Gimlet

哀しき豆腐メンタル

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5





「いらっしゃいませ………

って、今日もアナタですか」



「こんばんは。

今日も今日とて寂しい店ね」



「週末は賑わうんですけどねぇ。

アナタがこーへんだけで。

……いつものですか?」



「そう。あの、味のない"ギムレット"」



「そない文句言うなら、

別のんにしはったらどうですか」



「褒めてるのよ。あの丁度良い薄さ。

神がかってるとしか思えない」



「……今度ベース抜いてみたろかな。

はい、どーぞ」



「知ってる?今日でちょうど1年」



「え、うそやん。もうそんな経ちますか」



「記念に、私がこのbarにたどり着いた話でもしようか」



「いや、十分聞いたんでもうええです。

3年付きおうた彼氏に捨てられて、

この街に逃げてきたなんて話」



「そうそう。

でも、どうしたって虚しくて。

酔い潰れるためにドアを開けたのに。

この儚い薄味が、それすらも許してくれなかったの」



「擦りすぎて、なんの記念にもならんな」



「ここに来ると、いつも君が居たわ」



「だから。俺しかおらへんのですって。

ワンオペ店長なんでね。……雇われやけど」



「ほんと、いつまでも洗練されないのね。

普通は『マスター』って言うんじゃないの?」



「俺に似合わんでしょ。そんな小洒落た肩書き」



「で?恋人とはどう?」



「恋人ちゃうって言うてるやないですか。

………まだ」



「諦め悪いね、君も」



「それはアナタでしょ。

いま飲んでるソレ、もはや鎖やん」



「痛いなあ。もうちょっと気遣ったりできない?」



「そんなん求めてないくせに」



「嘘。

本当はわかってるよ。

このグラスに入ってる優しさ」



「………さいですか。

他のん頼む気になったら言うてください。

おすすめは"ブルー・バード"」



「もちろん。そんな日が来たらね」



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