異世界のお料理番~飯テロスローライフを最強神たちと後宮で~
巻村 螢
一品目:とろっとろ黄金のみたらしごま団子
夜食にとろ~りは有罪確定だよね
もふもふスローライフ中華です。よろしくお願いいたします。
(他にも文芸中華「皇帝の影は…」も連載中です。こちらもよろしくお願いいたします。)
――――――――――――――――――
夜。後宮の宮女たちもすっかり寝静まり、昼間の煌びやかな喧騒が嘘のように消えた頃。
「ふっふふ~ん」
鼻歌を歌いながら、私は鍋の中でぷくぷくと沸騰している甘辛いタレをかき混ぜていた。
厨房に広がる、甘塩っぱい香りと香ばしい匂い。
「うわぁ、口の中涎でいっぱいだ~」
口端からこぼれ落ちそうになった涎を、ジュルリとすする。
もし、こんな姿を彼に見られていたら、ドン引かれていたに違いない。
絶対『お前、本当に后妃たちと同じ女か』と言われていた。
しかし、今は自分一人。
誰に気兼ねすることもなく、やりたい放題だ。
「それに、体が反応するってことは、美味しいことの証拠だしね」
鍋から立ち上る香気を思い切り吸い込めば、きゅうと口の中が恋しくなる。
ああ、早く食べたい。
「そろそろ食べ頃かな。あとはこのタレを、夕食の時にこっそり残しておいたごま団子にかけて……」
皿の上には、串に刺された三つのごま団子がのっている。ああ、懐かしい形。なんで串に刺さってるだけで、美味しさ三割増しで見えるんだろう。
そこに、醤油と砂糖を煮詰めて作った甘辛いタレを遠慮なくかけていく。
トロリとまるみを帯びたタレが、ゆっくりとごま団子に覆い被さっていく。うわぁ。
「みたらしごま団子の完成! うわわわ~私ったら天才かも。ごま団子だけでも充分美味しいのは分かってるけど、とろっとろの黄金のタレをまとった姿ったら、もう神の料理! 見て、このつやつやのベールに覆われたお団子様を!」
見る人などいないと分かっていても、できあがったものを自慢したくなるのが料理人の性なのかもしれない。
スキップしながら、厨房のすぐ隣にある部屋へと持っていく。
黄金のタレの下に見えるごま団子が、早く食べてくれと言っている。
「こっちの食事って美味しいのは美味しいんだけど、味気ないって言うか、レパートリーが少ないんだよね。やっぱり食は日々の活力だし、目にも舌にも楽しいもんじゃないと」
後宮という、皇帝の妻たちが住まう雅な場所だというのに、出てくる食事はメインこそ変わるものの、付け合わせはほぼ同じ。
私も同じ料理を運んで来てもらっているけど、これがまあ、見た目だけが綺麗な拍子抜けするほど味気ない料理なのだ。
辛いものもあるが、なんというか……辛いだけ。
味に深みというか奥行きが感じられない。
しかも場所柄、毒味も必須だからと、彼女達や私のところに食事が運ばれてくる時には、料理は冷め切ってしまっている。
そりゃ保温バッグもないし、広い後宮を歩いて運んでくるから冷めるのは仕方ないけど、それにしても美味しくない。
「多分、熱いうちに食べられたらまだ美味しいんだろうけど」
冷めることによって味が薄くなって、全体的に何を食べてもぼんやりしている。
熱い料理は熱いうちに、冷たい料理は冷たいうちに。
それが美味しい料理の鉄則だ。
「ま、私が出しゃばれることでもないし、私は私の食べたいものを作れば良いだけだし」
皿を卓に置き、手を合わせる。
パンッという良い音が部屋に響く。
「では、真夜中の背徳スイーツ、いっただっきまーす!」
串に刺さったひとつ目の団子をパクリひと口で食べる。
「んーーーーっ!」
まず甘味がきてすぐに塩味が重ねてやって来て、口の中に広がる甘塩っぱさ。
もっちりとした団子は歯ごたえがあり、中からはねっちりとしたこしあんが現れる。プチプチとしたごまの歯触りが新しく、さらに噛めば噛むほどタレと餡が馴染んでいく。タレが熱いおかげで、団子が冷えていても気にならない。それどころか外はあつあつ中はひんやりあんこという、温度差が面白い。ごまの香ばしい風味も加わり、濃い味だというのに舌を飽きさせない。
「おいっしいー! 天才料理ー!」
もっくもっくと、弾力のある団子を咀嚼する。
「最初はどうなることかと思ったけど、意外と普通の生活を送れてるのはありがたいなあ。なんとかなるもんだわ」
二つ目の団子に齧り付きながら、しみじみと自分の身に降りかかった出来事を振り返る。
「良かった、料理ができる環境に置いてもらえて。私にはこれしか――」
「
スパーンッと入室の確認もなしに部屋の扉が開けられ、そこで私の回想はブチッとちぎられた。
もっと味わっていたかったみたらしごま団子も、驚きで飲み込んでしまう。
嘘でしょ。遠慮なしなの? 一応乙女の家(?)なんだけど、ここ。
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