第26話 ダイニングルーム(4)
「勝則が起きてこないのは仕方がないとして、沙耶を呼んできなさい」と達也。
「それはできないわ」と伽耶。
「なぜだ?」と達也。
「私が食べ終わったら、沙耶と交代するわ」と伽耶。「兄さんを一人にできないから。」
「本当に子供扱いだな」と達也。
「勝則の体はそんなにひどいの?」と真知子。「病院に連れて行かなくてもいいの?」
「ただ疲れてるだけよ」と伽耶。
「なら一人で寝かせておけ」と達也。
「それはできないわ」と伽耶。
「なぜだ?」と達也。「わかるように説明しなさい。」
「放っておいたら、兄さんはまた出ていくわ」と伽耶。
「どこに出ていくんだ?」と達也。「行く当てなんてないだろう?」
「行先があるから出ていくんじゃないわ」と伽耶。「居たくないから出ていくのよ。」
「あいつはお前たちがいるなら出て行かない、と言ってただろう」と達也。
「どうかしら」と伽耶。「自分の居場所がないって感じたら、きっと出て行くわ。」
「お前たちがいてもか?」と達也。
「ええ。ちゃんと側にいなければ、また不安になって出ていくはずよ」と伽耶。
「何が不安なんだ?」と達也。
「誰からも好かれてないっていう不安よ」と伽耶。
「あいつはお前たちのことが好きなんだろう?」と達也。
「どうかしら」と伽耶。「おそらく、今のところはそうかもしれない。でも少しでも疑問を持たれたら終わりよ。」
「あいつに疑われないように、そばについてるのか?」と達也。「過保護にもほどがある。」
「兄さんが出て行って、どこかで野垂れ死にしても、そう言えるかしら」と伽耶。
「死ぬまでには見つかるよ」と達也。
「それで戻ってきたとしても、兄さんはもう二度とこの家族の一員にはならないわ」と伽耶。
「心配し過ぎだろう」と達也。「あいつはそういう年頃なんだよ。男子には家族と話したがらない時期があるんだ。」
「そんなのじゃないと思うわ」と伽耶。「このまま放っておいたら、子供のころの陽気な兄さんに戻るのかしら。」
「もどらないだろう」と達也。「それが大人になるということだ。」
「不愉快な話だわ」と伽耶。「父さんと母さんは一生嫌われていればいいわ。私たちはお断りよ。」
「少し大げさじゃないかしら」と真知子。「一生嫌われるなんて。」
「そうかしら」と伽耶。「私には母さんが兄さんと楽しくしゃべっている場面を想像できないわ。」
「時間がたてば分かってくれるはずよ」と真知子。
「何を分かるの?」と伽耶。
「誤解よ」と真知子。「私たちが勝則を嫌っているという。」
「そう」と伽耶。「母さんは好きなだけ時間が経つのを待てばいいわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます