第3話 ホテル
その後、城で別の用事を済ませたイヴァン達と、ホテルに着いた彼らの父と合流し家族五人でレストランに向かう。
店への道中、イヴァンが今日のダンス練習について尋ねてくる。
「アサヒ、踊りはどうだった?」
「うん、大丈夫そうだよ。皆も凄く上手だったし、本番までには完璧になると思う」
自分の位置もしっかり最後列の端だったことを伝えると、イヴァンが頭を撫でてきた。
「衣装は確認したか?」
「えっと……と、当日のお楽しみ!」
「そうよ兄さん! 衣装に関しては毎年本番まで誰にも見せないことになってるじゃない! でも安心して。布面積はグッと増えてたわ!」
俺がごまかそうとすると、ルーサが会話に入ってきた。
当初の予定では、男性の衣装はズボンのみで、上半身は裸の予定であり、ルーサの言葉は間違っていない。
「そうか、分かった……」
俺達の気迫に押されたのか、イヴァンはそう返事をし、それ以上は何も聞いてこなかった。
家族での食事を終えてホテルへ戻る。
「息子よ、ほどほどにな」
ホテルに着いて別の部屋へと別れる際、アルダリが俺の肩をポンと叩く。
「何が?」
「ホテルに泊まって何もないということは無いだろ。明日も練習だから、支障が出ないようにしろよ」
「な……ッ、」
アルダリの言葉に赤面する。
「はは、じゃあまた明日な」
笑いながら去っていく俺の父……アルダリの背中を見送ると、俺達も部屋へと帰った。
「このホテル、凄く素敵だね」
白と青で統一されリゾート感が溢れる部屋を見渡す。
二人分の上着をハンガーに掛けていたイヴァンは、俺の言葉にフッと笑った。
「アサヒが気に入ったなら良かった」
イヴァンはそのまま近づき、後ろから俺を抱きしめ顔を覗き込んでくる。
口付けしろと言いたげな顔にキスをすると、腕にぎゅっと力を込めてきた。
「景色もいいぞ」
「一緒に見よ」
そのまま、俺が手を引き窓辺にイヴァンを座らせ、その隣にくっつくように座る。
それからは窓からの景色を見ながら他愛もない会話を楽しんでいたが、ふと疑問に思っていたことを尋ねる。
「あのさ、これって『約束』って意味?」
イヴァンの指の間に自分の指を差し込み、所謂恋人繋ぎをした。
「ああ。普通は向かい合ってやるがな」
そう言って俺の前に移動すると、片手を胸元まで上げ俺の手を握ってきた。
今日ハンナが俺にやったポーズと同じである。
「あ、どの地域でも同じなんだ」
国全体がそうなのだろうかと考えていると、イヴァンが低い声を出す。
「他の者と、これをしたのか?」
「あ……」
俺の馬鹿……そう思ってもすでに遅い。
「誰とだ?」
穏やかな声で聞いてくるイヴァンだが、その目は笑っていない。結局、根掘り葉掘り今日の出来事を聞かれ、俺は衣装の件以外、全てをイヴァンに話した。
「イヴァン……俺、明日も踊らないといけないんだけど」
「だから抱かないと言っているだろ。少し触るだけだ」
一か月近くキス以外はしていない俺達。
練習で疲れて寝てしまう俺に文句も言わず、毎日我慢していた恋人を思うと心が痛む。しかし、明日に響かないか心配なのも事実だ。
「だ、駄目だって……」
昨夜までは一緒に寝ていても手を出さなかったイヴァンだが、今は限界のようでベッドの中にある俺の身体に手を這わせている。
「他の男はアサヒに触れるのに、なぜ俺は駄目なんだ?」
先ほど説明したハンナの事を言っているようだ。
少し拗ねた口調でイヴァンが俺を見ている。
この舞台がどれだけ大切かはイヴァンも理解しているだろうし、うーん……ただ触るだけならいいのかな。
「本当に少しだけなら」
俺は小さい声で呟いた。
(※次回、性的描写が入る為、エピソード非公開にしています。)
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