第2話 兄弟喧嘩?

「ダメだ、ふざけるな」

「ふざけていない」

 誕生日まであと十五日。

 手伝いをしようと執務室へ入ったが、イヴァンとアルダリが何やら揉めていた。

 普段、仕事の事で多少の言い争いはあっても、ここまでピリピリとした空気ではない。仲の良い兄弟が睨み合っているのを見て、俺は彼らの元へ駆け寄る。

「どうしたの?」

 二人を交互に見る。イヴァンは俺の手を取ると、自分の腕の中に閉じ込めるように俺を抱きしめた。

「へ……? 何があったの?」

 訳が分からず説明を求めると、アルダリが溜息をひとつつき説明を始めた。

 喧嘩の要因は、明後日の視察に関することだった。

 予定では、イヴァンと俺は屋敷で事務作業を行い、アルダリとルーサは一泊二日で、二つ向こうの町に視察に行くと聞いていた。

 しかし、連れていくはずだったルーサは、急遽王都に出向かなければならない用事ができ、行けなくなった。

 視察には付き添いとして従者を連れていくこともあるが、今回の件は計算に長けている者が必要らしく、アルダリが俺を指名したのだ。

 たしかに計算に関しては、皆を手助けすることができると自負している。そして、数学を真面目に勉強しておいて良かったと常々感じていた。

「アサヒが行くなら、俺が視察へ行こう」

 イヴァンがアルダリに提案するが、首を横に振られる。

「ダメだ。あの町長は俺じゃないと扱いきれん」

 どうやらかなりクセの強い人物らしく、長年付き合いのあるアルダリでないと難しい案件らしい。

「イヴァン、大丈夫だから」

 兄を睨んでいるイヴァンを、どうどうとなだめる。

「仕事なんだからしょうがないじゃん。俺、行くよ。サッと行ってすぐに帰ってくるから」

 イヴァンを安心させようと笑顔で言う俺に、アルダリもできるだけ早く帰ることを約束する。

「……分かった」

「本当か? 助かる」

 礼を言うアルダリに不服そうな顔を向けたイヴァンだったが、行くぞと俺の腕を引き、自室へと足を進めた。


「んッ……!」

 部屋に入り、扉を閉めたと同時にイヴァンが俺の顎を掴んでキスをする。

 突然のことに驚くが、イヴァンはさらに口づけを深くしていく。

 くちゅ……

 水音とリップ音が部屋に響き、頭がくらくらする。

 まだ部屋の扉の前だ。こんな場所でキスなんて……

 恥ずかしくなり、唇を離してイヴァンの胸を押した。

「イヴァン……ッ、」

「今回は行かせるが、次はない」

 視察のことを言っているのだろう。

 俺が仕事を手伝い始めたばかりの頃、イヴァンは家族に約束をさせた。それは、俺が視察に行くのはイヴァンがいる場合のみ、というものだ。

 それに関しては家族も納得しており、俺は今までイヴァン抜きで町を出たことはなかった。しかし、俺が計算が得意であると分かると、アルダリ達はこの町の中のみだが、時々俺を仕事の場へ連れ出した。

 イヴァンはそれも良しとはしていなかったが、あくまで町内での仕事であり視察ではないため黙認していた。

 しかし、今回の件はさすがに約束を違えると判断したらしい。

「イヴァン、すぐに帰ってくるからね」

 努めて穏やかに言うが、イヴァンはまだ怒りが収まっていないようだ。

「怒ってるの? 機嫌直して」

「……俺の好きなようにしていいなら許す」

 黙って俺を抱きしめていたイヴァンだったが、急に耳元でそう囁いた。

「え。い、いま?」

「そうだ」

 今はちょうど日が暮れだした時間帯。

 部屋に差し込むオレンジの光が俺達の顔を照らしている。

「素直に言うことを聞いたんだ。ご褒美があってもいいだろう」

 そう言われると、約束を破った俺とアルダリが悪くて、イヴァンは我慢をしているという構図になり、気持ちが落ち着かない。

 俺は、これで自身の罪悪感が減るのなら……と、イヴァンの言い分を受け入れた。


(※次回、性的描写が入る為、エピソード非公開にしています。)

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