箱庭のフランケンドールズ

白月綱文

空を目指す話 - プロローグ

まるでその場所は、作りかけのジオラマを途中で放置してしまったような街だった。

壊れた家々が、中身の無いビル街がそこにあり、人は数えるのが簡単な程にちらほらと。

その数が圧倒的に足りなく、廃墟が数多く並んでいる。

そんな風景は、ある種の終末世界のような、目を背けたくなるような寂しさがどことなく流れていた。

いや、事実として、人類は滅びの危機に瀕していたのだ。唐突に現れたその存在に、為す術なくその文明を手放してしまうほど。

もう、人類に科学と呼ぶほどの英智もなく、前時代の置き土産となってしまった家屋を、ただの寝床として使っている現状。

洞穴よりは断然マシだ、ただ火も水も通ってはいない。都市を支えていたインフラは、その言葉すらもう残っていないのだ。

ただ、日々は巡る。日常の傍にバケモノが居ようと、何があろうと生は続くのだ。

そして、百年という歳月はどんな状況であろうと多少の光明は見えてくるもので、疎らな人類も手を取り合い始め暫く。

上手く行っていないなら行っていないなりの工夫と、状況を打開しうる切り札もあるものだ。

それが正に、いま街を物凄い勢いで駆け回っている彼女でもある。

───人造人間。と言われたら浮かぶのは培養液に浸った丸裸の存在だろうか?はたまた、シュタイン博士が生み出したツギハギの怪物の方?

どちらにせよ、彼女は類を見ない『人間らしき者』である。

それ故に形容する言葉がなく、人造人間という在り来りな名称が使われてしまった。

死した人が生き返る、それも本来人に備わってはいない力を携えての話だ。

怪力無双、そんな逸話は世に呆れるほどあれど。見た目はただの無垢な少女が、車を軽々担いで運べるような馬鹿力の持ち主となれば、腰を抜かさない方が無理だろう。

そんな異変が、ある条件下であれば大体の確率で発生する。

それは何故か、なんて理由を聞かれても過去の最新機材もゴミ山の大将を気取った今となっては、知る由もない。

なにはともあれ、そんな怪異的なものをそこに住む人々は人造人間と呼んだのだ。

人の形をして、人の声で語り、人のようで人とは決定的に違う。だが人のように世に溢れたその存在を。

動く死人と解釈してしまえば、ホラー映画の中のようにうずくまってしまいたくなるかもしれない。

でも、怖がることもない。時にそれは人を守り、時に寄り添う隣人である。人類の危機に立ち向かい、より最前線で命を燃やす存在なのだ。

とは言っても、彼女に至っては配達屋という職で落ち着いている訳なのだが。

とまあそういう訳で、これもきっと落ち着いた話になるだろう。

これから視点を追うのは彼女、ユメカと呼ばれる人造人間の女の子。

小柄の幼い顔立ちで、闇の中でも良く映える黒髪ツインテールをしている。

そして、何より目を引くその双眸には、真っ白な一輪の花が咲いていた。

そんな無口で元気な、人の事が大好きな少女のお話だ。

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