IDIOM.落ちこぼれの異世界魔女は、クーデレエージェントに管理されたい
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第1話 異世界の魔女
『親愛なるマザー・トマシーナへ
素敵なお手紙をいつもありがとうございます。
私がアリスティア魔法学園に入学してから、もうすぐ1年が経ちます。思い返せば、この1年で友達もたくさんできました。一緒に授業を受けたり、学校の寮で生活したり、休みの日には遊びに行く毎日がとても楽しいです。
あと最近、学校の成績も少しずつ良くなってきて、とても嬉しいです。成績優秀者だけが集められている第一級学徒の授業は難しいけど、みんなに負けないように私も頑張ります。
いつか憧れの“
どうか、あなたに幸運を。 フェリエッタ・ウィリアムズより』
故郷の孤児院に宛てた手紙を書き終えたフェリエッタは、古びたペンを机に置いた。彼女は、先ほど書いたばかりの手紙を読み返して、一人呟く。
「…やり過ぎちゃった。」
久しぶりに育ての母であるマザー・トマシーナへ手紙を書こうと思ったのはいいが、安心させるために見栄を張り過ぎてしまった。
彼女の書き終えた手紙には、すでに別人となった自分が書かれていた。その内容の盛られ具合は、自分でも呆れてしまうほどだ。
少し内容は直した方がいいかなと30分ほど迷った挙句、彼女は最近気になっている男の子がいるというエピソードをさらに追加して、手紙に封をする。
「ふぅー。」手紙を無事に書き終えたフェリエッタは、魔法学園の寮に備え付けられている椅子の上で、気が抜けた
彼女は少し青みがかった白い髪をボサボサとかき上げながら、ふと乱雑に散らばる机の上に置いてある時計を見る。
「え!もう、こんな時間!?早くしないと!」
”彼女”が帰ってくるまでに
慌てたフェリエッタは、書き終えたばかりの手紙を無造作に放り出すと、急いで授業の参考書を開いた。だが、間に合うはずがなかった。
ガチャリと扉が音立てて開くと、 “彼女”が帰ってきてしまったのだ。
「……あら。あなた、まだ起きていたのね。」
扉を開けて入ってきたのは、フェリエッタと同じくらいの年齢の少女であった。
彼女の肌は透き通るような白く、よく手入れされたボリュームのある滑らかな金髪が、その美しさをさらに引き立てている。そのうえ、全身は高価な装飾品とドレスで着飾られていた。
「ジョ、ジョシカさん。……も、もうパーティーは終わったんですか?」
扉の前に立つ彼女と目が合ってしまったフェリエッタは、彼女の高圧的な物言いと態度に気圧されながら声をかける。
「あんなのパーティーでもなんでもないわ、ただの食事会よ。付き合いだから行ったけど、下級学徒の連中の馴れ合いにかまっていられないわよ。」
ジョシカと呼ばれた少女は、そう言うと叩きつけるようにドアを閉める。それに驚いたフェリエッタは、ビクンと体を震わした。
「全く、あんな連中がよくこの第一級学徒の私を誘えたものね。」
彼女は、イラついた様子で語気を強めて言った。ジョシカは、部屋に入ると、手に持っていた高級バックをタンスへと戻す。
「……まぁ、こんなことあなたに愚痴っても仕方ないわね。それより、頼んでいたレポート課題はできたのかしら。早く渡してほしいのだけど。」
「あー、えー、そ、それなんですけどー。」
「……?どうしたのよ。」
「その、……ごめんなさい!まだ終わってないんです。」
「……は?」
ジョシカは、ネックレスを外そうとしていた手を止め、フェリエッタを睨みつける。フェリエッタを睨む彼女の眼には、明らかに侮蔑の念が込められていた。
部屋の中に流れる重苦しい空気を感じて、フェリエッタは委縮するようにさらに体をこわばらせてしまう。
「あのレポート、明日の古代魔法史学の講義で提出よね。……間に合うの?」
「は、はい!あ、明日の朝には絶対にできるはずです。」
「そう、ならいいわ。」
ジョシカが目線を逸らすのを見て、とりあえず危機が去ったことを感じたフェリエッタはほっと一息ついたのだった。
「いくら勉強ができても、落ちこぼれの“第五級学徒”のあなたには無用ものね。エリートの私のために役立たせるべきなのよ。なんたって第一級学徒の私は、未来の“
自慢げに高笑いしたジョシカは、首元のネックレスを外すと自分の宝石箱の中にしまう。
キラリと光り輝く高価なネックレスが、静かに小箱へとしまわれていく。それを、フェリエッタは擦り切れたワンピースの裾を握り締めながら見ていた。
「
そして、それはフェリエッタも例外ではなかった。
フェリエッタ・ウィリアムズは、エルサム王国南方にある小さな村落に生まれた。そして、両親と死別してからは近くにあった教会の修道院に預けられることになる。
そこでの修道女マザー・トマシーナとの出会ったこそが、フェリエッタが魔法の道へと進んでいくきっかけであった。
修道院に預けられてから、すぐに魔法の才能を開花したフェリエッタは、マザー・トマシーナの熱心な教育のおかげもあり、村落の中では一番の魔法使いへと成長することになる。
御伽噺の中に出てくる
15歳になったある日、フェリエッタはマザー・トマシーナの温かい推薦と村中の期待を背負い、一人で故郷を遠く離れた街にあるアリスティア魔法学園へと進学することになる。
――だが、そこで彼女はこの世界の現実を知ることとなるのであった。
彼女の進学したアリスティア魔法学園には、支配者階級にあたる魔法使いの血筋をひく生徒たちばかりが集まっていた。
彼らには、その血族から受け継いだ膨大な量の魔力があったのだ。
その一方で、フェリエッタは、何の変哲もない村民の生まれである。少ない魔力量しか持っておらず、大きな後ろ盾もない彼女には、生まれながらに圧倒的な差があったのだ。
入学早々に劣等生の烙印である第五級学徒に割り振られてしまった彼女だが、勉学に関しては人一倍頑張ってきたつもりではある。
でも、気が付けば、周りの生徒たちからの冷たい視線や嘲笑に耐えながら、全寮制の宿舎で一緒になったジョシカに強引にレポートを押し付けられる日々が続いていた。
彼女がマザー・トマシーナに話すような生活は、そこにはない。
「やっと終わった~。」
夜が深まる中、フェリエッタは書き終えた二人分の古代魔法史学のレポートを、彼女の豊満な胸の前に掲げて大きく伸びをする。
――ガタン!
その拍子に足がぶつかり、机が大きく揺れる。驚いたフェリエッタは、それ以上物音が大きくならないように、慌てて押さえつけた。
恐る恐る振り返るが、幸いなことにジョシカは気持ちよさそうに寝息を立てていた。安心したフェリエッタは、肺の中に貯めていた空気を大きく吐き出す。
「……私、何してるんだろ。」
静まり返った部屋の中で、小さく独り言を呟いてしまう。彼女はレポートを机の端に押しやると、うつ伏せになったまましばらく動けずにいた。
魔法の才能がない自分がどれほど頑張っても、結果は変わらないように感じる。周りの視線や期待、すべてから逃げ出したい、そんな思いが不意に込み上げてくる。
レポートでまとめた古代魔法の歴史書には、”異世界に行く魔法“や”世界そのものを変えてしまう魔法“など、現代よりも強力な魔法がいくつもあったことが書いてあった。
――今の私がそれを使えたら、一体どうするんだろうか。そんなことを考えながら、フェリエッタは静かに眠りにつく。
衝撃で机から落ちた彼女の手紙は、ひっそりと床に転がっているのであった。
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