5-5 選民

  アルヴィスとシャルルの母、ルイーズ・オーギュスト。若くして没した夫の代わりにこの国を治めてきた強い女王───。




「アルヴィス、爪を噛むのはやめなさい。」



 美しい金色の髪と瞳を持った母ルイーズに、幼いアルヴィスはその仕草を咎められた。



「ごめんなさい、ママ。」




 素直に謝るアルヴィスをルイーズは激しく叱責した。怯えきった幼い彼はは震える瞳で、母親である人をただ見つめることしかできないでいた。


「何度言えば解るの、わたくしの事はと呼びなさい。あなたは人ではないの。あなたは選ばれた子。愚民たちが使う呼び方をしないで。あなたが国王となるため、私は女王となった。アルヴィス、あなたにはこの王家を継がなければならない理由があるのです。我がオーギュスト家の悲願の為に。」



 冷たい不気味な笑顔がアルヴィスに向けられる。三年前、父親である先王が亡くなってから、明らかにルイーズは変わってしまった。優しく慈しんでくれは母の姿は微塵もなく、【ルイーズ】しかなかった。



「アルヴィス、あなたはこの国を統べる特別な子であるのよ。それを肝に銘じておきなさい。」



 特別な子──。その言葉はアルヴィスにとって、とても心地よいモノであった。




 他の者とは自分は違う、自分は選ばれし人間なのだ。偉大なただひとつの存在。




 金色の瞳と髪、古来よりオーギュスト家に伝わる神に選ばれし者の証拠。金は王者の色。

 彼は物心付く前から教え込まれていた。





 となるのだと。






「兄上、一緒に遊んでくれませんか。」



 美しく艷やかな黒い髪に黒い瞳の末弟のシャルルがアルヴィスを見上げていた。何も知らない無垢な瞳がアルヴィスの神経を逆なでしてきた。



「私はこの国の国王となる者。いわば神に等しいのだ。そんな些末で世俗的な事に興味はない。つまらない者は、つまらない者同士戯れよ。私の前で愚民はただひれ伏せればいい。」




 くだらない事を思い出させる黒い髪がモニターに映る。長い髪が風に揺れて自在に動く。



 そう、実の弟まで拒絶したのに、それは向こう側にいて妖艶に微笑んでいた。




 幼い頃から抜けきれない癖は、年々酷くなっているのに、咎めることができる者は誰もいなくなっていた。


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