて可愛がってもらえれば、その思い出が心に残るし、もしかしたら、自分を磨いて行くようになっていくんじゃないかな?」


「確かに杏奈の言う通りだよね」


「日の当たらない子を照らす、そんな心優しい指導員が私は好きだな。今の小学校の先生方は仕事が多くて忙しいんだよ。だから学童の指導員がその先生方の手足となって徹底的に子供たちに愛情を掛けてあげるんだよ。先生たちにはそんな時間は無いんだからさ!」


「うん、分かったよ。そうするよ!」


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