セフレ持ちなのにヤンデレと同居するハメに。セフレが有能なおかげで何とかなりそう

アーブ・ナイガン(訳 能見杉太)

第1話 世界一都合の良いセフレ

「いくらでも無責任に中出しして構わないと言っているのに、君は相変わらず律儀な男だな、丈太じょうた


「相変わらず律儀のハードルが低すぎるよ、ふみ


 僕の部屋のベッドにて。

 隣に横たわる黒髪ポニーテール美少女が、僕の精液が溜まったコンドームを、切れ長の目の前に掲げ、真顔のままジッと眺めている。


 もちろん僕も彼女も全裸だ。もちろん汗だくだ。だってついさっきまでセックスしてたし。高校二年の僕らは汗だくのセックスしか知らないし。


 そう、僕らはまだ子どもだ。子どもを作る能力ばかりを得てしまって、子どもを育てる能力なんて身につけていない。

 だからこそ、当然僕らは避妊を徹底しなくちゃいけないわけで――と言いたいところだけど、一番の理由はそこじゃない。未成年だから、だとか以前に、絶対コンドームを着用するべき理由がある。大前提がそびえ立っている。


 だというのに、今日も文は淡々とした口調で、


「これも何度も言っているが、私が妊娠しても君は認知なんてしなくていいんだからな? 行きずりの男と作った子どもということにするし、私一人で立派に育て上げてみせる。それでも君が会いたいという時には好きに会わせてあげるし、父親の正体を彼ら彼女らが一生察せないよう対策を打つし、万が一気付かれてしまった場合でも絶対君に恨みを抱いたりしないような心の広い人間に育てておくからな。名前はどうする?」


「そんな条件で名付けのアイディアを出せるほど厚かましい男じゃないんだよ、僕は。厚かましいっていうか、その環境で父親面できたら、もはやサイコパスだよ」


 呆れたようにツッコみつつも、きっと僕の顔はニヤニヤを隠し切れていないことだろう。


 仕方ない。こればかりは仕方がない。


 今日も今日とて、千里ちさとふみが――僕のセフレが――僕にとって都合良すぎるんだもん! 全ての言動が僕のオスの部分を悦ばせてくれるんだもん!


 この都合の良さは、文が僕の恋人ではないからこそ成り立つものだ。

 僕らは、真剣な男女交際などしていない。付き合っていないのに、体の関係がある。

 これが、避妊をしなくちゃいけない一番の理由だ。

 僕がたとえ大人で、子育てをするだけの経済力を持っていたとしても、真剣に付き合っていない相手を妊娠させるわけにはいかない。


 僕は、この関係を壊したくない。


 だって、だって……!


「そうか、そうだったな。確かに君にとっては、認知せずとも精神的な重荷になってしまうのだろう。避妊具を着けた方が気楽に私の体を使えるというなら、これからもそうしてくれ」


 居心地が良すぎる……!


 この色白で小柄な女の子は、いつだって僕の快適さを最優先してくれるのだ。

 本来僕なんかじゃ釣り合わない美少女のくせに、誰かさんと違って僕の劣等感を煽ってくることもないし、常に男としての僕を立ててくれる。自尊心が満たされまくる。


 ついでに抱き心地も良すぎる。

 太ってるわけじゃないのに肉付きが程良くて、上から下まで柔らかい。体型まで僕にとって都合が良すぎる。


 だからもう一度抱きしめる。文も当たり前のように抱き返してくれる。

 彼女が手に持っていた水風船は、奪ってゴミ箱に放り投げた。邪魔だ。


 しかも、それだけじゃないのだ、文の都合の良さは。


「うん、ありがたく、そうさせてもらうけどさ……」


「ん? どうした、丈太。気になることがあるなら、何でも遠慮せず言ってくれ」


 促してほしいときに促してくれるのホントありがてぇ。


「いや、さすがにもうちょっと自分のことを大事にしてほしいかなって」


「何を言っている。私はこれ以上なく自分を大事にしているぞ。君に求められている時が一番満たされるのだから。もちろん君以外の男に体を触らせることも絶対ないしな」


「あ、あ、あ、あ、あ」


 やっぱやべぇわ、こいつ。言葉だけで僕を射精させようとしてきやがる。


 身持ちがお堅いクール美少女なのに、僕にだけ何でもしてくれる。何でもさせてくれる。都合が良すぎる。あと巨乳。都合が良すぎる。挟んでくれるし。エロすぎる。柔らかすぎる。都合が良すぎる。デカすぎて僕の愚息ぐそくが埋もれてしまうくらいだ。ちんぽが小さすぎる。都合が悪すぎる。くそぉ……!


 でも文相手なら、コンプレックスなんて全部忘れて、触れ合うことができるのだ! だって、僕が何をしても喜んでくれるし。都合が良すぎる……!


「ふふっ、丈太。固いのがお腹に当たっているぞ? 私の子宮めがけて押し当ててきているじゃないか。やはり孕ませたいんじゃないのか?」


「…………っ、お前なぁ、いい加減にしろよ、僕のオスをくすぐりやがって。本当に孕んでも知らないからな?」


「丈太が興奮してお前って呼んでくるの好き」


「ダメだお前マジで。おしおきだ」


 耐えられなくなった僕は、文の濡れた唇にキスをする。薄いのに張りがあるという、都合の良すぎる唇だ。そして、都合の良い僕のセフレは、僕が求めれば、当たり前のように求め返してくれる。


 いつも西洋人形みたいな無表情で、校内中から鉄仮面美女扱いされてる文が、僕にだけ見せてくれる赤い頬、トロンとした瞳。

 こんなの、昂ぶらざるを得ない。頭が沸騰して、情欲が止まらなくなって、後先なんて考えられなくなってしまいそうになる。文本人が、それでもいいと言ってくれている。


 それでも僕は、コンドームに手を伸ばす。


 僕には、覚悟がないから。

 そして文も、僕に覚悟を求めてくることなんて決してない。たぶん、一生ない。


 だからこそ、この水風船が必要なのだ。水風船っていうか、浮き輪だな。溺れるなら溺れるなりに、僕たちは、賢い溺れ方をしなくてはならない。


 僕と一緒に溺れるということが、文にとっても都合の良いことであり続けてほしいから。


「文、濡れんの早すぎな」


「ん……こんな風になっている君に言われたくないんだが――待って、丈太」


 右手が塞がっていたため、正方形の袋の端を前歯で噛んだ――その瞬間だった。文の小さな声が、僕の動きを制してくる。

 ちなみに袋を口で開けたところで、どうせ僕は片手でコンドームを着けるようなスマートな真似はできない。そんなことをしようものなら陰毛を巻き込んでしまい、とても痛い思いをするハメになる。コンドームは両手を使ってしっかり確実に装着するべきである。


 それはそれとして、僕の欲求に文が待ったをかけてくるなんて、ただごとではない。

 文の目線の先――窓の外を、カーテンのわずかな隙間から僕も覗いてみる。


 そこにあった光景は、


「マジか……もう帰ってきたのか、華乃かの……今日もばあちゃん家で華道のはずなのに……」


 17時。春の夕日の下、金髪ミディアムヘアの色白女子高生が、エコバッグ片手に、お隣の一軒家へと入っていく。足取りが明らかにご機嫌なときのそれだ。

 昔から厳しいあのばあちゃんが、サボりを許すわけがないのだが……。


「どうやら休みになったみたいだな」


 僕が動揺している間にも、文はさっそく情報をつかんでしまったらしい。僕の体の下からスマホ画面を掲げてくる。


「……何これ」


「君の幼なじみさんのツイッターアカウントだが」


「そんなのやってたのか、あいつ……」


「すまないな。丈太にとって不快だろう内容の投稿も散見されたから、あえて伏せていたんだ。利益になりそうな情報だけ選んで、それとなく伝えてきたつもりなのだが」


「いや、ありがとう。ホントいつも助かる」


 知ってしまったら、ストレス溜まるとわかっていながら毎日六回は見ちゃうだろうからな、僕の場合。今も文はアカウント名だけは片手で隠して、そのツイートを見せてくれている。僕に対する気遣いの鬼か。


 僕もその心意気に応えて、文章だけを読み上げていく。


「『公恵さんのおかげで休みになったー笑 サプライズで彼ピのご飯作ろ笑 彼ママ喜びすぎてて笑った笑』……か……。なるほど。笑いすぎだろ、こいつ。ちなみに公恵きみえさんは華乃のばあちゃんの親友で、たまに東京から突然遊びに来たりして――って、え? 彼、ピ……? あいつに、彼氏だって……?」


 後頭部を殴られたかのように、クラッとしてしまう。血の気が引く。端的に言って、ショックだった。


「ふざけんなよ、あいつ。僕のお嫁さんになるって小さいころ言ってたのは何だったんだよ。クソが、だからギャルは嫌いなんだ。短いスカート穿きやがって。僕以外に肌見せてんじゃねーよ、僕の幼なじみだろーが、ふざけんなクソビッ――」


「落ち着け、丈太。彼ピは君のことだ」


「ッチ――え?」


 視界がブラックアウトしかけたところで、温かく柔らかいものが僕の体を包み込んでくる。

 再度、文が僕を抱きしめてくれたのだ。頭を優しくナデナデしてくれている。「サラサラで気持ちいい」とか言ってくれている。君の方がサラサラだし僕の方が気持ちいい。


 しかし……え? 文、いま何て? 華乃の彼ピが、僕……?


「いや、文。何度も言ってるけど、僕と華乃はただの幼なじみで、付き合ったりなんてしてないんだ。そりゃまぁ、結婚の約束をしたのは事実なわけだから他の男と仲良くしたりするなんて犯罪行為に等しいと思うけど」


「もちろんそれは知っているが、白石しらいし華乃かのは、ツイッター上で君のことを恋人扱いしているようでな。いつも君とのイチャイチャをここで自慢しているぞ? 自分の名前も君の名前も出してはいないが、知り合いが見たらあからさまだ。まぁ半分は妄想、半分は誇張といった内容ではあるが。私も毎日六回はチェックして、その度に微笑ましい気持ちになっている」


「え。そ、そうなのか……つまりはそれって、あいつがそこまで僕のことを、恋愛対象として好きってこと、だと思っていいんだよね……?」


「当然だろう。まぁ、彼女も丈太の前だと素直じゃないから仕方ない部分もあるが、君も少し恋愛に臆病過ぎるかもしれないな。そんなところも魅力的ではあるが」


「そ、そっか……」


 マジかよ、あいつ。ギャルのくせに、いじらしいとこあるな。だから好きなんだよ、ギャル。今日から毎日八回あいつのアカウントストーキングしてやろっと。


「ただ、それ以上に君に対する辛辣な愚痴で埋め尽くされているアカウントだから、絶対に見ない方がいいと思う」


「貴重な助言助かる。これからも有益な情報だけ拾って僕に伝えてくれるとありがたい」


「もちろんだ」


「あと僕とのイチャイチャ妄想とやらもまとめて――あ、いや、何でもない」


 ……何言ってんだ、僕。

 さすがにちょっと舞い上がりすぎだぞ。逆の立場になって考えてみろよ。いくら文が都合の良い存在なんだとしても、気持ちを踏みにじってまで利用するのは違うだろ。


「遠慮するな、丈太。君が白石と上手くいってくれたら、私だって嬉しいんだ。任せてもらっていいんだぞ?」


「……いや、マジで違う。忘れてくれ。今回みたいに華乃との不本意な遭遇を避けるための情報だけ拾ってくれるとありがたい」


「承知した。気が変わったらいつでも言ってくれ」


 そう淡々と、しかし僕には伝わる慈愛を込めて言いながら、文は下着を装着し始める。

 帰宅準備だ。華乃がいつここに突撃してくるかわからない状況になってしまった以上、今日の僕たちの逢瀬もここまでとなる。僕からそれを伝えるまでもなく、文は自ら進んで帰ってくれる。都合が良すぎる……!


「使用済みのそれも私が持ち帰って処理した方がいいな」


 白いショーツと黒いソックスを身につけ、制服ブラウスのボタンを留めながら、文はゴミ箱の方まで歩き、それを拾い上げる。


「いいよ、そんなことまで……」

 と、そこまで言って、これから起こりかねない様々なパターンが頭を駆け巡り、結局僕は、

「いや、ごめん。頼んだ、文……」


「ふふっ、頼まれた。こんなことでも君に頼られると嬉しいな」


 こいつ、マジで……そんな格好で僕の部屋を歩き回らないでくれ。

 ムチムチなお尻と太ももがエロすぎるし、未だにちょっと呼吸乱れてるのも官能的だし、その綺麗な指で僕の精液風船を大事そうに……ヤバい、後ろから抱きついて犬みたいに腰振ってしまいそう。


「それとも、ここで飲んでしまった方が丈太は喜んでくれるか?」


「僕の性癖を歪ませるのがそんなに楽しいか」


「何を言う。いつも口でした時は飲ませてくるじゃないか。飲んであげたら、満足げにしてくれているだろう」


「それだって、元々お前が勝手に飲み込んだのがきっかけだろ! あれ以来僕は、お前が潤んだ上目遣いで僕を見つめながら嚥下するときに漏れる声と、その後おもむろに口の中を見せてくれるあの光景の中毒になっちゃってるんだよ!」


「お前って言われるとまた濡れてしまうんだが」


「濡れてしまうとか言われるとまたフル勃起してしまうんだが」


 いい加減にしろ。こんなんじゃどっちにしろ華乃に会えないだろ。


「致し方ないな。もう一度してしまうと、私が動けるようになるまでのタイムロスが生じてしまうし……あと君って基本早いくせに、挿入直後は、私と繋がったまましばらく動かずキスとかでイチャイチャしてくるだろう? あの時間が人生で一番幸せ。幸せ過ぎてお互い粘ってしまうからな。申し訳ないが今日のところは口で我慢してくれ」


「申し訳なさすぎる。お願いします」


 45秒で終わった。ごっくんしてもらった。毎回淡々とエロい感想言ってくるのやめてほしい。嘘。絶対やめないでほしい。礼儀正しく「ごちそうさまでした」言えるの偉い。偉いから頭撫でてあげた。ベッドや床にコロコロを掛けて証拠隠滅までしてもらった後、いつも通り裏口から帰ってもらった。


 都合が良すぎる……!


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