007:息抜き

 僕がオロフ大将軍と修行を始めて1週間が経つ。

 その頃には慣れてきて辛さはあるが、何とか耐えられるようになってきていた。

 これは強くなっているのでは?という自信を感じ始めている時にオロフ大将軍は言う。



「明日は修行を休みとする。馬鹿みたいに修行するのも良いが休息を取らないと壊れるからな」


「は はい。それじゃあ明日は休みます」


「ヤルドの街を見て回って来たらどうだ? ヤルドは色々と見るところがあって休息になるぞ」



 へぇオロフ大将軍が、そこまで言うのなら行ってみる価値はありそうだな。

 ここ最近は修行しかしてないし良い息抜きになるか。

 お言葉に甘えて羽を伸ばさせて貰おう。


 筋肉痛が出なくなり始めたタイミングで、オロフ大将軍は休みをくれたのでヤルドの街に行く事にした。

 どれくらい帝国と違うんだろうと、少しワクワクしている自分がいる。

 オロフ大将軍が用意してくれた綺麗な服に着替えて、メイド長たちに街に出ると報告する。



「お一人で、お出かけになるんですか!?」


「え? そうだけど……何かダメだった?」


「それは危険です! ヤルドは安全とは言われていますが、それでも坊ちゃんを狙う人がいるかもしれません」



 そんな人がいるのか?

 僕なんかを連れ去って何をしようって言うんだろ。

 まぁ確かに身分は良いだろうけど………。

 ん? 僕って意外と重要人物なんじゃないか?

 もしかしたら世界を動かせる人間なのでは?


 メイド長に危険だからと言われたが、まだ僕には危険という自覚がなくてキョトンとしている。

 しかし考えてみると僕の立ち位置が、この国にとっても大きい事を認識した。

 確かに護衛は付けた方が良いんだろうか。

 色々と考える中で仕方なく付ける事にした。



「屋敷の仕事があるのに、僕の息抜きに付き合わせて申し訳ない」


「いえいえ坊ちゃんの身を考えましたら、これくらいは苦労ではありません! 坊ちゃんは行きたいところを自由に行って下さい」



 そう言ってくれるのなら、せっかくの休日だし全力で楽しもうじゃ無いか。

 とりあえずどこに行こうかなぁ………。

 行くのなら異世界らしいところが良いなぁ。

 異世界らしいところってどこだ?


 異世界らしいところに行きたいと思った僕は、街の中を色々と回って見る事にした。

 僕の後ろにメイドと執事が1人づつと護衛の兵士が、1人着いての遊びになった。

 その為、周りの人たちは貴族かと若干引いてる。

 居た堪れなくなりながら街の中を歩いていると、ある武器屋を見つけたのである。


 武器屋かぁ。

 これは異世界らしいところか!

 それじゃあとりあえず入ってみよう!



「この武器屋に入っても良い?」


「えぇ良いですよ。それにここに目をつけるとは、さすがは坊ちゃんです!」


「え? それってどういう………」



 兵士のさすがという褒め言葉の意味を理解せずに、木製の重たい扉を開けて店の中に入る。

 すると独特の鉄の匂いが鼻に広がる。

 そして何よりも日本では見れなかった、素晴らしい剣や防具がズラーッと並んでいる。

 興奮のあまり鼻息が荒くなってしまう。

 店の隅々をキョロキョロして見渡していると、店の奥から野太い「いらっしゃい」という声が聞こえた。

 声の主は店の店主で、まさしく元冒険者という感じのガタイの良い体をしている。

 こんなの町の中で会ったら子供は泣いている。

 そんな男が武器屋の店主である。



「ここら辺じゃ見ない顔だな。この街に来るのは初めてって感じか?」


「え? ま まぁそんな感じです。ちょっと武器に興味があったので………見ても良いですか?」


「おぉどんどん見ろ。お前みたいな子供が将来、冒険者とか騎士になるのは素晴らしい事だからな!」



 思っていたよりも怖い人では無いみたいだ。

 僕は許可をとってから店の中の武器を順番に見る。


 あっ! そうだ。

 この日の為にアレを取ったんじゃないか。

 ここで使わずに、どこで使うんだ!


 僕は帝国にいた時にユニーク・スキルを使ってコピーしていた〈鑑定〉のスキルを使おうと思った。

 そうすれば武器の性能が手に取るように分かる。

 心の中で鑑定と願うと、僕の視界に剣の性能が出る。


 この剣は見た目こそ良さそうに見えるけど、性能を見てみたら切れ味も耐久値もダメダメだなぁ………。

 それなら平凡に見えるけど、こっちの武器の方が切れ味も耐久値も何なら魔法付与まで付いてるよ。

 やっぱり鑑定スキルって便利だなぁ。



「おぉ! 坊主、その剣に目をつけるとは凄いなぁ」


「やっぱりこの剣は良い剣ですよね?」


「そうだ! 切れ味や耐久性だけじゃなく身体能力を向上させる魔法も付与されてんだよ」



 僕の目利きに店主は感心する。

 しかし残念ながら目利きではなく鑑定スキルだ。

 まぁそんな事は言わなければ分からないので、僕は店内の見学を続けるのである。

 そのまま30分くらい見学した。

 そして満足すると店を後にする。


 いやぁ武器屋って意外にも見れるもんだなぁ。

 日本に居たら見る事なんて出来ないだろうから、異世界らしい事が出来てるな。


 そんな感動をしながら街の中を進んでいると、子供たちの声が聞こえてくる。

 この街は子供が多いんだなぁと思っていると、その声の張本人たちを見つける。

 その子供たちは何かを囲んで罵倒していた。

 何だと思っていると囲まれているのは女の子だった。

 そんなのを見つけると見て見ぬ振りはできないと、止めに入ろうと走り出した。



「おい! 多勢に無勢で女の子相手に何やってんだよ。男として恥ずかしく無いのか?」


「はぁ? お前誰だよ。この亜人種の味方すんのかよ」


「亜人種? そんなの関係ないわ、女の子は女の子だ」



 これだから子供の男は好きになれないんだよなぁ。

 子供の頃の男の子って女の子を虐めるのをステータスだと思ってるんじゃ無いか?

 そんなの全くもって理解する事が出来ない。

 これを許したら僕の中での正義がなくなる気がする!

 だから、許すわけにはいかない!


 僕が止めに入った事で標的が亜人種の女の子から僕に変わったらしい。

 僕は囲まれたが不思議と怖く無い。

 それもそのはず心は大人な上に、オロフ大将軍から修行をつけてもらっているからだ。



「ボコボコにしてやっても良いんだぞ! 俺たちは冒険者見習いだぞ!」


「へぇこんなのでも冒険者になれるんだぁ」


「はぁ? 本当にボコボコにしてやるぞ!」



 僕の態度にイラッとした男の子たちは、胸ぐらを掴んで一触即発の雰囲気になる。

 しかし胸ぐらを掴まれた瞬間、僕は殺気を放つ。

 これはオロフ大将軍から教わった事だ。

 子供相手に殺気を出すのは大人げなさそうだが、まぁ向こうが悪いから仕方ないだろう。

 すると男の子たちは「うわっ!?」と言って離れる。

 僕の殺気を感じ取って震え出すのである。



「お お前は誰なんだよ!」


「誰って通りすがりの騎士見習いだけど? 君たちがやりたいなら僕は相手になるよ?」



 わざとらしく吹っかけると、子供たちは固唾を飲んでヤバいと思ったみたいだ。

 そのまま分かりやすい「覚えてろ!」という言葉を吐き捨てて逃げていったのである。

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