009:ワガママ騎士
いつも通りの朝だ。
チュンチュンッとスズメの鳴き声がする。
こんなに清々しい朝のはずなのに、僕はガチムチのおっさんと木刀を振っている。
どうした朝からおっさんと汗を流さなきゃいけない。
「アラン、どうした! こんなもんで根を上げてるんじゃ無いだろうな!」
「まだまだやれますよ!」
「その息だ! お前なら、もっと強くなるぞ!」
まぁおっさんとって言ってても仕方ないか。
一族の復讐をする為には、もっともっと強くならないとダメなんだ!
そこから2時間の朝練を行った。
終わったタイミングで、エルサがタオルをくれる。
「ありがとう!」
「い いえ! メイドとして当たり前の事で………」
「朝から熱々で良いねぇ」
「からかわないで下さいよ!」
僕たちが照れているとオロフ大将軍は、ニヤニヤしながらイジってくるのである。
それを僕が注意すると大笑いしながら屋敷に戻る。
僕の苦労も知らないで………。
僕もエルサと一緒に屋敷の中に戻ると、服を着替えてから朝食を取りにダイニングに移動する。
そして僕の前に豪華な朝食が出る。
それをパクパクと、いつものように食事をとっていると外が騒がしい事に気がつく。
「ん? なんか外が騒がしくない?」
「そうですね。少し見てきますので、お待ち下さい」
エルサが外の様子を見てくると部屋を後にする。
それを見送ってから僕は食事を再開するのだが、5分経っても帰ってこないので様子を見に行く事にした。
立ち上がってエントランスに行き屋敷の扉を開ける。
すると外ではエルサだけではなく執事やメイドたちが大勢で、1人の男の子の相手をしていた。
僕と同い年くらいだから7歳か8歳くらいの男の子。
何やら僕と勝負がしたいとか、大将軍のエコ贔屓だとか騒いでいるらしい。
「エルサ、そんなに僕とやりたいわけ?」
「え? まぁ……そうらしいです。何とか私たちの方で対処しますので、アラン様は食事を続けて下さい」
そんな事を言ってもなぁ。
こっちとしては僕の事で、いらない仕事をしているのに飯を美味しく食事なんてしてられないわ。
理由が分からないなら仕方ないけど、この男の子は僕と戦いたいって事で騒いでるんだよな?
それなら答えは簡単だ。
僕が相手をしてやれば良い。
「それなら僕が相手になってあげるよ。それで一件落着だよね? 皆んなにも世話をかけたし、それくらいはしてたってバチは当たらないさ」
「ダメです! アラン様のような方が、あんな低俗な人間と勝負なんて沽券に関わります!」
おぉエルサちゃんが強気になってるぞ。
人ってやっぱり立場が変われば性格も変わるもんだ。
いやいやそんな事を言ってられない。
こんな事で騒がれてたら、大将軍にだって迷惑をかけてしまうかもしれない。
それだけは避けなければいけない。
僕はエルサの肩をポンッと叩くと、その男の子の方に向かって歩き出す。
すると僕が来た事にメイドたちと男の子が気づく。
まさか僕が出てくるとは思っていなかったらしい。
「君の名前はなんて言うんだ?」
「お 俺か? 俺は《ファビオ=ハーバー》だ! お前がアインザック家のアランだな!」
「ファビオ君ね。それで君は僕とやりたいんだろ?」
「そうだ! お前なんかよりも俺の方が、大将軍の弟子に相応しいんだ!」
ファビオは僕と戦いたいと全身でアピールする。
分かりやすい奴だと僕は少し笑う。
とりあえず納得して貰う為には、僕がファビオと模擬戦をする必要があると思っている。
「別に僕が相手になっても良いけど、こっちがルールを決めさせて貰うぞ? それでも良いなら逃げずに、僕が君の相手をしてあげるよ」
「そんなの全然良いに決まってるだろ! 俺は強いからな。弱いお前にルールを決めさせてやる!」
「それじゃあ剣は木刀で相手が戦闘不能になるか、ギブアップしたら終わりにする」
僕がルールを決めてファビオも納得した。
これで僕とファビオの模擬戦が決定する。
そしてエルサに木刀を持ってくるように頼む。
「こちらをどうぞ………本当にやるんですか? あんな下賤な人間と戦わなくても良いのでは?」
「そう言うわけにもいかないさ。それに僕が同世代の人間と、どれだけやれるのかを試したいしね」
「そういう事でしたら良いのですが………」
エルサから木刀を受け取ると、皆んなが見守る中でファビオと向かい合うのである。
互いに剣を構える。
そしてエルサが模擬戦スタートの合図を出した。
「先手必勝!
へぇこの歳でソニック・ムーヴを使えるのか。
中々に良い動きをしてるな。
それなりに修行を積んでいるみたいだな。
ファビオは自分のスピードを上げる身体強化魔法であるソニック・ムーヴを使った。
普通の人からしたら動きは速いが、オロフ大将軍と修行している事で動きを見切れた。
何より対人経験が少ないのだろう。
ファビオの動きは単調で分かりやすい。
その為、僕は体の向きを変えてファビオの攻撃を避けると、カウンターで背後に回り込む。
「なっ!? 動きを見切った!?」
「動きは良いけど、単調で動きが読みやすいよ」
「うげっ!?」
僕は背後に回ったところで、ファビオの頭にドンッと木刀を入れて地面に倒れさせる。
立ちあがろうとするが、喉元に木刀を突きつける。
「これが戦場だったら、ファビオ君は死んでたよ?」
「ま 参りました………」
僕がニコッと笑いながら戦場なら死んでいたという。
するとファビオは自分の負けだと認めた。
きっと一撃で僕との実力差を感じたのだろう。
地面に仰向けにバタンッと倒れて空を見上げる。
「まぁ僕には負けたわけだけど、ファビオ君には見込みがあるよ! それで君にオファーしたいんだけど、僕の護衛人にならないか?」
「俺がアンタの護衛人? どうして俺がアンタを守らなきゃいけないんだよ」
「別に良いんだよ? 君が僕と一緒に大将軍の修行を受けたくないっていうならね」
僕はファビオに護衛人にならないかとオファーした。
それに対して自分が僕の護衛を、どうしてしなければいけないのかと言ってきた。
僕としては別に断られても良いのだが、このオファーを受けるという事は、すなわち大将軍の修行を一緒に受けられるというわけだ。
それを聞いたファビオは「むむむむ……」と、苦渋の決断をする少し前みたいな顔をしている。
「わ 分かったよ! アンタの護衛人になってやる!」
「うんうん、良い判断だと思うよ! しかしまずは敬語から始めて貰おうか」
「わ 分かり……ました」
「それで良しと!」
ファビオは護衛人になる事を決めた。
僕は良い判断だと褒めた後に、まずは敬語を使えるようになろうと言った。
するとファビオは苦しみながら敬語を使った。
これでエルサにファビオと、将来の英雄パーティーの初期メンバーが揃った。
ここから話は10年後に飛ぶのである。
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