第11話 用語が多いと人が逃げるわ
「増殖ですか?召喚装置は『無機物』ですよね。分身、分裂……どれも機械の行動だと言われると違和感があるんです。……変異体の中には産卵し、大量発生した事例も確認されていますから……決して不自然ではないんですけど」
「気っ持ち悪いな~虫の話とかやめてくれません?想像しただけでゾワッとする」
テーブルに着いている全員が再度スライドの装置に視線を向ける。
どこからどう見てもゲート、或いは何かしらの機械──「置物」だ。
その意見は別の世界から来たヨウも変わらず、スライドの中の置物が勝手に増殖していく様は中々にイメージし難い。ニュッと横に分裂するのか、と思えば「数㎞圏内にランダムに同型のゲートが出現する」という釈然としない増え方だ。
アストレアと環はよくあることだと言わんばかりにスライドを眺めたままポーカーフェイスを貫き、リヴィアンとカルヴィナは気持ちの悪い例えをするなとセシルを責め立てている。
ヨウは異世界人達の妙に落ち着いたリアクションの連続に違和感を感じていた。
「丁度いい。環よ、一旦話を切り上げて窓の外を見せてやろう」
「ああ。……ヨウ、タブレットで地域設定をしてみろ。設定から現在地の自動検出が出来るだろう」
アストレアの提案に環は一旦椅子を窓へと向けた。
ミーティング中も変わらず部屋は『空間結合』により、移動を続けていたらしく以前セシルと外を眺めていた時とは比べ物にならないほど自然溢れる景色となっていた。田舎というよりはベッドタウンという言葉が合っている。そして今ヨウ達がいるフロアはある程度「高所」を移動しているようだ。
セシル、リヴィアン、カルヴィナの三人が席を立ち、各々窓際へ歩いていく最中。環に呼び止められたヨウは彼の発言の意図も分からないまま手元のタブレットを操作する。彼の言う通り、設定は簡単であった。
──次の瞬間、タブレットからけたたましい警告音が鳴り響いた。
「は?どういうことですか?」
「あの子達と一緒に窓を見てごらん。この世界に来たら一度は見ておくべきさ」
「……はあ、分かりましたよ。うるさいので一旦コレ止めますね」
アストレアは自席に腰かけたまま優雅に頬杖を突いている。
彼女とは対照的に窓際で大騒ぎしている三人組にヨウは正直混じりたくなかったのだが、何となくテーブルに残るのも居心地が悪かった。
ヨウがタブレットの電源を落とそうと視線を落としたところ、画面には大きく「避難勧告 警戒レベル5」の文字が並んでいた。
故郷で言うところの地震のようなものか……と思えば三人の様子を見る限り、そうではないらしい。
「環さ~ん!なんでこんな危険な所通るんです!?ワンチャン俺達全員死亡ルートあるんですけど!不審死したらどうするんです!?」
「こんなに近くで見たの初めてかも……ヨウも近くに来て!普通、遭遇したら死ぬから。レアよ、異星人よ!」
カルヴィナに手を掴まれ、引き摺られるような形で窓の前に立たされるヨウ。
窓の外では雲を劈くようにして空から伸びた柱が宙に浮かんでいる。
柱は巨大で鋭利な形状をしており、暗い金属質のような質感。先端は鋭く尖り、空中に複数浮かんでいるように配置されている。それぞれの柱は天空から地上に向かって真っすぐに伸びているわけではなく斜めの角度で傾いており、まるで大地に突き刺さろうとしているような印象を与えた。
──これが異星人?乗り物や兵器ではなくて?
柱状の物体の存在感は圧倒的で、どこか異質で不気味な雰囲気を醸し出している。質感は光をほとんど反射しない暗い色調で、黒とグレーが混ざったような色合い。柱の表面に線や凹凸が見える無機質で冷たい金属製の構造物。
「これが星間戦争?何か思ってたのと違うけど……」
「アレは足って呼ばれるタイプですね。地方によって呼び方が違うんですけど……異星人の兵器と言われています。不審死の原因、そして変異体を作る原因……あっ!ここは影響を受けないそうなので僕達の心配はしなくて大丈夫です」
「攻撃されることはないの?ビームを打ったりとか」
「国防局の対応によってはあり得るかもしれません。噂をすれば……ああ、来ましたよ」
ヨウの隣でセシルがガラス越しに柱の一つを指差す。
柱そのものは真下にある建造物群を破壊していないように見えるが──三人に言わせれば「出現すること」が不審死のトリガーになっているらしい。幸い空間結合によって移動するフロアの中では兵器の影響を受けないという事実に一先ず安心する。
柱はまるで住人達の避難を待つようにして宙に座しているが、セシルの指を追っていく先に火花の明滅が見えた。何者かかが柱を攻撃しているようだ。
「アレは行政機関の一つ、国防局。ここからじゃ何も見えないわね。国防を担う機関ってだけ覚えておけばいいかな……あー、ヨウの故郷に軍隊とかいた?」
「国防軍がありました」
「きっと似たようなものね。アレが出てくると手足も攻撃するんじゃないかしら……」
ヨウは手元のタブレットに再度電源を入れ、警報をオフにする。
早速検索をかけてみたところ……『国防局』というのは国家防衛を担う軍事組織であるそうだ。主に異星人との戦争に対応するため、軍備を拡充し、国内外の防衛を行っている。国防を担い、外敵からの侵攻や紛争に対応する軍事組織。大規模な戦闘や国境防衛、宇宙からの敵に対する迎撃を得意とする。
月面に基地を設け、地球圏内の防衛活動も行っているという──これだけを聞くとこの国はそこまで宇宙進出のレベルが高くないのかもしれない。
「重火器を使用した遠距離戦闘が得意で、特に対空防御や爆発物処理に長けている。事力を背景にした正面突破や防衛が主。重火器を使った集団戦術に優れ、統率力を活かす」……とりあえずカルヴィナの言うように軍隊のようなものだろうか?
ヨウは故郷にいた頃、それほど国防について意識したことはなかった。隣国との関係が芳しくないという趣旨のニュースは度々見かけていた気がするが、だからといって一触即発──というほどでもない。
四人は横並びのままガラス張りの窓を眺めていた。
「あっ!ヨウ、ほら見て!手足が何かを押し潰したでしょ?」
「ぐしゃっと行きましたね。でもあれは戦車のシルエットではないですよね?」
「重装甲パワードスーツよ。国防局で支給される防具で国内ではおおよそ最強の防御力を誇るはずなんだけど……」
「異星人には歯が立たないと?」
「毎回出動させるんだから効果が無いわけではないのよ、きっと。ご苦労様だわ」
柱の傍に群がっている黒い人型の正体はパワードスーツを纏った局員達であるという。あくまで歩兵なのか……と思いきや、一応搭乗するタイプの物もあるのだそう。
──いずれどこかで彼等に出会うこともあるのだろうか?
カルヴィナの言う通り、暫く国防局と異星人の兵器と思わしき物体は小競り合いを続けていたが結局一時間も経たない内に異星人側が撤退してしまった。
チームの面々に言わせればこれが不定期に国内の何処かで発生しているらしく、国民は最早慣れっこで自然災害と同列に扱われているようだ。
ヨウは漠然と戦闘の終わりまでを眺めていたが、どうにも異星人側の行動に違和感が残っていた。彼等は積極的に街を破壊しなかったし、住民の避難を待っているような素振りさえ見せていた。
案外、異星人の方が人の心があるのかもしれない。
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