SFのショートショート集
沼津平成
タイムスリップ
「昔、人類というのがいたのじゃ」
シュガー氏が科学者を志そうと思ったのは、父親の人類の話のせいだった。シュガー氏は人類について調べてみたくなり、科学者の道を志すようになった。
これは、そう、正真正銘、未来の話なのである。
1
”聖”歴2038年。塩類はついに進化を遂げ糖類となった。「さあ、科学者シュガー氏の『タイムスリップ』一号機が完成したようです」町を歩けばみんなその話題を話している。
ニュースはあまりの人気にもうそのことを話さない。式典の詳細なら、なんなら全塩類や糖類が知っているのである。よって、今、さびれた某公園に29万もの生命体が集まって、いつもより活気付いていた。
警察沙汰になった今回の式典。科学者が出てきたのは午前7時である。本当なら10時を予定していたのだが、あまりの人気に3時間繰り上げた。
「はい、はい、みなさん落ち着いて。落ち着いてからこいつを移動させますから」
博士はレーシングカーと飛行機が合体したようなタイムマシンの左翼をポンポンと叩いた。
空洞の音がして、エンジンの液が揺れた。この液体は博士が調合したものである。
午前8時。騒ぎが静まってきた。博士は、1号機に乗って、のんびりと空を飛び始めた。
下の方の騒ぎを見下ろしながら、博士は紫色のブラックホールに吸い込まれていった。
2
博士が失踪した。「どこなんだ?」と街の人は大騒ぎになる。騒ぎから二ヶ月。偉大なるその声が、「おい、おい」と空から聞こえてきた。しかし、その声に耳を貸す人はなく、博士の偉大なる1号機はある畑に墜落した。
——あれから。
タイムマシンは驚異的なスピードで大量生産を開始し、全塩類・糖類が過去や未来に行ってしまったのである。
博士は泣きながら、「おのれ。次は過去に行ってみせるわい!」と、過去に行き始めた。
3
何時間ほど眠っていただろうか。
目が覚めた時、エンジンは故障していた。
博士が辺りを見回すと、今とさほど変わらない街並み——。
しかし、博士が自分を、「糖類のF・シュガーだ」と紹介すると、みんなは急に立ち止まって、「あ、あそこの老人、気が狂っちまったらしい……」「俺たち、人類だもんな……」と噂話を始めた。
「一体ここはどこなんです。いつなんです?」
博士は聞こうとして、その答えを思い出した。
「昔、人類というのがいたのじゃ」
と父親に教わったことがある——。
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