第10話 会議シーンって尺稼ぎよね!?
「同じ言葉を話しているのがおかしくて、それこそが彼等が国の追求を逃れている理由ということですよね?」
「でも宇宙人を働かせるのは違法だったはず~……何とか法で」
「星間就労法よ。異星人とは別物って言いたいんでしょ」
セシル、リヴィアン、カルヴィナの三人は議論を続けていた。
現在この国は星間戦争中であり、国には異星人の不法就労を取り締まる法律が存在する──戦争中に敵国で「働きたい」「雇用したい」人間などいるのだろうか?
まだ学生だからだろうか。ヨウには今一それがピンと来なかった。
カルヴィナに言わせれば一言に異星人と言っても種類が存在するらしく出身国によってはOKというような括りが存在するという。とはいえ彼女も異星人を目にしたことがなく、一般人にとっては縁のない法律のようだ。
「……ねえ、そろそろ本題に入ったらどう?現場に着いてまず何をするのか、どういう危険性があるのか。思わせぶりなことばかり言って、実物見るまで何も分からないのに思い悩むだけ無駄じゃないのよ」
「それもそうだな」
「私が読んでる漫画もさあ、ここ6週間ぐらいずーっと会議シーンよ。作画が楽でしょうね~!全員お腹から上だけ描くだけで済むんだから。机上の空論でストーリーは進まないし、専門用語の嵐だし、登場人物は何十人もいるしで。読者への配慮が足りないったらないわ」
──この場をセッティングした御偉方にも言えることだけどね!
カルヴィナはキッと斜め上、部屋の角を睨みつけた。わかりやすく録画装置のようなものはないが、経験上「記録されないわけがない」らしい。
これで減給されたりしないのだろうか。それはともかく……。
この世界にも漫画のようなサブカルチャーは存在し、ヨウの「故郷」と同様に会議シーンで尺稼ぎは行われ、専門用語が乱舞し、収集の付かない群像劇が繰り広げられているそうだ。ちなみにそれでも人気を博しているのだというのだから驚きである。
カルヴィナ曰く「小説と違ってねえ、漫画やゲームってビジュアルがあるでしょ。絵本みたいな物で絵があれば食いつくのよ」とのこと──一理有るような無いような。同じことをするとして視覚に訴える手段の有無は多大な差を齎すのだそうだ。
何故こんなところで愚痴を聞かされているのだろう……。
「話を戻す。今回の依頼はシミュラクラセクターにおける召喚装置の破壊・回収任務。到着地点にてシミュラクラ職員が現地ガイドとして加入する」
「召喚装置について事前に接触リスクを知らせるべきじゃないですかね~?」
「……今からスクリーンに映す」
事前にスライドの用意があるようだ。
環はゆっくりと席を立つと会議室に備えられたスクリーンの傍まで歩いていき、備え付けのPCを立ち上げた。
空間結合により切り離された部屋に電気が通っているというのも何だかおかしい話だが……ヨウの知らない技術が用いられているのか、代用エネルギーが有るのかはさておき。特にトラブルが起こる様子も無くスライドが表示される。
先程から環が口にしていたように目的は「シミュラクラセクターにおける召喚装置の無力化」──環が破壊と回収と言ったのは依頼自体は無力化出来れば何でもいい、というものであるからだそうだ。
目的地はシミュラクラセクターのスラム、初めに召喚装置の存在が確認された土地。そしてセクターを統括する組織から一人、職員がガイドとして同行するという。
……残念ながら戦闘員ではないようだ。
「次にシミュラクラが提示した召喚装置の概要だ。写真も有る」
「これゲート?シミュラクラの商品に似てますね。召喚されてすぐ手が滑っちゃって壊したのでどんな形状だったかも覚えてませんけど」
「……そんなに容易く壊せるものなんですか?」
「召喚装置」というのはシミュラクラによる仮名であり、正式名称は不明。
スライドには召喚装置の写真とセクターにおいて最初の召喚装置が発見された経緯が記載されている……召喚装置のビジュアルは先ほどヨウがタブレットで確認したシミュラクラの商品とほぼ同じ。少し大きくして枠を黒くしたゲート型金属探知機のようだ。
自社の商品の類似品が突如出現し、事件を起こしたら焦るのは当然か……。
ヨウは召喚当時ついでに破壊した召喚装置のことを思い出していた。記憶は朧げだが、確かに召喚現場にはこれに似た破片が散乱していた気がしなくもない。
ヨウはやや引き気味に尋ねるセシルの質問には答えなかった。
「召喚装置は不定期に人間を排出する。この世界の誰でもない他人だ。監視カメラに収められた映像も提出されているな」
「うわ~っ!スラムの道のど真ん中にカメラあるんですか!?キモッ!」
「突っ込むとこそこじゃないでしょ……」
装置が召喚装置たる所以は映像証拠。
──スライドの中に挿入された数十秒程度の動画ではゲートが実際に人間を「排出」する様が収められている。道端に放棄された金属のゲートの間からぬるりと人間が吐き出される様は何とも言えない気味の悪さが漂っている。
「彼等の話す情報はまちまちだが、初めから『勇者』を自称した者もいたという。「交通事故に遭ってここに辿り着き、女神に助けられた」と語る者もいた」
「全員流行りのファンタジーっぽいね。夢が有っていいじゃないの」
「彼等は必ず能力を持っていた。それを用いて無差別攻撃をする者がいた」
自分以外にも召喚早々に暴れた人間はいるらしい。
ヨウは内心、少し安心していた。装置が吐き出した人間達は大まかに分けて二つ「別世界から呼び出された」「死んでこの世界に来た」と語る者がいる。箇条書きでリスト化されている様を見ると何とも言えない気持ちになるが、ヨウの場合は前者に含まれている。
召喚された『勇者』や『聖女』達は必ず何らかの能力を持ち、これが暴れた際に上流階級の人間が死亡してしまったこともシミュラクラが対応を急ぐ原因にもなっているそうだ。命の価値に違いがあるのはヨウの故郷と然程変わらない。
「ならヨウも能力者なんでしょ?試しに何かやってみてよ!」
「いいですけど」
「椅子を持ち上げるとかどうかな?」
カルヴィナからの唐突な要求にヨウはやや驚きつつも近くの椅子に視線を向けた。
──そういえば力を振るうのは召喚された時以来だ。
当時の要領を思い出し、椅子に意識を集中させるヨウ。そんなヨウを見守るチームの面々……しかしながら待てど暮らせど椅子が浮き上がる様子は無い。
「今は駄目そうですね……」
「召喚関係者を蹴散らしたって聞いたから期待してたんだけど。まあ……人間だれしも不調はあるよね。また今度見せてくれたらいいよ」
こうして話は元の軌道へと戻っていく。
カルヴィナは少し残念そうな顔をしたが、特に気にしていない様子。
かえってヨウの方がこの不調に得体の知れない不安を感じていた。いつからか「力」のようなものが感じられなくなっている。
──携帯が圏外になってしまうような感覚だろうか?
「話を戻していいか」
「どうぞ。私が余計に気になったのはそれだけだから」
「先程も言ったが、召喚装置は『増える』」
──増え……増えるんですか?装置が?無機物なんですよね?
環はスライドを切り替えた。
次のスライドは召喚装置の特性を記載したもの。
「装置そのものが増殖する」ということが太文字で強調されているあたりこれが厄介な特性なのだろう。
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