ブレイブズストーリー

@yoshiiiiio

第1話 出会い

青々とした森の中、葉の間から洩れる陽光が作り出す斑点模様の中を、少女は木の上に座っていた。彼女の膝の上には、先ほど読み終えたばかりの冒険の本がある。暗記するほど読んだその勇者の姿を頭の中で思い返しながら、彼女は憧れを込めて小さく呟いた。「私もいつか、こんな冒険をしてみたい…」


しかし、現実は厳しかった。町の戦士たちに戦いに参加したいと頼み込んでも、「実力のない者は参加させれない」という冷たい言葉が返ってくるばかり。コアを持たない彼女にとって、戦士としての道は険しい。それは彼女自身も痛感していたことだった。


その日、彼女は気分転換を求めて森にやって来たのだ。町の喧騒から離れ、自然の中で少しでも心を落ち着けたかった。そして、勇者の本の中で自分を慰めるように夢を見ていた。


本を閉じてからしばらくして、木を降りて森の中を探検することにした。すると、見慣れない紫色の光が彼女の目に留まった。その光を辿っていくと、そこには初めて見る美しい花が咲いていた。花びらは艶やかな紫色で、小さな星のような形をしており、淡い光を放っていた。まるで絵本の世界から飛び出してきたようにきれいだった。


彼女は周囲への警戒を忘れてしまうぐらいその花に見とれていると、背後で枝が折れる音がしてはっと我に返った。振り返ると、そこには一匹の魔物がいた。


魔物は少女の半分ほどの背丈で、オレンジ色の毛に覆われている。鋭い爪を持ち、猫のように出し入れしながら、彼女を狙っているようだった。口を閉じても覗く二本の牙が一層その存在感を際立たせている。しかしその目は穏やかな輝きを持っていた。


初めて見る魔物の姿に、カエデは恐怖よりもむしろ不思議な運命を感じた。これまでに見たことのない、この小さな生き物は、まるで彼女と何かの絆で結ばれているように思えたのだ。


しかし、その一瞬の錯覚は、魔物が体を低くし、彼女に向かって勢いよく飛びかかった瞬間に打ち消された。彼女の胸中に渦巻いていた静けさは、一気に緊張と恐怖に変わった。


彼女は必死に後ろに飛び退り、生い茂る草木の間を駆け抜けるように逃げ始めた。心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響く中、彼女は後ろを振り返ることなく、一心不乱に足を動かした。森の中で風を切る音と、背後を追う軽やかな足音が重なり、彼女の世界は一瞬で変わった。


意図せずして、一人の少女と一匹の魔物の見えない糸で結ばれたような奇妙な追いかけっこが始まった。彼女の心は、驚きと恐怖だけでなく、なぜか高揚感をも感じていた。果たして、この出会いが彼女にとってどのような意味を持つのか、まだ神様でさえ知らずにいた。


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