死にゲーの世界に転移しました-死にたくないのでとにかく頑張ります-

C茶ん

第1話 理想郷

体が重い。


目を開けると闇が広がっていた。


何度も目をパチパチ開いて確認するも、景色は変わらない。


ただ、暗いだけ。




(俺は、あの変な光を見た後死んだのか?)




それはないだろう。


目は、開く。


耳からは水がポタポタ落ちる音が聞こえてくる。


まだ、感覚が生きている。


つまり、まだ生きている。


生きていると分かれば、早速行動するべきだ。


俺はとりあえず、足を一歩前に踏み出してみた。


足を一歩踏み出すと同時にシャランシャランと鈴がなる音がした。



(鈴?死にゲーなら敵を呼び寄せるトラップだな。でも、この音はどこかで聴いことがある音だ)


鈴は一旦置いておいておこう。

……ふむ、体がどうなっているのかは分からないが、しっかりと動く事だけが分かる。


後は、心臓に胸を当てて動いているかどうかを確認するのみ。


俺は自分の心臓に手を当て───カツン



なんだ?今の音。

胸に手を当てたら、鼓動が聴こえない。


代わりに聴こえてきたのは鈍器で物を叩いたような音だけ。


鈍器……俺の心の臓は学校生活という死にゲーよりも攻略難易度が高いゲームをプレイしていたせいで、トウフから鋼鉄へと進化したのかも知れないな。


いや、そんな事言ってる場合じゃないだろ。

とりあえず、状況確認がしたい。


何か灯りがあれば良いのだが……。


生憎、この暗闇の中だと小石一つ見つけるのも苦労しそうだ。


なので、何も考えずに前に進むことにした。


退けば一つ、進めば二つ、と言うからな。


進み出して、ゆっくりと歩きだして何分経っただろうか。


俺はふと、疑問に思ったのだ。


────これ、異世界転生じゃね?と。


そう、小説投稿サイト『作家になろー』にて作品が多く投稿されている人気ジャンル、異世界系ではないかと俺は思った。


しかし、異世界転生、転移系などは所詮フィクションで現実に起こり得る話ではない。 



「異世界転生……したのかねぇ」


暗闇の中呟いてみる。

もちろん、「そんなわけねーだろ」とツッコんでくれる人は居ない。


もし、俺の身体が異世界転生、転移したのなら、どんな美少女が俺のヒロインで、どんな


チートスキルを与えられ、どんな物語が俺を主人公として引き立たせてくれるのか楽しみだ。 


「転移なら、あの細い身体だから転生が良いなぁ……」


転移は嫌だ。

転生と違って強くてニューゲームを出来ないし、コンプレックスを夢の世界へと持っていきたくないからな。 

でも、これ確実に転移だよな。

身体が動くし、何よりしっかり言語を喋れてるし。


はぁ、あの細くて不細工な、神様が手抜きして作ったとしか言えないような身体で俺は異世界を生活せねばならなのか……。



「……ん?」



転移は嫌、転生が良かったなぁと思いながら暗闇を真っ直ぐ歩き進めて行くと、足下でベチャっという音がした。  


泥を踏んだときのような、突然の豪雨で家に全速力で帰ってる時に聞こえる靴が雨を踏む音みたいな……とにかく、音が気持ち悪い。




こういうときスマホがあれば便利なのだが……。


「スマホ?そうだ!スマホがあるじゃないか!」


俺はなんて馬鹿だったんだろうか。


スマホのライトを使えば良かったじゃないか!


俺は急いで、スマホをポケットから取り出そうとする。


ああ、スマホを取り出すだけでこんなに興奮してるのはいつぶりだろうか。


初めて、スマホを貰った日以来の興奮だ。




「えーとスマホ、スマホ……」




あっれれー、おかしいぞ?

スマホがございません。

というか、スマホ取り出そうとして、ポケット探したら無かったし。


まじでどうなってんの?俺の身体。



「……スマホ」


───俺は、立派なスマホ依存症だったのかもれない。


たかが携帯型機器一つないだけでここまで心がドン底に落とされた気分になるとは考えては居なかったからだ。

トホホ。


───というか、ずーーーっと真っ直ぐ進んでるのになんで何もないわけ?


なろー系だったらここで、名前も知らない麗しき美女か、可愛いという言葉が似合う美少女が来てくれてもいい頃合いだと思うんだけどなー。


はぁ、異世界転移には主人公一途で主人公至上主義のヒロインが付き物だろー!?




「……俺は主人公じゃなかったて事か」



なんか、もう考えるのも面倒くさい。


自室で死にゲーやってたら眩しい光に包まれ、目を開けると暗闇の世界が広がってましたよと。


理解不能に尽くす。




「まぁ、良いんだけどね。俺が居なくなっても何も変わらないだろうし。むしろ、生産性のない毎日を送ってた人間が減って良かったじゃないか」




無理矢理、自分を納得させる。


学校生活でボッチだった俺が自分が傷つかないように得た技だ。


例え、自分にとって不都合でも誰かが満足したなら良いじゃないか。 


1日1善出来ている、自分の存在に意味を見出せて良かったじゃないかと自分を無理矢理満足させる、歪な業である。







歩きだして十何分が経った。

広がる景色は暗闇、以前代わり無し。



「このまま俺は死ぬのか?」




───死ぬ。


生きてきて、初めて本気で死ぬのではと覚悟した。


「それは嫌だな、まだあのゲーム60周し……痛!」



今度はなんだ?


何かにぶつかったぞ。


それも、すごい痛かった。


「痛いなあ………あーもう!!ふざけるな!!」


今まで、蓄積していたフラストレーションがついに爆発してしまった勢いで、俺は、ぶつかった物に拳を突き出した。


すると、ゴォンと金属音のような音が暗闇の中全体に響き渡り、俺の手には痛みが響いた。



「──────あっ……く!」


手の骨が砕けたような感触がある。


雨の雫がポタポタと落ちるように、血が流れる音がする。


痛みが、ある。


───────しっかりと、生きている。


「落ち着け、俺。お前がこんなことでイライラするな。思い出せ、あの陽キャクラスメイトに無理矢理やらされた芸を」



過去の記憶を思い出し、怒りを黒歴史から零れる羞恥心で消してい行く。


そして、少し落ち着いて────



「ふう……状況整理だ。俺は何かにぶつかった。つまり、ここは行き止まりか、真っ直ぐ行ってた道を逸れただけかも知れない。或いは、ここが暗闇から脱出できる出口?なのかもしれない」



落ち着いて考えて出てきた答えは三択。


その中で最も希望があり、この暗闇から出れるかもしれない可能性がある出口。


俺は、希望を見つけるため、ぶつかった場所に手を当てて扉がないかを探し始める。


─────あ


あった。


扉だ。


右にスライドさせるタイプの扉だ。


俺は早速開けることにした。


例え、闇から抜けた先が地獄だったとしても何も見えないよりかはましだ。




 

何だ、コレは……。


扉を開けて、シャバのの空気は美味いぜぇ!と言ってテンションが上がっていたのも


束の間。


直ぐに、収まってしまった。


おっと、興奮が収まったからといって賢者タイムではないからな。



その理由はただ一つ。


「この世界……もしかして……」


──────自分が何度も見ていた世界。


「ああ……この世界に俺は異世界転移したのか?」


──────自分が現実リアルを捨ててまで、行ってみたいと神に願った世界。


「なんだそれ、めちゃくちゃ……」


──────自分だけど、自分じゃない者が死に続けた世界。


「最高じゃないか」


夢にまで見た理想郷、死にゲーの世界であったからだ。


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