06.Moonstone





「今月は『恋の予感』の"ムーンストーン"。

……ちゅうことで、今日の会場は店の屋上です」



「こんな勝手なことして、叱られないの?」



「大丈夫っすよ。このビル自体、オーナーのやし。

どうせ今夜も、お客さんは麗子さんだけやし」



「そう。……それにしても、素敵な眺めね」



「んー。満月やけど、やっぱ月見にはまだ早いなぁ」



「でも粋じゃない。苺のカクテルなんて」



「あ、気付きました?

6月の満月『ストロベリームーン』っていうらしいですね。

だから今日のは、"ストロベリー・フィールド"。」



「意外とロマンを重んじるわよね、君」



「え!『恋の予感』ですか?」



「そうね。もうちょっと頑張れば、

他の女の子がほっとかなくなると思うけど」



「あ、まだ頑張らなあかんのや。

ほんで興味ないっすよ、そんなん」



「じゃあ、どうしてバーテンダーに?」



「え。俺、モテたくてやってると思われてた?」



「違うの?」



「全然ちゃいますよ…………。

えーっと……まあ、元々酒好きやったのもあるし。

そんで……ツテがあって、とゆーか…………」



「なあに?歯切れ悪いのね」



「……オーナーが、その……兄貴なんで……」



「へえ、そうだったの。お兄さん、おいくつ?」



「えー、俺の5コ上なんで……31っすね」



「どんな方?君と似てる?」



「もうええんちゃいます?この話」



「だって、なんだか興味あるもの」



「……紹介しませんよ?」



「あら。

私、これでも一応、恥のない生き方をしてきたつもりだけど」



「ちゃいますよ。

……自信ないのは俺の方です」



「どうして?」



「だって……。

兄貴、頭も要領もええし……見た目もええし。

……そのくせまだ独身やし。やから……」



「つまり、私が靡かないか心配なの?」



「う……そうですけど」



「ふふ。試してみる?

『恋の予感』っていうものを」



「ぜっっっっったい、嫌」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る