第26話 まずは現状の確認
翌朝、ユグドラシルの森に静かな朝の光が差し込む中、カエデ、アーサー、そしてアレクはそれぞれ木のうろに腰掛けて話をしていた。
森はまだ眠りを惜しむかのように静かで、鳥たちがさえずりを少しずつ始めようとしている頃だった。
アレクは淡い緑色のローブをまとい、カエデとアーサーを前に念入りに準備を整えた。
今日から始まる修業に、二人の瞳は期待とわずかな緊張で輝いている。
「さて、今日はまず『気』についてもう少し詳しく話しておこう。」アレクは穏やかな声で話し始めた。「『気』には二つの使い方があるんだ。放出するものと纏うもの、というね。」
カエデはその言葉に耳を傾け、「放出するのと纏うのって、どう違うの?」と尋ねた。
アレクは短く頷き、「放出する『気』は、外にエネルギーを飛ばすんだ。瞬間的な火力は非常に高いが、コストパフォーマンスが非常に悪い。だから、切り札として使う人もいるが、今は一切考えなくていい。」
彼は説明中に手を軽く前に伸ばし、何かを押し出すような仕草を見せた。
「それに比べて『気』を纏うことは、身体を強化してくれるんじゃ。まさに自分を守るために纏う鎧のようなものというべきかな。」
カエデとアーサーはうなずきながら、いとことも聞き逃さぬようにと熱心に話を聞いている。
ふとカエデが質問をする。
「コアを持っている人は、『気』は使えないの?」
コア持ちと差別化が図れるのではないかと希望を持って聞いた。
「いや鍛錬すれば全然使えるぞ、何なら高ランカー層になってくるとコアの力を『気』で上乗せするのが基本になっているぞ。」
「そっか・・・」
とカエデはわかりやすくへこむ。
「まあそう落ち込むな、――これは全く参考にならない話なんじゃが、コアはないが『気』を極めたものが一人おってな、
そいつより強いものは数えるぐらいしかおらん。要は使い方、鍛え方次第じゃ。」
「そうなんだ!じゃあ私もそこまでになれるかな?」
「言った手前申し訳ないがさすがに無理じゃろう。あいつは尋常じゃない精神の持ち主でな、嬢ちゃんよりも小さい時から、どれだけみじめに負けようが、馬鹿にされようが一切腐らずただひたすらに鍛錬をつづけているらしい。嬢ちゃんに果たしてそれができるかな?」
「・・・できない。」
カエデは自分が何度もへこたれたことを思い出してしゅんとしてしまう。
「それが普通じゃよ、とにかくコアはなくともやりようはあるということじゃ、嬢ちゃんには『融合』もあるしな」
カエデは、そうだ!と明るい表情になる。
「――少し脱線してしまったが、そしてこの『気』は、うまく扱えるようになると昨日見せたように色を持つようになる。例えば腕に『気』を集めると腕が発光する。」アレクの説明に目を輝かせ、カエデもアーサーも心を踊らせた。
「『気』の大きさによって色が変わっていき、白、青、黄色、緑、赤の順に強くなっていって、赤が最も強いんだ。」アレクは優しく微笑みながら、彼らの反応を楽しんでいた。
「へえ、色々な色があるんだ。」アーサーが小さな声で驚きをひそめつつ言った。
「だが、まず最初に重要なのは『気』をうまく集中させること。全体に広げるより、集中させた方が『気』は大きく発揮される。最初の目標としては、『気』を両手に集中させて、最初の段階の白く発色させることだ。」
カエデはその言葉に「なるほど。それはやってみたいな…!」と、内心わくわくしながらアレクを見つめた。
アレクは頷いて、「コツを掴むのに少し時間がかかるかもしれないが、すぐにできるようになると思うぞ。」と彼らのモチベーションを高めるように語りかける。
修業の準備を整えると、アレクは木のうろを離れ、朝日の中に立ち上がった。
ユグドラシルの森が彼らを包み込むように、静けさを保ちながらも、これからの挑戦に応援を送っているようだった。
「よし、まずは嬢ちゃんらの今の能力を確認しよう。」
ユグドラシルの朝の光の中、アレクは木製のかかしの前にカエデを立たせた。カエデの手には、いつもの木製の剣が握られている。
「さあ、ここで何でもいいから攻撃してみてくれ」とアレクは優しく指示を出した。
カエデはそれを聞くと、剣を構え、彼女の鍛えられた運動神経を存分に活かして、かかし型の目標に一連の攻撃を加えた。その動きは、森での日々の遊びやダリルが育てたものであった。風を切るような音が響き、カエデの短剣が目標に向かって連続して打ち込まれていく。
一連の動作を終えたカエデは、少し息を整えながらアレクに問うた。「どうだった?」
アレクはその問いに、まるで新しい才能を発見したかのように驚いた表情を浮かべた。
「なるほどな、まだまだ未熟なもんじゃが――」
カエデは自分の動きに自信があっただけに少し落胆した表情をする。
そしてアレクは続けて
「――最近はコアの力をより効率的に使うことに重きを置いている。だからこそ、こんなに丁寧で美しい動きは久しぶりに見たな。」彼は少し顎を触りながら考えている。
カエデはその褒め言葉に驚き、そして嬉しさを隠せなかった。
アレクは小さく頷きながら、「さぞかし、君の師は優秀なんだろうね。」とふと口にする。
しかし、カエデはその言葉に少し顔を曇らせた。「私に教えてくれた、ダリルはね、もう周りよりも一回り年上なのに、中々遠征隊にも選ばれないの。それで後輩たちに馬鹿にされてるんだ。でもダリルのことは好きだから、私はそういうの知らないふりをしてるんだ。」
その話を聞いたアレクは思案深げにふむと一声漏らし、黙って遠くを見つめた。そしてカエデに微笑みを投げかけた。
「いや、案外これから化けるかもしれんよ。」
その言葉はカエデにとって、これまでの経験や日々の努力が無駄ではないことを再確認させてくれるような、心温まる慰めだった。――が、カエデはまあでも年齢もあるしな・・と現実に引き戻される。
「よし、じゃあ次はちび助じゃ」
アーサーは目をキラキラと輝かせうなずく。
「始めにじゃが、ちび助は何か能力があるんじゃないか?」
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