4-4 未来

 その答えを、この部屋の四人だけが知っていたが、敢えてそれを口にしなかった。




カイエン


シャルル


ペイロール



そして──

アレックス



 リーフ・フォン・リンデンバウムが消えた時、セリスが見つかった時に、12騎士として選ばれていた者。





 その『答え』の一部を未来視してしまったマリクは、魔法式を俯いて見ている。




「ぼ…僕にっ、少しだけ時間をください…。」




 いつものふざけたような口調ではなく、切実なものを感じたヴィーチェは、悪意もなく提案してしまった。




「なら、休憩しましょう。アレックス様が、セリスにご用事があるようだし。」




 マリクは俯いたまま、微かに震えている。



──見てしまった未来を変えるための、足掻く時間が欲しい。




 ぞろぞろと退出する背中をみながら、「計算続けるね」と小さく彼は手を振ったが、視界は徐々に揺らいでいった。




『このままだと、僕たちの損失があまりに大きすぎる。セリスは…実の父と同じように』



消える──






「セリス…、ちょっといいですか。」



 アレックスはセリスを呼び止めた。お茶会の後のよくある光景。



 どちらともなく呼び止め、他愛のない話をする。その時だけは、彼女は年相応の柔らかい表情で微笑み、彼は重い役職から解き放たれた自然な表情を見せていた。




 いつものことなのに、それだけで苦しくなる。

──彼が、自分の名を呼ぶ。楽器にも似た、低音の響きのある優しい声が、自分に向けられる。それだけでも幸せだと思ってしまった。




「そこのドア開けっ放しの部屋、使っていいわよォ。大方、いつものピアノの話ばっかりでェ、ちっとも色気のある話なんかしないんでしょうゥ。一応、ドアは閉めてェ。何もできはしないでしょうゥ。」


 ニヤニヤと笑うシャルルは遠の昔に、二人のすれ違う思いに気がついていた。



『清らかな者が堕ちていく様がみたい。』



 彼の中にあるのは、その狂気だけだった。




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